選挙期間中の自民党総裁選(2024年9月12日告示、27日投開票)は、「政治・選挙制度改革」もテーマのひとつだ。新首相による組閣後に行われるとみられる衆院総選挙においても争点となるだろう。
しかし、候補者9人や党本部の動きを見る限り、その点においては、あまり大きな改革が望めないように思える。筆者は以前、地方選挙に出馬し、いわゆる「泡沫(ほうまつ)候補」として落選した経験がある。その立場から、「なぜ改革を期待できないのか」を紐解いていきたい。
「ヨーイドン」の体裁すら作れない
ここ最近の自民党低調の背景には、間違いなく派閥政治によるキックバック・裏金問題がある。総裁選では「該当議員を次期選挙で公認するか」といった目先の話から、河野太郎デジタル相が「被選挙権の18歳引き下げ」や、オンライン・タブレット投票の導入を掲げたり、小泉進次郎元環境相が政策活動費の廃止を訴えたりなど、選挙・政治制度そのものの改革提言も珍しくない。
しかし、筆者は論戦以前に「これじゃ選挙制度改革は実現しないな」と感じた。告示前に行われる、いわゆる「事前活動」に制限がかかっていなかったからだ。たとえば、有力とされる候補陣営でも、出馬表明会見と政策説明会見の両方を、告示前に行っていた。
これに対して公職選挙法では、立候補が受理される前に、当選を目的として行われる活動を禁じている。そのため、ベテランも新人も「ヨーイドン」で一斉に走り出す(体裁をとる)ことで、ひとまず名目上はフェアな選挙となる。
自民党総裁選は、あくまで党内選挙であり、公職選挙法に縛られない。ただ今回は、金権政治のイメージを避けるべく「カネのかからない選挙」として、パンフレットの郵送や、自動音声電話などに制限をかけている。そう考えると、政治不信のもとで「刷新感」を示すのなら、スタートラインは同一にすべきだったと感じるのだ。
告示前に「政治活動」でアピールできなかった事情
筆者はネットニュース記者から独立後、23年春の統一地方選挙に、生まれ育った街で立候補した。「しがらみなく、オリジナリティーある政策を打ち出したい」と、国政政党には所属せず、自ら立ち上げた政治団体(いわゆる諸派)から挑んだが、結果は最下位落選者から2番目の惨敗だった。
敗因は明確で、圧倒的な知名度不足だ。告示後わずか7日間(筆者が出た東京23区議選の場合)で、無名の人物が新たに得られる知名度は、たかが知れている。いくつかの陣営は、「事前運動」と、平時から行える「政治活動」の線引きが明確でないことに目をつけて、文言を工夫しながら、告示のかなり前から後者の名目でアピールしていた。とはいえ、もし厳密に公選法が適用されていれば、ハテナが浮かぶものも中にはあった。
しかし私には、それができなかった。「政治色」が好まれない本業(ライター)ゆえ、出馬表明をした瞬間に、開票日までの仕事がなくなるからだ。筆者は若干特殊な事情だが、勤務先や家庭との折り合いで、告示直前まで表立った活動ができない志願者は珍しくない。
いま訴えるべきは、労働市場よりも「政界人材の流動性」
いま国民が求めているのは、公選法や政治資金規正法改正による「クリーンな政治」への転換ではないか。そのためには、あらゆる業界で知見を培った人物が、議員をキャリアパスの選択肢に加え、気軽に「出てみようか」と挑める土壌づくりが欠かせない。
しかし、永田町の常識は、世間では非常識だ。政党候補の場合は、公募への応募から、選考・公認を経て、街頭演説やチラシのポスティングを行い、ようやく本番を迎える。この構造を変えられるのは政権与党だけだが、積極的なようには感じられない。当選を重ねた為政者たちは、従来型の選挙しか経験していないからだ。そこには関連ビジネスも絡み、既得権がはびこっている。
本来ならば、裏金は枝葉の話でしかなく、問われているのは「政治家のあり方」だろう。政治システムを抜本的に見直さない限り、また権力構造が汚職の温床になる。刷新感とやらを打ち出したいのなら、いま各候補が訴えるべきは、「労働市場の流動性」よりも「政界人材の流動性」なのではないか。
【プロフィール】
城戸 譲(きど・ゆずる)
ネットメディア研究家 コラムニスト
1988年生まれ。2013年ジェイ・キャスト入社後、Jタウンネット編集長、J-CASTニュース副編集長などを経て、22年に独立。東京都杉並区出身で、23年の同区議選に落選。「炎上ウォッチャー」としての執筆をメインに、政治経済からエンタメまで、幅広くネットウォッチしている。