初任給の額で企業の採用選考に応募するかを決める学生が増えていることが、就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年9月12日に発表した「マイナビ2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(8月)」でわかった。
「初任給の額が本選考の応募に影響する」と答えた学生が年々増えて、今年(2024年)は約9割にのぼった。「最低限ほしい額」も「26万円以上」が2年間で2倍以上に増えている。
いくら売り手市場とはいえ、調子に乗りすぎ? 調査をまとめたマイナビの服部幸佑さんに聞いた。
4人に1人「初任給額、最低限25万円以上ほしい」
マイナビの調査(2024年8月20日~31日)は、2026年3月卒業見込みの大学生1905人(男子710人、女子1195人)が対象だ。
就職活動を想像し、「初任給」の額が企業の本選考応募に影響するかを聞くと、約9割(87.1%)が「影響する」と答えた。2年先輩の2024年卒は81.5%だったから、年々初任給を意識する割合が高まっている。また、「非常に影響する」と答えた割合が、2年間で3割以上増えたのが特徴だ【図表1】。
次に、最低限ほしい初任給の額を聞くと、「20~21万円未満」が18.2%で前年同様に最多だったが、前年比で6.2ポイント減少した。一方、「22万円以上」を希望する割合が63.0%と、前年よりも13.8ポイント増え、全体として最低限ほしい初任給の額が年々上がっている。
なかでも、26万円以上を希望する割合が13.8%と、2年前の6.1%の2倍以上に急増しているのが目立つ【図表2】。
マイナビでは、「昨今の物価高など経済不安の影響で、学生が経済的に安定を得られると考える金額が徐々に上がっている」と分析している。
初任給の高さと同時に、ほかの条件とのバランスも考慮
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったマイナビのキャリアリサーチラボ研究員服部幸佑さんに話を聞いた。
――参考までに、民間シンクタンク・出版社の産労総合研究所「賃金事情」編集部が24年4月に発表した「2024年度決定初任給調査」によると、今年4月入社者(大学卒)の平均初任給は22万6341円です。最高が23万6509円、最低が21万2639円。
それを考えると、「最低限22万円以上ほしい」という学生が多いことは理解できますが、ここ数年の学生の初任給希望状況はどう変わっていますか。
服部幸佑さん 2年前の24年卒から「仕事内容やほかの条件と比較して『初任給』の額が応募に影響するか」と「就職する際、最低限ほしいと思う初任給の額はどれぐらいか」を聞いています。
【図表1】のとおり、「初任給の額が応募に影響する」と答えた学生の割合が年々高くなっています。最低限ほしい初任給の額も、「25万円以上」と「26万円以上」がともに2倍以上に上がる結果になりました。
とはいえ、25年卒の調査では、「就職先を検討する際、初任給の金額にどの程度こだわるか」とも聞いています。すると、半数(46.8%)が「平均的な金額であれば、ほかの条件が希望通りであることを優先する」と答えました。初任給が高いこと自体は望ましいと受け止めつつ、同時にほかの条件とのバランスも考慮している様子がうかがえます。
――なるほど。必ずしも「初任給オンリー」ではないということですか。
服部幸佑さん ただ、25年卒の調査では就職活動に影響したニュースワードで「初任給アップ」が1位になっています。大幅な賃上げが話題になった年ですから、学生の自由回答によると「不景気だからこそ、少しでも給料のよい会社に行きたいという気持ちが強くなった」とありました。
企業選択のポイントとして「給料がいい」が23年卒で19.1%、24年卒で21.4%、25年卒で23.6%と3年連続で増加しています。
将来不安を考えると「最低限これぐらいあれば、安定して生活できる」水準
――それにしても、初任給の額が応募に影響する割合が年々上昇しています。特に「非常に影響する」と答えた人が3割を超えました。こうした傾向をどう分析しますか。
服部幸佑さん 背景としては、物価高や社会保険料の引き上げ、コロナ禍の景気減退の経験による将来への不安があると考えられます。
また、昨今では売り手市場で人材不足の問題が出てきています。これにより企業も初任給の引き上げを行っているなかで、学生もより条件のよいところへの就職を希望しているのではないかと思います。
――しかし、最低限ほしい初任給の額が年々増加し、「26万円以上」が2年間で2倍以上増え、「25万円以上」が約4人に1人となると、個人的には、「さすがに、ちょっと高望みしすぎでは」と言いたくなります。
新卒採用の初任給アップに人件費をさく分、ミドル層の人件費が減らされる企業が少なくないと聞きます。学生たちはどう考えているのでしょうか。
服部幸佑さん 昨今の物価高やコロナによる将来不安を経験している学生からすると、社会人になった自分自身をイメージした時に「最低限これぐらいあれば、安定して生活できる」と考える基準が高くなってきているのではないかと考えられます。
また、最近の学生は貯蓄や資産形成などお金に関する意識が非常に高いです。マイナビの最新の調査(2024年8月)によると、社会人になった際の投資意欲について、6割以上が前向きに考えており、社会人になったら「将来のために貯蓄する」と答えた人が7割近くに達しました。
将来的にも終身雇用がなくなるといわれているなかで、学生の時から資産形成を視野に入れて、給料で貯金ができる余裕があるのかを考える傾向が強いのではないでしょうか。
学生は、初任給以外の軸でもキャリアを判断ができるようになってほしい
――初任給アップは、どの程度、企業の負担になっているのでしょうか。
服部幸佑さん 一部では、初任給アップのしわ寄せが中間層にきている企業があるかもしれませんが、「マイナビ2025年卒企業新卒採用活動調査」(24年7月)によると、「(初任給アップによって)人件費の負担が増え、経営を圧迫した」と回答した企業は4.1%、「既存社員の給与とのバランスが崩れて、社員のモチベーションが下がった」と回答した企業は3.3%だけです。
学生が高い初任給を得たいから企業が初任給を引き上げたのではなく、世の中の流れとして賃上げ機運が高まっているタイミングであること。さらに、物価高などの経済不安によって、初任給を多めに欲しいと考える学生が増えたことが原因の1つと考えられます。
昨今は若手の人材不足で新卒採用は売り手市場となっており、企業の魅力や仕事の魅力に加えて、条件面がより魅力的でなければ学生が集まりにくい状況になっています。
――今回の調査で特に強調しておきたいことがありますか。
服部幸佑さん 学生にとって初任給の額は非常に重要な要素だと思いますが、それだけで判断すると就職後のミスマッチにつながりかねません。
これからのキャリア形成のなかで、さまざまな視点で自身のキャリアと向き合い、初任給以外の軸でも判断ができるようになってほしいです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
服部 幸佑(はっとり・こうすけ)
株式会社マイナビ キャリアリサーチラボ研究員
転職エージェントの営業を経て、物流に関する分析業務を経験したのち2024年に中途入社。現職では主にインターンシップ・就職活動準備実態に関する調査や大学生の広報活動開始前の活動調査を担当。就活生の早期キャリア形成や企業におけるインターンシップのありかたに関心が高い。