最悪シナリオは、トランプ氏敗北による米国債のデフォルト
――なるほど。最後に強調しておきたいことがありますか。
前田和馬さん 今後、予想もされないイベントが起こるのでは、と懸念しています。
米国議会では、これまで考えられなかった異様な事態が起こっています。民主、共和の対立が先鋭化しているだけでなく、両党の内部対立も目立っています。昨年(2023年)10月、共和党内の保守強硬派8人の造反によって共和党の下院議長が解任されるという、史上初めての出来事がありました。また、2021年1月には一部のトランプ支持者が連邦議会に乱入し、警察官を含む5人が亡くなったほか、1000人以上が逮捕されました。
米国の政党は日本の政党と違って党議拘束がなく、所属政党が推す政策案に造反する議員も少なくありません。ごく一部の過激な考えを持つ議員によって議会運営がかき回されることもあり、現会期では成立した法案数が非常に少ないです。共和党内にもトランプ氏に批判的な穏健派がいるため、彼らが力を取り戻すと、議会運営も多少円滑化するかもしれません。
私が最も危惧していることは、仮にハリス氏が勝ったとしても、トランプ氏が「負け」を認めないことです。
――すると、どうなるでしょうか。
前田和馬さん トランプ氏は今年6月に実施されたバイデン氏とのテレビ討論において、司会者から「選挙に負けたら、結果を認めるか」と聞かれた際、「公正な選挙であれば、受け入れる」と回答しました。前回同様、「不正な選挙が行われた」と主張する可能性は高いでしょう。
米国には債務上限問題というのがあり、この関連法案が失効すると利払いのための新たな資金調達ができなくなります。現在の法案は来年1月に期限を迎えるため、この際に政治が大きく混乱していると、米国債のデフォルトが現実味を帯びてきます。実現性は非常に低いですが、米国債のデフォルト(債務不履行)が生じると、世界経済は大混乱に陥るでしょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
前田 和馬(まえだ・かずま)
第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト(担当:米国経済、世界経済、経済構造分析)
2013年慶應義塾大学経済学部卒、2023年カナダ・ブリティッシュコロンビア大学経済学修士課程修了。
大和総研にて経営コンサルタント及びエコノミスト、バークレイズ証券でエコノミストを経て、2023年8月より現職。