台風や地震などの災害情報をXなどのSNSで発信・拡散する人が増えている。
ところが、拡散した人の半数は「ニセ情報を見分ける自信がある」と言いながら、その半分は「ファクトチェックの意味知らない」ことがNTTドコモの研究機関、モバイル社会研究所(東京都千代田区)が2024年8月29日に発表した調査でわかった。
どうしたら災害時の情報の真偽を確かめることができるのか。調査した専門家に聞いた。
台風10号で拡散した「多摩川氾濫」のニセ映像
2024年8月下旬に日本列島を襲った台風10号でも偽情報が拡散した。8月30日、多摩川が氾濫してもいないのにXに「多摩川氾濫」のワードがトレンド入りした。同日付のNHKニュースなどによると、米国の洪水や5年前の台風の映像が使われ、累計200万回も閲覧されたという。
背景には、閲覧数で収益(インプレッション)を得る「インプレゾンビ」の存在があるといわれる。このため、IT企業家でもある東京都の宮坂学副知事が自らのXで「データや映像は、公式サイトの1次映像で確認するようにしてください」と呼びかけるなどした。
モバイル社会研究所の調査(2023年11月)は、全国の15歳~79歳の男女が対象。だった。
まず、Xで災害情報を発信・拡散した経験があるかと聞くと(知人へのダイレクトメッセージは除く)、約1割(9.5%)が「ある」と答えた。また、災害時のフェイクニュース・デマなど偽情報を見分ける自信があるかを聞くと、全体では「ある」と答えた人は25%だった。
Xを用いて災害情報を発信・拡散した経験の有無と、偽情報を見分ける自信の有無の関係を分析すると、興味深い結果が出た。
災害情報の発信・拡散の経験者は、半数(51%)が偽情報を見分ける自信があると答え、経験のない人より25ポイントも高かった【図表1】。
これが、Xでの発信・拡散経験が多い10~20代でみると、偽情報を見分ける自信があると答えた割合は、約6割に達する。
一方、偽情報を見分けるには「ファクトチェック」(社会に浸透している情報が事実にもとづいているかどうかを確認する行為)が必要だが、Xで災害情報を発信・拡散した経験者は、どれくらいファクトチェックを知っているのだろうか。
それを分析したのは、【図表2】だ。これを見ると、発信・拡散をしている人は、用語の理解がほかと比較して高いが、理解していない・聞いたこともない人は半数以上(52%)だった。
さらに、ニセ情報を見分ける自信があると答えた人に限り、チェックの理解を突っ込んで確かめたのが【図表3】だ。
その結果、自信があると答えた人の35%は、ファクトチェックを理解していない・聞いたこともないと答えたのだった。
発信せずに拡散だけの人は、より真偽を見分ける自信がない
こんなありさまで、災害時の情報拡散は大丈夫だろうか。J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめたモバイル社会研究所の水野一成さん(防災・子ども・シニア調査担当)に話を聞いた。
――先日の台風10号でも「多摩川氾濫」のニセ映像が拡散しました。生成AIによって米国の洪水が多摩川の洪水に簡単に加工されるようになったと指摘されていますが、この傾向は今後加速するでしょうか?
水野一成さん ご指摘の部分については、調査分析はできておりません。ただ、災害に関わらず、一般的な傾向として、より精巧な映像が生成されることで、真偽を見分けることがより困難になっていると思われます。
――Xで災害情報を発信・拡散した経験がある人は、経験のない人よりニセ情報を見分ける自信があると答えた割合が多いです。しかも、特に10~20代にその傾向が強いですが、その理由はなんでしょうか。何か根拠があって自信を持っているのでしょうか。
水野一成さん 2つに分かれると思います。1つは、ICTリテラシーが高く、そのスキルを情報元の検索(ファクトチェック)などを行っているから自信があると答えた層。もう1つは、何か根拠があるわけではなく(ファクトチェックは知らない・行わない)、日頃からSNSを多用している、普段からネット上の情報に信頼を置いている層。これらが混在していると思われます。
注目したいのが、発信はせずに拡散だけをしている人は、より真偽を見分ける自信がないということです。おそらく、友人や家族などの知人からの情報なので大丈夫と思い、拡散している人もいるのではないでしょうか。
ファクトチェック、知っていても実行しているかは別問題
――発信・拡散した経験がある人の半数以上がファクトチェックを知らないという結果が衝撃的ですね。ファクトチェックも知らないで、よく「見分ける自信がある」と言えるな、と驚いてしまいます。
水野一成さん 自信があるからといって、全員が全員、情報リテラシーが高いとは言えない実情を明らかにした1つの結果だと思います。
ファクトチェックを知らないことが、すべての問題というわけではありませんが、ファクトチェックをしているか、していないという以前に、用語を理解していない人も発信・拡散をしているのが現状です。
――ファクトチェックの理解と、災害情報の真偽を見分ける自信をすり合わせた【図表3】を見ると、見分ける自信があると答えた35%がファクトチェックの理解していないことになります。この結果をどう評価しますか。逆に言うと、6割以上が理解しているように見えますが、本当に大丈夫ですか。
水野一成さん これも、先に述べたように、自信があるからといって全員が全員、情報リテラシーが高いとは言えない実情を明らかにした結果だと思います。
また、注意しないといけないのが、理解しているからと言って、実際にファクトチェックを実行しているかは別であるということです。理解していると答えた人のなかには、実行していない人がかなり含まれている可能性もあります。
迅速な情報収集のため、地元の自治体や気象庁に登録を!
――本当に心配ですね。Xなどで災害情報を得たり、発信・拡散したりする人のためにも、ニセ映像の見分け方などファクトチェックの方法と注意点をアドバイスしてください。また、災害時の備えで、強調しておきたいことがありますか。
水野一成さん 正確で迅速な情報収集のためにも、地元の自治体や気象庁など、信頼のおける公的機関などをあらかじめ、登録(アカウント)しておくことをお勧めします。
また、拡散する際には、その情報源(一次情報)がどこであるか、確かめること。さらにその情報が古くないか(現在は情報が異なる可能性がある)も確認することが求められます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)