「事業子会社の数字をボトムアップで積み上げただけ」
Aさんによると、日本の大手企業の社長は任期が数年と短く、自分の任期中は中計との大きな乖離を生じさせずに無難に済ませたい意識が強いという。
「そうすると、計画数値の水準が保守的になり、企業経営が『保守的な数値をいかに手堅く達成していくか』を最優先したものになります。本来、どの企業でも新規事業の開発を含む『事業ポートフォリオの変革』が課題のはずなのに、イノベーション投資も『そんな余計なことはしなくていい』と消極的になりがちなのです」
また、社長は本来、企業グループ全体の成長性を最大化するために、経営資源の配分を伴う「グループ戦略」を打ち出す必要がある。しかし、独自の戦略ビジョンを持たない人物が社長になった場合、事業子会社の数字をボトムアップで積み上げただけの中計にとどまるケースも少なくないという。
「本来は『事業Aには経営資源を投資し、事業Bは生産性向上に徹する。事業Cからが撤退し、事業Dは売却する』といった、各事業会社の事情を超えた上位の経営判断があるべきです。しかし、未知の行動を取ると計画未達のリスクが生じますし、事業会社からの反発を生んでしまう。だから、それができないのです」
外部コンサルティング会社への丸投げも、社長の戦略ビジョンの欠如が生む弊害だ。
「新しく就任した社長が、いきなりコンサルティング会社を呼び、年間1億円を超えるフィーを提示して『これで我が社の戦略を考え、中計を作って欲しい』と指示する場に遭遇したことがあります。そのときは『この人は自分で何も考えないのか』と呆れるとともに、自社の経営企画部も信用していない、とがっかりしました」