やはり、企業の経営者は若いほうがいいのだろうか。
東京商工リサーチが2024年8月29日に発表した「『代表者の年代別財務分析』調査」によると、経営者が高齢になるほど赤字企業が増えることがわかった。
ところが、それは国内企業の99%を占める中小企業の話で、大企業では逆に高齢になるほど黒字企業が増え、なんと80代以上の経営者の黒字率が最高だという。
いったいどうなっているのか。調査担当者に聞いた。
金融・保険業は80代の黒字率がダントツに高い
東京商工リサーチの調査は、財務データを保有する20万7526社について、2023年度(2023年4月期~2024年3月期)の黒字企業率などを代表者の年齢別で算出した。
その結果、全体の黒字企業率トップは、40歳代の78.7%。次いで40歳未満が78.2%、50歳代が77.6%と続き、60歳未満が上位を占めた。最も年齢が高い80歳以上では68.8%と唯一、7割を下回った。
代表者の年齢が高くなるほど赤字になる企業の割合が高くなるわけだ【図表1】。
ところが、企業の規模別でみると、まったく逆の結果となった。
資本金1億円以上の大企業では、80歳以上の黒字企業率が90.5%でトップになり、年齢が高いほど黒字企業率が高い傾向が表れた。
一方、資本金1000万円以上1億円未満は40歳代の81.6%、同1000万円未満・個人企業他では40歳未満の72.2%が、それぞれ黒字企業率の最大となった。
中小・零細企業では代表者の年齢が若いほど黒字企業率が高く、大企業とは対照的な結果となった【図表2】。
この理由について東京商工リサーチでは、
「資本金1億円以上の大企業は、日本を代表する老舗企業が多い。経営基盤が整っていることや、長きにわたり統率をとってきた経験値の差が表れている可能性がある」
と説明している。
産業別にみると、さらに興味深い結果が表れた。
【図表3】が産業別にみた代表者の年齢別の黒字率を比較したグラフと表だが、金融・保険業だけで80歳以上がダントツに高いことがわかる。
また、情報通信業も60歳~80歳以上で黒字率が非常に高い。ほかの業界では、高齢になるほど右肩下がりに黒字率が下がるため、この2つの業界が非常に目立つ。
ところで、経営が安定している優良企業を判断する目安として、経常利益率がある。経常利益率が高い企業ほど、万が一本業が傾いても倒産するリスクが低いといわれる。
【図表4】は、代表者の年齢別に経常利益率(中央値)の推移を見た表だ。これをみると、最新の2023年のデータでは、代表者が若いほど経常利益率は高い傾向がはっきり出ている。
大企業は、周囲のメンバーの経験値・判断能力も高い
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった東京商工リサーチ情報部の担当者に話を聞いた。
――大企業は、中小企業とは逆に、代表者の年齢が高くなるほど黒字企業率が高く、80歳以上で黒字企業率がトップになるという結果が衝撃です。理由として、経営基盤が整っていることや、長きにわたり統率をとってきた経験値の差が表れているとあります。
担当者 まず、中小企業ですが、代表者の年齢が若くなるほど黒字企業率が高くなるというよりも、代表者が高齢になるほど長期を見据えた設備投資、事業展開などの経営判断が消極的で、黒字企業率が下がることが大きいです。このため、相対的に代表者の年齢が高齢の企業よりも若い企業が高くなっているととらえています。
大企業の場合は、業歴が長く経営基盤が磐石という側面に加え、周囲のサポートメンバーの経験値・判断能力も高いことが業績につながっていると思います。
後継者候補も多く、代表者が高齢でも将来を見据えた経営計画が比較的立てやすいですが、後継者の目途が立たない中小企業では目先の課題に追われて手一杯になり、長期的な計画が立てられない状況に陥りやすいです。
――しかし、米国の巨大企業経営者では、たとえば(24年9月上旬現在)、グーグルのスンダー・ピチャイ氏(52歳)、テスラのイーロン・マスク氏(53歳)、アマゾン・ドット・コムのジェフ・ペゾフ氏(60歳)、ゼネラルモーターズ(GM)のメアリー・バーラ氏(62歳)、アップルのティム・クック氏(63歳)と、せいぜい60歳代前半までです。この違いはどこからくるのでしょうか。
担当者 アメリカの企業に関しては、今回の財務分析では触れていないので割愛させていただきたいです。一般的には、GAFAなどIT関連業種では経営者や側近が若く、交代しても若い経営者が就任するため、日本のような高齢社長が少ないのではないでしょうか。
情報通信業には高齢経営者がいい、意外な理由
――【図表3】の産業別の比較で、特に不動産業と運輸業で経営者が若いほど黒字率が高くなるのはなぜでしょうか。
担当者 不動産業や運輸業は、取引先が比較的固定されており、代表者が高齢の場合ほど、長く取引を行ってきた顧客に価格転嫁などの申し入れをしにくくなります。
一方、若い経営者の場合、付き合いが短く、顧客への取引依存度も低いため、コストアップを価格転嫁しやすいと思われます。これは老舗企業で事業承継した若い経営者でも、過去のしがらみに捕らわれず自由な発想で事業に取り組めるといったことがあると思います。
―― 一方、同じく【図表3】では、逆に金融・保険業と情報通信業で経営者の年齢が高くなるほど黒字率が高くなるのはなぜでしょうか。特に情報通信業はイノベーションが活発で、ベンチャー企業が多いイメージがあり、とても不思議です。
担当者 金融・保険業と情報通信業は、人件費アップの影響はありますが、他産業と比較して原材料などの物価高騰の影響を受けにくい産業です。
また、仕組みやインフラを作り、定額サービスを提供して継続的に収益が入る「ストック型ビジネス」の割合が高いため、代表者が高齢で業歴が長く、契約している顧客が多い企業ほど利益が確保しやすいと考えられます。
経営者が若いほど、「攻め」の経営姿勢がみられる
――なるほど。ところで、【図表4】の代表者年齢別の経常利益率の表とグラフが非常にわかりやすくて面白いです。これをみると、高齢になるほど経常利益率が右肩下がりになる傾向が明確です。
この理由は何でしょうか。ズバリ、経営者は若くて元気があるほどいいということでしょうか。
担当者 前述のとおり、高齢の経営者は長期的な設備投資や経営改善に消極的になりやすく、環境変化への対応が進みにくいことが挙げられます。
20年から23年の推移をみると、経営者が若いほどトップラインの伸びは大きい傾向がみられますので、経営者が若いほど、「攻め」の経営姿勢がみられる企業が多いと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)