「阪神淡路大震災でも、東日本大震災でも、被災地で多くの人が一番に気にされているのは安否確認でした」
2024年元日をおそった能登半島地震。8月には宮崎県の日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことから、南海トラフ地震を警戒する「巨大地震注意」が発表されたことも記憶に新しい。
そうしたなか、心にとどめてほしいのが、消防士として数々の被災地で活動した、危機管理アドバイザー・野村功次郎さんが話した冒頭の言葉だ。
企業にとっても、災害発生時の初動として、従業員とその家族の安否確認は欠かせないが、トヨクモの「安否確認サービス2」は使いやすさにくわえ、導入企業を巻き込んで実施する「一斉訓練」が災害への「日頃の備え」につながると評判だ。
トヨクモ代表取締役社長の山本裕次さんと、野村功次郎さんのお話から「安否確認」や「一斉訓練」の大切さをあらためて紐解いていこう。
トヨクモ代表取締役社長・山本裕次さん、危機管理アドバイザー・野村功次郎さん(左から)
起こるかもしれないことを想定した準備を
トヨクモの提供する「安否確認サービス2」は、緊急時の安否確認、その後の対策指示まで含めて活用できる企業向けのソリューションだ。気象庁の災害情報と連携しており、ひとたび緊急事態が発生すれば、導入企業の従業員へ即座に安否確認の連絡がいく仕組み。その回答情報は自動集計され、従業員の状況の「見える化」につながる。
「安否確認サービス2」パソコン画面、スマートフォン画面
――山本さんがこのサービスを開発したきっかけは何だったのでしょうか。
山本裕次さん きっかけは2011年の東日本大震災です。その前年、私はサイボウズスタートアップスという、トヨクモの前身となる会社を立ち上げた時期でもありました。
東日本大震災では、当時提供されていた安否確認システムがうまく動かず、その影響から従業員の安否が確認できず、事業の復旧に時間がかかったという話をよくうかがいました。そこで、「災害時でもきちんと動く」ソリューションの開発に乗り出したのです。
トヨクモ代表取締役社長・山本裕次さん
野村功次郎さん ユーザーの声からソリューションが生まれたという興味深いお話ですね。私は東日本大震災当時、消防士として宮城県へと支援に行きました。その時、現場で実感したことは、それまでの防災は「見えるもの」に対してしか対応していなかった、ということ。「見えないもの」にどう対応するか――その現実を突きつけられたと思ったものです。
危機管理アドバイザー・野村功次郎さん
――システムはまさに「目に見えないもの」ですが、なぜ安定して動かなかったのでしょうか。
山本さん 当時、こうした安否確認システムは、自社の(オンプレミスの)サーバー上にデータを置いていました。仕組み上、平時はほとんど動かず、有事(災害)の時だけ使う状況です。つまり、災害時だけアクセスが集中して負荷がかかり、安定稼働しなかったと考えられます。
ところが、です。時期を同じくして、いまでは当たり前の「クラウド」サービスが出始めました。これを利用すれば、最もアクセスが多くなるピーク時に全ユーザーがいっせいにアクセスしても大丈夫。
こうして、現在は「安否確認サービス2」として提供するソリューションが誕生したのです。若者も高齢者も幅広い年齢の人が使うため、簡単で直感的な操作感にはこだわっています。
「安否確認サービス2」について/継続利用率は99.8%。「ITreview Best Software in Japan 2024」では1万の製品の中で第17位を獲得(安否確認システムはトヨクモのみ)。「ITreview」では9期連続で顧客満足度1位(ITreview カテゴリーレポート 2022 Summer ~ 2024 Summer 安否確認システム部門)
――「安否確認サービス2」は、メールが自動送信されるため、緊急時に防災の担当者を介さず扱える点も便利ですね。また、導入企業(ユーザー)を巻き込んだ独自の「一斉訓練」を毎年、防災の日の9月1日に実施しているところもユニークです(今年は台風10号(サンサン)の影響を考慮して10月1日に実施予定。参加企業・団体は8月末時点で1885社、85万200ユーザーが参加予定)。
山本さん 開発の出発点が「災害時にうまく使えなかった」という生の声を聞いているだけに、「一斉訓練」の必要を感じていました。
理由のひとつとして、自社にとって貴重な場です。災害時、確実に安否確認システムを稼働させるため、さまざまなシナリオのもとテストしています。しかし、そのシナリオが必ずしも想定通りとは限りません。私たち自身もユーザーによる大量のアクセスを経験して、より改善していきたいねらいもあるのです。
野村さん システムの安定稼働を確認したりボトルネックを把握したりする場になりますし、一方でユーザーにとっても訓練を通じた「日頃の備え」になりますね。
山本さん 安否確認システムを導入しているけれど、自社はどのくらい災害に対応できる体制なのか、個々の従業員の意識はどうか、意外とわかりにくいものです。この点にも「一斉訓練」の意義がある。また、実施する時間はあらかじめお知らせしていないこともポイントです。
――抜き打ちでの訓練ですか。
山本さん はい。抜き打ちで実施して、安否確認の回答率や平均回答時間などのデータを集計し、後日、参加企業/団体にフィーバックしています。全ユーザーが同じ条件で行うため、他社と比較した数値や、自社の過去の結果と比較した数値が明らかになります。
これらを参照することで、自社が災害に強い状態かどうか。あるいは、どこを改善するべきかが見えてくる。すると、自社の災害への対応力――「防災力」が把握できると思います。
野村さん 「一斉訓練」による積み重ねができること、フィードバックがあることがすばらしいと思います。うまくいかなかった原因はどこか振り返り、日々、アップロードしていくことが「日頃の備え」につながるからです。
また、実施時間をあえて伝えない、実践に近い訓練形式もいいですね。すると、一人ひとりが「こうなるかもしれない」とイメージを持って取り組むことができる。私はよく「フィードフォワード」という言い方をしますが、事前に起こるかもしれないことを想定しながら準備することが、臨機応変に対応する力につながると思います。
山本さん 優秀な団体を表彰するアワード「Good安否確認賞」を設けており、優れた取り組みを称え、各社の好例を共有するようにしています。それなども「フィードフォワード」に役立つと思います。
日本企業の事業継続力を高め、災害に強い国へとする手助けを
山本裕次さんと野村功次郎さん
――それは、BCP(事業継続計画)の策定にも通じる考え方です。しかし、策定がなかなか進まない事情もあります。
野村さん BCPという言葉で難しい概念ととらえられ、しかも努力義務的なものになっているから、入りづらい面があるのかもしれません。策定に際しては、たとえば自然災害に共通する事項でとらえ、対策を考えておくといいでしょう。
――そのほうがシンプルで、運用もスムーズにいきそうです。
野村さん また、経営資源で重要な要素は「人」「モノ」「金」「情報」と言われますが、防災の観点でも同様です。ひとたび災害が起これば、従業員(人)は出社できない。それにより、設備(モノ)も動かせなくなる。しかし、まずは安否確認によって情報を集めることで、会社機能の復旧のタイミングをつかめるようになるのです。
山本さん BCPの普及について言えば、内閣府によると(24年6月発表)、2023年度のBCP策定率は、上場企業は62%、非上場企業(主に中小企業)は48%と、対策できていない企業は少なくない状況です。ただ、自然災害などにより事業継続に影響を受けた企業のうち、BCP対策の中で最も効果があったものとして、大企業の57.5%が「安否確認システム」を挙げていました。
野村さん 納得できる結果ですね。災害時、なによりも優先されるのは人命であり、従業員の安全。従業員とその家族の安否確認が自動化されているシステムの優先度は高く、BCP策定でも最重要の項目です。
山本さん だからこそ、「安否確認サービス2」によって正しい初動対応ができれば、企業活動における災害の影響を最小限に抑えられると信じています。
それだけに、安否確認システムを提供する各企業と一緒になって、「一斉訓練」ができるといいなと私は思います。私たちの考えに共感してくださった賛同企業は現在50社を数えます(24年8月現在)。なお、実際に能登半島地震で役立てられた事例もありました(下の事例参照)。
「安否確認サービス2」導入企業の事例
――「一斉訓練」がもっと広まると、どんな未来が描けそうでしょうか。
山本さん 安否確認システムを提供する事業者や通信事業者といった企業も巻き込んで、「一斉訓練」ができれば、ボトルネックとなる部分がより見えてくるでしょう。それがわかれば、災害に備えた復旧プランをあらかじめ関係各社で対策を考えることができると思います。
――そうしたら、災害に強い国になりますね。
山本さん まさにそうです。みんなで災害に強い国をつくっていきたい。トヨクモの企業理念は「情報サービスを通して、世界の豊かな社会生活の実現に貢献する」こと。ITの力で、日本企業の事業継続力を高め、災害に強い国へとする手助けをしたいと強く思います。
大規模な「一斉訓練」を通じて、そこで生じた問題をクリアすれば、強い通信インフラを構築できるはず。日本を災害に強い国にしていくためにも、「一斉訓練」を文化にしたいですね。
トヨクモ代表取締役社長・山本裕次さん
野村さん 一斉訓練を文化に――山本社長率いるトヨクモにその先導企業となってほしいと思います。
最後に、私自身の経験をお伝えすると、阪神淡路大震災、東日本大震災などの被災地に行き、多くの人が一番に気にされるのは「安否」の確認でした。自分が怪我を負っていても、たとえ食べるものがなくても、「子どもたちが心配だ」「お母さん大丈夫かな」と親しい人を気遣うものです。被災地で連絡がとれない、と困っている場面を何度も目にしました。
すばやく安否が確認できれば、適切な判断にもつながります。「安否確認サービス2」による迅速な安否確認をする/安否確認の連絡を入れることが、働く人にとって当たり前の行動となっていくことを願っています。
「一斉訓練」賛同企業
【プロフィール】
山本 裕次(やまもと・ゆうじ)
トヨクモ 代表取締役社長
1990年、野村證券に入社。ドレスナー・クラインオートベンソン証券会社を経て、2000年、サイボウズに入社。その後、サイボウズネットワークス代表取締役社長、サイボウズ取締役を歴任し、10年にサイボウズスタートアップス代表取締役社長に就任。19年に社名をトヨクモに変更。トヨクモではビジネス向けクラウドサービスを手掛けており、「安否確認サービス2」「トヨクモ スケジューラー」のほか、サイボウズ「kintone」と連携する「Toyokumo kintoneApp」として、「FormBridge(フォームブリッジ)」「kviewer(kビューワー)」などのサービスを提供。
野村功次郎(のむら・こうじろう)
防災家 危機管理アドバイザー
広島県呉市消防局では23年にわたり消防士として活動。警防、救助、救急各隊の隊長を歴任した。阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災では救助活動などに従事した。2013年に消防士現役引退。現在は防災家として、災害救助率先者として活動する。