街の美容室の倒産が急増している。
帝国データバンクが2024年8月29日に発表した「『美容室』の倒産動向(2024年1~8月)」によると、過去最多ペースの倒産ラッシュ状態だ。
背景には、女性のヘアスタイルの変化や、節約のためにセルフカットする人が増えている影響もあるという。調査担当者に「イマドキ美容事情」を聞いた。
女性の髪形流行が、洗髪しやすいショートカット系に
帝国データバンクの調査によると、2024年に発生した美容業(美容室)の倒産(負債1000万円以上、法的整理)は、8月までに139件。2023年の同期間に比べ約1.5倍で、年間最多だった2019年(166件)を大きく上回る勢いだ【図表1】。
背景には、新規開店が増えた競争の激化があげられる。加えて、円安や原材料高の影響によるシャンプーなど美容資材の価格高騰、スタイリストの獲得難を背景とした人件費増も追い打ちとなった。
コスト高を理由に、各美容室では施術費用を値上げしたところが多いが、利益が「不変・減少」となったケースが8割を占める。2023年度の業績を見ると、損益面で「赤字」の企業が4割に達した。
また、物価高による節約志向に加え、女性のヘアスタイル流行が洗髪しやすいショートカット系にシフトし、「カットは好調だが、パーマネントなど高単価の施術メニューが厳しい」といった声も。実際に、支出額ベースではカットに比べてパーマネントの減少が目立った【図表2】。
帝国データバンクでは、こう分析している、
「足元では、顧客離れを懸念して値上げを見送る美容室も多く、相次ぐコスト増に耐え切れない美容室で市場からの退場がさらに進む可能性がある」
独立して自分の店を持ちたい美容師多く、過当競争に
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した帝国データバンク情報統括部の飯島大介さんに話を聞いた。
――倒産急増の背景には、新規開店が増えた過当競争がありますが、そもそもなぜ新規開店が多いのでしょうか。私の最寄り駅前の商店街でも、約300メートルの小さな通りに7、8軒の美容室がひしめています。
飯島大介さん 若者の人口が減少しているのに、美容師になる人が増えているからです。厚生労働省の調査によると、昨年(2023年)現在、全国の美容師の数は約57万人。前の年より1万人以上多くなっています。
美容師の世界は徒弟制度と言われ、1人前になるまで店長の元で腕を磨きます。なかには労働環境がよくないとか、収入が悪いといった理由で飛び出す人が多いでしょう。もともと、独立して自分の店を持ちたい夢を抱いて美容師になった人が多いです。
自分が店長になり、若い美容師に自分のような苦労をさせたくない、自分の技術とアイデアで新たなヘアスタイルを提案する店を作りたいという志を持っている人が少なくありません。だから、入れ替わりがとても激しい業界です。
――赤字経営のところが4割近くあると指摘していますね。
飯島大介さん 円安や原材料高の影響を受けて、シャンプーなどの美容資材の価格が高騰しています。業務用とはいえ、シリコンシャンプーなどの高級品は輸入物が多いですから、輸送コストも上がっています。
先ほど駅前に美容室が多いと言われましたが、駅前なら地価・地代も高くなっているはず。また、最低賃金が上がっており、美容師の人件費も高くなっています。
「前髪カット」「オートシャンプー」の激安店がブーム
――女性のヘアスタイルの流行が洗髪しやすいショートカット系にシフトしたため、「安いカット」は好調だが、「高いパーマネント」が減少したという指摘が興味深いです。つまり、1回数千円以上の高い料金を使わなくなったということですね。
飯島大介さん 現在、ショートボブやウルフカットがブームになっています。「前髪カット」だけの店が増えています。最近、テレビで放映していましたが、タイムサービスの時間帯に「690円カット」のチェーン美容室が全国に1000店舗を展開しているそうです。
美容室といえば、カウンセリング、シャンプー、カット、ドライまでのフルコースサービスが当然でしたが、低料金のカットだけに絞り、客の回転率をあげて稼ぐ店が出てきました。
また、最近の若い女性は、茶髪、金髪の人が減り、自然な色のままのナチャラル志向になっています。さらに、白髪染めやヘアカラーも市販製品のクオリティーが上がったことで、美容室にまで行かず、ホームケアだけで済ませる人が増えています。
YouTube動画に氾濫、若い女性のセルフカット
――ホームケアといえば、自分で鏡を見ながら「セルフカット」する女性が増えていますね。
YouTubeやTikTokを見ると、「美容師が教える、たった5分で終わるセルフカット」とか、「ロングヘアをゴムで結んでカットしてみました」とか、「セルフカット用のハサミとスキバサミは、これがおススメ」といった動画が山のようにあふれています。
飯島大介さん これだけ物価が上がれば、食料品を削るわけにいきませんから、大きく節約するところといえば美容代になります。自分でやる人が増えることも仕方ありません。
美容室の中には、料金を安くするために、機械による「オートシャンプー」を導入したり、客自身が髪を乾かす「セルフブロー」をさせたりする店も出ています。
――今後、美容室業界はどうなるでしょうか。倒産はますます増えていきますか。
飯島大介さん 人間の髪は伸び続けますから、美容室という商売がなくなることはないでしょう。ただ、メインの客である若い世代にどうやって響くか、経営戦略を立てられない店は淘汰されていきます。
立地条件も考えたほうがいいと思います。住宅街にある店なら、何度も来てもらえるように、手の届く範囲の低料金を工夫する必要があります。都心の高級な街にある店なら、高付加価値のあるサービスをどう提供していくかにかかってきます。
いずれにしろ、倒産ラッシュが高止まりする厳しい状況が続くと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)