「ハリスVSトランプ」米大統領選「経済政策」比較...どちらが勝つと世界と日本にプラス? 最悪シナリオは米国債のデフォルト(2)/第一生命経済研究所・前田和馬さん

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   民主党のカマラ・ハリス副大統領と、共和党のドナルド・トランプ前大統領が激突する米大統領選挙。世論調査では僅差でハリス氏がリードしていると伝えられるが、予断を許さない情勢だ。

   2人の経済政策はどう違うのか。どちらが大統領になったほうが、世界経済や日本経済にとってプラスなのか、あるいはマイナスになるのか。

   米大統領選挙を経済面からウォッチし続けている第一生命経済研究所のエコノミスト前田和馬さんに話を聞いた。

  • ドナルド・トランプ氏がウィスコンシン州で集会(写真:USA TODAY Network/アフロ)
    ドナルド・トランプ氏がウィスコンシン州で集会(写真:USA TODAY Network/アフロ)
  • (図表)ハリス氏とトランプ氏の税制公約と今後10年間の財政規模(第一生命経済研究所の作成)
    (図表)ハリス氏とトランプ氏の税制公約と今後10年間の財政規模(第一生命経済研究所の作成)
  • 前田和馬さん(本人提供)
    前田和馬さん(本人提供)
  • ドナルド・トランプ氏がウィスコンシン州で集会(写真:USA TODAY Network/アフロ)
  • (図表)ハリス氏とトランプ氏の税制公約と今後10年間の財政規模(第一生命経済研究所の作成)
  • 前田和馬さん(本人提供)

不法移民を強制送還できない「3つの壁」

   <「ハリスVSトランプ」米大統領選「経済政策」比較...どちらが勝つと世界と日本にプラス? 最悪シナリオは米国債のデフォルト(1)/第一生命経済研究所・前田和馬さん>の続きです。

――移民政策の違いはいかがでしょうか。トランプ氏は、在外米軍を帰国させてメキシコ国境に配備し、米国内に約1000万人いるといわれる不法滞在移民を本国に強制送還する、と主張していますが。

前田和馬さん これも関税の問題と同様、本人がどこまで本気で思っているのかと、本当に実現できるのかというポイントが大切です。そもそも移民の減少はインフレを加速させますから、トランプ氏の主張をそのまま鵜呑みにすることはできません。

移民が少なくなると、飲食店や小売店、ホテルなどの接客業の人手がひっ迫して、人件費があがります。コスト増につながり、物価が上昇します。「インフレを抑える」というトランプ氏の政策に逆行するわけで、ここでもちぐはぐさが目立ちます。

――つまり、米国で移民が減ると、じつは経済的に困るわけですね。

前田和馬さん もう1つ、移民を強制送還するには「3つの壁」があります。

第1は、「議会の壁」。移民を強制送還するとなると輸送のためのお金がかかりますが、それには予算を作成する議会の承認が必要です。トランプ氏の意向だけでは予算を組めません。

第2は「司法の壁」。不法移民とはいえ、米国に在留している人には人権があります。いきなり強制的にバスに乗せて、母国に送り返すという非人道的なことはできません。移民を支援する民主党系の団体などが訴えを起こせば、裁判所はこうした取り組みを差し止めるでしょう。

3つ目は「地方自治の壁」です。移民の摘発と拘束には現地警察の協力が必要不可欠ですが、ニューヨークやシカゴといったリベラルな都市は移民摘発には非協力的です。軍隊を使うという考えもありますが、原則的に米軍は国内問題(法執行)に関与できません。

実際、トランプ氏は16年選挙で勝利した後に「300万人の強制送還」を掲げたものの、ほとんど実現できませんでした。こう考えると、「米国の大統領は世界最高の権力者」と呼ばれますが、できることは意外に少ないのです。

――なるほど。しかし、移民問題はハリス氏にとってはアキレス腱ですね。

前田和馬さん そのとおりです。メキシコ国境沿いからの不法移民流入は米国では社会問題と化しており、国境対策は民主・共和を問わず、喫緊の課題です。また、ハリス氏はバイデン政権の移民担当責任者です。

米国民が大統領選に寄せる関心の高さの1位は経済・物価問題、そして2位が移民問題です。トランプ氏はバイデン政権の移民政策の甘さが大量の不法移民を増やしたとして、批判の矛先をハリス氏に向けています。

「合法的な移民を増やすべきか」という点において、ハリス氏は「増やすべき」、トランプ氏は「減らすべき」との違いがあります。

ただ、「不法に入国してくる移民を取り締まる」という点では、ハリス氏もトランプ氏も同じスタンスです。今年6月、バイデン大統領は「不法入国者が一定数を超えた場合、亡命申請を受け入れずメキシコなどに強制送還する」という大統領令を出しました。この効果もあり、不法入国者は減少の兆しを示しています。おそらく、こうした政策スタンスは引き継がれるでしょう。
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