「企業に忠誠誓い、バリバリ働く」は昭和ホワイトカラーの価値観
――なるほど。ところで、FIRE以外の理由では何が考えられますか。
金本麻里さん 先が読めないという日本社会への暗い見通しがあります。高校生でさえ、「将来が暗い」という子が増えています。NHK放送文化研究所が2022年に実施した意識調査によると、「日本の将来は暗い」が8割弱、「自分の将来に期待できない」が4割弱います。
職場でも、AIによって仕事が奪われてしまうのではないか、不安を感じる人も多いです。若手が「キャリア自律」を迫られるなか、企業で働いていても、成長実感がなく、具体的なキャリアを描けない。将来が見えない不安があれば、転職や起業、好きな道を探すなど、自分からアクティブに状況を変えることが大切ですが、逆に無気力や保守的な現状維持志向になる人がいます。
「今の仕事は好きではないから早期リタイアしたい」と安易に考えるのは、将来が見えない不安から「早く逃げ切りたい」と思うのかもしれません。
――いろいろと複合的な背景があるのですね。
金本麻里さん もう1つ大きな理由に、共働き家庭が増えていることや、婚姻率が低下していることが挙げられます。
出産後も働き続ける妻が7割以上になりました。夫婦とも高収入の「パワーカップル」も増えています。男性だけが家計を支える時代ではありません。
その一方で、結婚しない男性が多くなりました。独身者は、子あり世帯に比べれば支出が少ないので、十分な世帯収入を元手に資産を増やせば、男性ばかりが高齢まで働き続ける必要はないと考える若手男性が増えるのは、当然と言えるでしょう。
――しかし、理由の1位が「働くことが好きではない」とあるのが個人的には納得できません。私は現在70代、50年間働いてきましたが、正直、「それを言っちゃあ~、お終いよ」という思いです。仕事にやりがい、生きがいをもってガンガン働いてきました。
栄養ドリンク剤のテレビCMの「24時間戦えますか」(1989年)が心に響く世代です。なぜ、仕事にやりがいを見つけようとしないのか。たとえ、仕事が好きでなくても、一生懸命働くのがビジネスパーソンではないでしょうか。
金本麻里さん 「24時間戦えますか」はバブル全盛期のフレーズですね。しかし、企業に忠誠をつくし、「企業戦士」として全力で働くというのは、日本ではホワイトカラーが増えた昭和の成長期になってから主流になった価値観です。歴史的にみれば、特殊な時代の意識です。
もともと仕事をするのは、「生きるため」「食べるため」「お金を稼ぐため」だったはず。日本でも農業従事者や工場労働者が中心だった時代は、そういう考え方が主流でした。1人あたりのGDPが低い発展途上国では、現在でも「生きるため」に働いている人がたくさんいます。
<「仕事が好きでない」早期リタイア希望20~30代男性急増 「投資で稼いで好きな生き方したい」と言うが...大丈夫?(2)/パーソル総合研究所・金本麻里さん>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
金本 麻里(かねもと・まり)
パーソル総合研究所シンクタンク本部研究員
東京大学大学院総合文化研究科修了。総合コンサルティングファームに勤務後、人・組織に対する興味・関心から人事サービス提供会社に転職。適性検査やストレスチェックの開発・分析報告業務に従事。調査・研究活動を通じて、人・組織に関する社会課題解決の一翼を担いたいと考え、2020年1月より現職。
専門分野:職場のメンタルヘルス、アセスメント・サーベイ開発、障害者雇用。産業カウンセラー、日本感情心理学会所属
主なリポートに「職場の精神障害のある人へのナチュラルサポートの必要性 ~受け入れ成功職場の上司・同僚の特徴から~」「ミドル・シニア就業者の趣味の学習実態と学び直しへの活用法」「ハラスメント被害者の泣き寝入りと離職の実態」「仕事における幸福(Well-being)の状況~世界各国の『はたらいて、笑おう。』調査データから見る~」など。