雑誌や本づくりの出版社が倒産ラッシュの苦境に立たされていることが、帝国データバンクが2024年9月8日に発表した「出版社」の倒産・休廃業解散動向(2024年1~8月)で明らかになった。
その一方で、「漫画」がメインの一部の大手出版社は、我が世の春を謳歌している。
そんな大手に負けずに頑張っている地方の出版社もある。雑誌、出版界はどこに行くのか。調査担当者に聞いた。
『ポポロ』や『JELLY』、『声優アニメディア』が休刊
帝国データバンクの調査によると、2024年1~8月に発生した出版社の倒産(負債1000万円以上、法的整理)と廃業は46件に達し、2024年通年では過去5年間で最多となる可能性がある【図表1】。
2023年度の出版社の業績は「赤字」が36.2%を占め、過去20年で最大となったほか、減益を含めた「業績悪化」の出版社が6割を超えた【図表2】。
2024年は有名雑誌の休刊・廃刊が相次いだ。月刊芸能誌『ポポロ』をはじめ、女性ファッション誌『JELLY』や、アニメ声優誌『声優アニメディア』などが休刊を発表。日本の伝統文化や芸能関係の話題を世界に紹介する国内唯一の英文月刊誌『Eye-Ai』を発刊していたリバーフィールド社が、今年4月に破産した。
雑誌購読者の高齢化に加え、若者層では電子書籍の普及やネット専業メディアが台頭し、紙の雑誌・書籍の売り上げが1996年をピークに減少し続けていることが響いている。
スマホで1400誌の雑誌を、月額580円で読み放題
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。
――人気雑誌が休刊ラッシュの苦境と指摘していますが、ズバリ、一番大きな理由は何でしょうか。
飯島大介さん 身もふたもない言い方になりますが、紙の雑誌が読まれなくなったためです。それには理由があって、インターネットメディアの台頭が大きい。雑誌がオンラインで配信され、タダで読めるようになりました。
最近は、1400誌を超える最新の人気雑誌が月額580円(税込)で読み放題という「dマガジン」もあらわれました。1冊数百円で雑誌を買う時代ではなく、月額数百円を出して、スマホであらゆる雑誌を読む時代です。
雑誌が売れなくなれば、広告が入らないから制作費にお金がかけられず、面白くなくなる......。ますます売れなくなり、広告が入らない......。果てしない悪循環が続きます。
――30代以上の女性に聞くと、かつてはファッション誌にカリスマモデルがいて、「彼女たちのようにキレイになりたい」とよく女性誌を買ったものですけれども、今の若い女性はインスタを見ると言います。
飯島大介さん 『Seventeen(セブンティーン)』の鈴木えみさん、北川景子さん、『JJ』の滝沢カレンさん、『CanCam』の蛯原友里さんといった人気モデルたちが誌面を彩りましたが、『Seventeen』は冬季ごとの発行、『JJ』は休刊になってしまいました。
就活生就職人気企業10位に、大手出版社4社がランクイン
――ただし、出版不況といいますが、超大手出版社は非常に景気がよくて就活大学生にも大人気です。就職支援サービスの学情が2023年12月に発表した2025年卒学生対象の「就職人気企業ランキング」では、上位10社の2位に講談社、3位に集英社、7位にKADOKAWA、9位に小学館と、出版社が4社も入りました。
出版社がトップ10に4社入ったのは2001年卒ランキング以来初めてだそうです。電子コミックや動画、ゲームなどコンテンツを提供する出版企業が、デジタルネイティブである学生から支持を集めたとされています。
飯島大介さん たしかに「漫画雑誌」を持つ大手出版4社は、軒並み1000億円以上の売り上げを出して好調です。ただ、漫画雑誌そのものは制作時には赤字と言われます。それぞれの雑誌には多くの作品が掲載され、いわばショーウィンドーの陳列ケースの役割を果たします。各作品が単行本になった時に初めて黒字になるのです。
その後は、作品ごとに電子コミックになったり、アニメになったり、テレビドラマや映画の原作になったり、ゲームになったり、いわば莫大な「版権ビジネス」で稼ぐのです。
漫画作品は、こうしたビジネスの試金石の役割を果たします。本当に作品として世に出したかったものなのか。その点は、ビジネスとして割り切って漫画雑誌や単行本を作っているといえるでしょう。
ゾンビに追われながら、着回し術を考える超個性派の女性誌
――リポートでは、雑誌が苦境に立たされるなか、「特色のあるテーマや編集スタイルで業績を伸ばす雑誌や出版社もある」と指摘していますが、具体的にはどんな雑誌、出版社をいうのですか。
飯島大介さん たとえば、政治家や大物芸能人のスキャンダルを暴く「文春砲」の『週刊文春』や、芸能界隈に独特の存在感を放つ『フライデー』などがあります。
光文社の女性誌『CLASSY(クラッシー)』は今年(2024年)春、アラサー女子が大量発生したゾンビに追いかけられながら、毎日の洋服のコーディネートを考える......。そんな、突拍子もないストーリー設定の着回し術を誌面で展開して、SNS上で話題沸騰になりました。
毎号主人公の設定が異なり、「日本沈没の危機を知り奮闘する内閣府の特任防災アドバイザー女子」「左遷人事を契機に転職活動に奮闘する会社員女子」「雪山で事件に遭遇する推理小説家女子」など、どれも独特です。
――それは、ユニークですね(笑)。
飯島大介さん それと、兵庫県明石市にあるライツ社(大塚啓志郎社長)という小さな出版社も頑張っています。社員は6人だけ。「write」「right」「light」という「書く力で、まっすぐに、照らす」を合言葉に、ジャンルにとらわれず、自分たちが本当に面白いと思う本だけを出版しています。小回りが利かない大手にはできない、「かゆいところに手が届く」本づくりです。
たとえば、30万部を突破した『リュウジ式至高のレシピ』や、18万部に達した『認知症世界の歩き方』などヒット作を連発、重版率が7割という快進撃を続け、社員1人当たりの売上高は業界2位のKADOKAWAに匹敵するといわれています。
――いい話じゃないですか! これから雑誌や出版社が生き残るには何が一番大切だと思いますか。
飯島大介さん インターネットでも読める時代だからこそ、自分の立ち位置をハッキリと見定めて、本当に個性的な雑誌作り、本づくりをするところが読者に受け入れられて、伸びていくと信じています。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)