対中国強硬策は、大統領令だけで可能なのが怖い
――もう1つの実現性についての疑問とはどういうことですか。
前田和馬さん 一律の関税に関しては議会の承認が必要で、共和党と民主党の勢力が拮抗している現在、実現するのは高いハードルです。しかし、対中関税については、通商法232条(国家安全保障の脅威除去)や通商法301条(不公正貿易の是正)に規定があり、大統領令だけで実現可能とみられます。実際、第1次政権の時にこうして対中関税を引き上げました。
また、一律の関税引き上げに関しても15%までなら、大統領令で最長150日(約5か月)可能との見方があります。トランプ氏がディール(取引)に使うリスクは十分考えられます。
――困ったものですね。5か月とはいえ、15%の関税引き上げは相手国の痛手になるし、60%もの関税を中国に課したら、そうでなくても減速傾向にある中国経済が大打撃を受け、世界経済に混乱が起こるのではないでしょうか。
前田和馬さん 各国ともサプライチェーンの見直しを含めて、対応を迫られるでしょう。世界経済の見通しに暗雲が立ち込めるのは避けられません。
――その点、ハリス氏の対中国への経済政策はどうなのでしょうか。
前田和馬さん 多くの国々と強調して中国に対する包囲網を築くという、バイデン政権の基本政策を維持するとみられます。対中脅威論の世論は根強いため、バイデン大統領もトランプ前政権が課した対中国の高い関税をほとんど維持しています。さらに今年5月には中国製電気自動車(EV)等への追加関税を発表するなど、「国内経済に影響がない範囲で」対中姿勢を強めています。
民主・共和両党とも、現在の米国で「自由貿易」を推し進める政策はほとんど考えられなくなっています。ハリス氏が中国に明らかな融和姿勢を取ることは考えにくいです。
<「ハリスVSトランプ」米大統領選「経済政策」比較...どちらが勝つと世界と日本にプラス? 最悪シナリオは米国債のデフォルト(2)/第一生命経済研究所・前田和馬さん>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
前田 和馬(まえだ・かずま)
第一生命経済研究所経済調査部主任エコノミスト(担当:米国経済、世界経済、経済構造分析)
2013年慶應義塾大学経済学部卒、2023年カナダ・ブリティッシュコロンビア大学経済学修士課程修了。
大和総研にて経営コンサルタント及びエコノミスト、バークレイズ証券でエコノミストを経て、2023年8月より現職。