事実上次期総理を選ぶ自民党総裁選挙が2024年9月27日に投開票される。9人が立候補、乱立状態だが、経済界は誰に総理になってほしいのか。
そんななか、東京商工リサーチが9月12日、企業に行った緊急アンケート調査を発表した。
主な主要メディアの世論調査とは異なり、高市早苗氏の支持率がダントツ1位であることがわかった。企業は高市氏のどこに期待しているのか? また意外な順位の背景は? 調査担当者に聞いた。
高市氏「経済安全保障」、石破氏「政権安定」、小泉氏「強いリーダーシップ」
東京商工リサーチの調査は(9月4~9日)、全国5921社の企業が対象だ。調査の対象の自民党候補は、調査時点では立候補の意思を表明、その後断念した青山繁晴参院議員、斎藤健経済産業相、野田聖子元総務相の3人も含まれるため、計12人となっている。
まず、各候補について「日本経済・自社ビジネスの発展に寄与すると思うのは誰か」と聞くと、トップは高市早苗経済安全保障担当相(支持率24.4%)だった。次いで、2位石破茂元幹事長(16.9%)、3位小泉進次郎元環境相(8.3%)。
意外なことに立候補しなかった青山繁晴参院議員(6.1%)が、上川陽子外相、林芳正官房長官、茂木敏充幹事長ら、現職閣僚、党実力者たちを押さえて4位に浮上。5位に小林鷹之前経済安全保障担当相(5.2%)、6位に河野太郎デジタル相(4.8%)となった【図表1】。
青山氏は元共同通信記者で、当選回数2回。党の要職や閣僚などの経験はなく、小説・エッセイを執筆、作家としても知られる。その青山氏の評価がなぜ企業の間で高いのか。
なお、「寄与すると思う人物はいない」という回答も約2割(21.7%)あった。
業界別に各候補の支持率を比較したのが【図表2】だ。
高市苗氏の回答率が最も高かったのは、不動産業(29.7%)。次いで、農・林・漁・鉱業(26.8%)、製造業(25.5%)などで、10産業中8産業でトップを制覇。2位の石破氏はトップがなく、最高が農・林・漁・鉱業(21.9%)。3位の小泉氏もトップがなく、金融・保険業(12.5%)などが目立つ程度だ。
企業は各候補のどんな能力に期待しているのか。それぞれの政策ビジョンやリーダーシップの期待度を示したのが【図表3】だ。
赤色が特に期待度が高い項目だ。高市氏は「経済安全保障政策」と「防衛政策」。石破氏は「防衛政策」と「政権を安定させる能力」。小泉氏は「政権を安定させる能力」と「業界で強いリーダーシップを発揮していること」。これらへの期待が高い。
高市氏「全業界制覇」は、保守的論客として関税など対外問題に対する期待値も
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった東京商工リサーチの情報本部情報部の櫻井浩樹さんに話を聞いた。
――高市氏がダントツ1位であることが意外です。各メディアの世論調査では、石破氏と小泉氏が1位、2位を接戦で争い、高市氏は3位もしくは4位という位置づけです。企業の間で高市氏の評価がこれほど高い理由はズバリ、なぜでしょうか。
櫻井浩樹さん 高市氏は、成長分野への投資の強化や、エネルギー・資源安全保障の強化、サイバーセキュリティ対策の強化など、企業の成長に資する政策を強くアピールしています。
経済成長を追い求める姿勢が企業からの期待値が大きいのでは、と考えています。また、保守的な論客として、関税など対外問題に対する期待値が高いかもしれません。
――それにしても、10産業の業界別データを見ると、高市氏は小売業と金融保険業以外ではダントツ1位。しかも、その小売業と金融保険業の1位は「寄与すると思う人物がいない」だから、ほぼ全産業制覇に近い。特に不動産業(約30%)では圧倒的です。これはなぜでしょうか。
櫻井浩樹さん 高市氏は、「現在と未来の生命」を守る「令和の国土強靭化計画」で、集合住宅の老朽化対策に着手するとしています。
「買取り」「改築」「管理・売却の代行」を一体的に行える制度を整えるとしていることから、不動産業からの支持が特に大きかったのかもしれません。
高市氏支持のフリーコメントでは、「宇宙開発・医療関係など日本がリードしている部門の強化に期待」(製造業、大阪府)などがありました。
河野氏失速は「自分の考えを強引に押し通す手法」
――業界別データを見ると、石破氏は農・林・漁・鉱業、ついで小売業、不動産業で強さを発揮。小泉氏は金融保険業と建設業で強さを見せています。それぞれの業界はどういう理由で、2人に期待しているのですか。
櫻井浩樹さん 石破氏は、元農林水産相で、食料安全保障と地方創生を通じて地方を守る政策を掲げています。そのため、特に、農・林・漁・鉱業からの支持が大きいのではとみています。フリーコメントでも、「石破氏さん地方創生に尽力してくれそう。」(呉服・服地小売業、新潟県)などがありました。
小泉氏は、「貯蓄から投資への歯車がようやく動き出した。今、この流れに水を差すような金融所得課税を議論するタイミングではない」と金融所得課税には否定的な考えを示しています。
若さのアピールや新自由主義的な考えが、金融保険業に受け入れられているのではないでしょうか。フリーコメントでは、「世代交代が必要である」(サービス業、岩手県)といった声がありました。
――デジタル化推進など、これまで改革路線の先頭に立ってきたイメージが強い河野氏が、小林氏より低い6位というのがちょっと意外ですが、なぜ河野氏の評価がイマイチなのでしょうか。
櫻井浩樹さん 小林氏は、元経済安全保障担当相として、中小企業の価格転嫁の取り組みを支援し、下請法を抜本改正するなどの政策で支持を集めたのかもしれません。
河野氏は、デジタル大臣として改革路線の先頭に立ってきたイメージがありますが、マイナンバーをはじめ、自分の考えを強引に押し通す、違う意見(人の意見)はブロックする、などが知れ渡ってきました。
経済の発展という切り口では印象がやや弱いのかもしれません。河野氏のフリーコメントでは、「デジタル化推進による効率化・生産性向上に期待できる」(サービス業、東京都)などがあるのですが。
青山氏驚きの4位は、自民党ではタブーの「消費税減税」
――ところで、驚きなのが立候補しなかった青山氏が、河野、茂木、上川、林氏ら政権幹部として実績のある人々を押さえて4位に浮上したことです。青山氏のどこを企業は期待していたのでしょうか。
櫻井浩樹さん 青山氏は、自民党内ではタブーである「消費税減税」を公約に掲げていました。束縛を受けない自由な発想と行動力、景気の上向きに期待が持てる点が、企業からの支持を一定数集めたのではと考えております。
――なるほど。現在、各候補たちは経済政策についてさまざまな論戦を交わしていますが、企業はどこに注目・期待していると思いますか。また、あなた自身は調査担当者としてどこに注目・期待していますか。
櫻井浩樹さん 企業は、中小企業向けの政策や賃上げ、減税などに注目しているようです。実際に、アンケートのフリーコメント欄でも中小企業向け支援や賃上げ、減税等に関わるコメントが多く、注目度が高くなっています。
私自身は、中小企業向け政策もさることながら、一消費者として物価高対策等にも注目しています。
――今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。
櫻井浩樹さん 今回調査は「日本経済・ビジネスの発展に寄与するのは誰か」という切り口で実施しました。9人の立候補者の強み、期待値が、企業からどのように見られているか、忖度なしで知る機会になったと思います。
一方で、抱えている課題は経済政策以外にも多岐にわたりますので、各候補者の政策全般について注視したいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)