正しい仕事を思い切り素直にできることの幸せ
前川 浜野さんはトップ地方銀行からロピアに出向し、そのまま転身されたわけですが、そのきっかけや理由をお聴きできますか。
浜野さん 実は私は若手出向プロジェクトの第一号で、2年間でもとの職場に戻る条件だったので、転職することはかなり問題になりました。転職を決めたのも出向から半年でしたので。出向先を選んだ人事責任者は、内部で相当責められたと思います。私も頭取向けに退職理由を提出するよう言われました。
前川 それは、出向に出した職場にとっては一大事ですよね。どのように理由を書いたのですか。
浜野さん おおよそ、3つのことを書きました。主語が自分なので、今考えると青いのですが(笑)。
第1に、数年で支店や担当が変わる仕事はスポット的で、顧客企業との継続した関わりが持てないことです。もっと中長期的に事業や顧客に関わる仕事に就きたいと考えました。
第2は、自分のキャリア展望です。当時は35歳だったのですが、70歳までは何らかの形で働くとしたら、あと35年間はあるなと。ただ、ご存じの通り銀行員は引退が早いので、このままだと15年後の50歳で銀行員としては現役を引退。取引先企業の部長職などに出向し、第2の仕事人生で20年間過ごすことになる。
しかし率直に言って、第2の職場でも銀行員時代ほど熱意を持って、生き生きと働く自分は想像できませんでした。そのような職業人生が長いのは耐えられない。それなら、30歳台のうちに銀行員の経験も持ちつつ、異業種で経営にチャレンジするほうがキャリアの希少性も高まるし、豊かな人生が送れるのではないかと思ったのです。
前川 3つ目はいかがですか。
浜野さん 第3に、ロピアでの仕事がとても楽しかったことです。出向してほどなく行かせていただいた店舗研修で、お惣菜のお好み焼きを作ったときのことが今でも忘れられません。
自分が焼いた200円のお好み焼きを店頭に並べて、お客様が買ってくれた瞬間に、初めて自分が社会に価値を提供して認められた気持ちになり、とても嬉しかった。これがロピアでの原体験です。銀行員時代には200億円の融資案件を扱った経験もありましたが、その時にも感じられなかった喜びでした。
正直に言うと、もとの職場では「本当にお客様の役に立っているのか」と疑問を持ちながらこなしていた仕事もありました。しかし、ロピアでは、お客様に対して貢献することが、自分の成果や会社の成長につながる、会社とお客様のベクトルがきちんと合っている、そう感じました。
前川 200億円の仕事を動かすより、200円のお好み焼きのほうに、働きがいを感じたと(笑)。でも、とてもいいお話だし、よくわかります。お客様から直接いただく「ありがとう」こそがビジネスの本質だし、働きがいの原点ですね。
私たちも、大企業の優秀な若手離職者のインタビューを行いましたが、離職理由は同じでした。企業が掲げる綺麗な理念と現場の内向きな仕事とのギャップに嫌気がさして辞めていく声を、いくつも聴きました。ことZ世代の若者は敏感で、「言っていることと、やっていることが違う」と白けてしまうのですね。
浜野さん 本当にそうです。理念だけが上滑りしている感というのは、とても気持ちが悪いです。
その点、今の仕事はとても気持ちよくできています。よい商品を安く売ることや、お客様に喜んでいただき、感動してもらえることは純粋に楽しい。自分がよいと思えることを思い切り素直にやっていけるということは、とても心地よく幸せなことだと思っています。
前川 それでは最後に、これまでのお話の総括として、これからの御社の人材育成・活躍支援の展望についてお聞かせください。
浜野さん 弊社は、どこまでいっても理念やビジョンが最も重要だと思っています。弊社がダメになる時があるとすれば、理念が疎かになった時だと思います。ですので、今後はますますその共有と浸透を進めていくことが重要です。
今でも合宿研修や社内ツアーなどを行っていますが、さらによい方法も模索していきたいと思います。その一環として、理念をより噛み砕いて従業員の日々の言動にまで落とし込み、インナーブランディングを通じて社内外に積極的にOICグループの価値観を発信していくことも大切になると思っています。
そして何といっても大切なのは、「自分で選ぶこと」を徹底することです。
各店舗のチーフは自分で商品も売り方も決めるのですから、そのチーフになるためには、自分の成長目標や研修スタイルも自分で選んで決めたものでなければならない。研修にも強いられて参加するのではなく、自らの意志と意欲を持って、自分が成長したいがために参加して学ぶ。私たちはそのような人材をこそさらに力を入れて支援していきたいと考えています。
前川 今日は、ロピアとOICグループの急成長の根底にある人材育成について、示唆に富んだ話題、そして浜野さんご自身のご経験や信条まで、貴重なお話しをうかがうことができました。ありがとうございました。