ユーザーベースが運営する経済情報プラットフォーム「スピーダ」が実施した「中期経営計画(中計)の実態調査2024」によると、上場・非上場企業約1万1000社のうち、「中計を策定している」と回答した企業は46.8%を占めた。
上場企業に絞ると、実に79.0%が中計を策定していると回答。その一方で、これまで策定が当たり前とされてきた大手上場企業でも、中計の策定廃止や長期経営計画への変更など、見直しを行うところが出始めている。
味の素は精緻な数字積み上げる「中計病」廃止
回答者のうち、経営企画部に所属し、自身が中計策定に関わっている/関わっていた500人に尋ねたところ、中計を策定すべきか/やめるべきかを3年以内に社内で議論したことがある会社は42.6%を占めた。
判断するうえで重要な論点(複数回答)となったのは「自社にとっての中計の位置づけ」が最も多く、次いで「中計にかかるリソース(が多すぎる)」となった。
前者の「位置づけ」見直しの代表例は、味の素だ。2023年2月の経営説明会で藤江太郎社長は「3年程度先の計画の精緻な数値をつくり込みすぎることで、現場が疲弊してしまったり、計画そのものの意味が薄れたりする」ことを「中計病」と呼び、長期のありたい姿を軸とした経営に進化するという。
後者の「リソース」の例は、三井化学だ。2021年6月に従来の中計を「2030年度を目標とする長期経営計画」に変更すると発表した橋本修社長は「計画を作るのにいっぱいいっぱいで、実行につながらなかった」と反省を述べている。
その一方で、調査結果では、従来の中計は「評価されている」「ある程度評価されている」と答えた経営企画部担当者が、上場企業で76.4%、非上場企業で67.9%を占めている。多くの会社では、中計策定が今後も続くことだろう。
このような状況を、現場の社員はどう受け取っているのだろうか。上場企業の経営企画担当Aさんは、長年問題視されている中計の「根本的問題」を指摘する。
「中計という制度以前に、サラリーマン社長のリーダーシップの欠如という問題が大きいです。もうひとつ付け加えるとしたら、外部コンサルティング会社への丸投げも、かなり大きな問題を生んでいるのです」
「事業子会社の数字をボトムアップで積み上げただけ」
Aさんによると、日本の大手企業の社長は任期が数年と短く、自分の任期中は中計との大きな乖離を生じさせずに無難に済ませたい意識が強いという。
「そうすると、計画数値の水準が保守的になり、企業経営が『保守的な数値をいかに手堅く達成していくか』を最優先したものになります。本来、どの企業でも新規事業の開発を含む『事業ポートフォリオの変革』が課題のはずなのに、イノベーション投資も『そんな余計なことはしなくていい』と消極的になりがちなのです」
また、社長は本来、企業グループ全体の成長性を最大化するために、経営資源の配分を伴う「グループ戦略」を打ち出す必要がある。しかし、独自の戦略ビジョンを持たない人物が社長になった場合、事業子会社の数字をボトムアップで積み上げただけの中計にとどまるケースも少なくないという。
「本来は『事業Aには経営資源を投資し、事業Bは生産性向上に徹する。事業Cからが撤退し、事業Dは売却する』といった、各事業会社の事情を超えた上位の経営判断があるべきです。しかし、未知の行動を取ると計画未達のリスクが生じますし、事業会社からの反発を生んでしまう。だから、それができないのです」
外部コンサルティング会社への丸投げも、社長の戦略ビジョンの欠如が生む弊害だ。
「新しく就任した社長が、いきなりコンサルティング会社を呼び、年間1億円を超えるフィーを提示して『これで我が社の戦略を考え、中計を作って欲しい』と指示する場に遭遇したことがあります。そのときは『この人は自分で何も考えないのか』と呆れるとともに、自社の経営企画部も信用していない、とがっかりしました」
「丸投げすると同じようなワードが横並びで出てくる」
コンサルティング会社への丸投げについて、Aさんは2つの問題を指摘する。
「ひとつは、高額すぎるフィーですよね。社長が議論をリードできないのだから、これはしようがない。もうひとつはより深刻で、コンサルティング会社がクライアントの問題や課題を深く掘り下げず、トレンドワードを散りばめた『きれいごと』の案を出してきても、誰も否定せずにあっさり通ってしまうことです」
厳しい検証をしない理由は「計画が未達になった場合『あれは外部のコンサルに1億払って作らせたものだから誰にも責任はない』と言い訳できるようにするため」。
Aさんによると、近年のトレンドは「DX」「SDGs」「カーボンニュートラル」「ESG」「人的資本経営」など。同じような時期に、申し合わせたように同じようなワードが横並びで出てくることが多いのだそうだ。
「例えば『DX』ひとつとっても、企業にとって大事な課題であることは確かですし、本質的な取り組みをしようと思えばかなりの投資が必要になります。でも、自社の事業や経営との関係をあまり深く考えずに『データ経営の推進』などの抽象的な言葉だけ掲げられているような場合は、次の中計でまるでなかったかのように消えてしまいます。その意味では『カーボンニュートラル』なんか、すでに怪しくなっているんじゃないですか」