「企業性悪説」で取り締まるハリス氏の検事的発想に疑問
――どういうことでしょうか。
前田和馬さん まず、富裕層と中間層のどちらを優遇するかという点では、同じ規模の予算を使う場合、中間層の方が富裕層よりもお金を使ってくれます。つまり、経済の押し上げ効果が高いのです。富裕層のお金の使い道は主に贅沢品ですが、中間層は生活用品など新たに消費したい気持ちが強いと考えられます。
それと、バイデン政権の経済政策は、猛烈な物価高(インフレ)を引き起こしたとして米国民の怒りを買っています。トランプ氏は副大統領のハリス氏にも責任があると批判しているため、ハリス氏はインフレに困っている中間層や低所得層にアピールする必要があります。
――それほどバイデン政権の経済政策の評判が悪いのですか。
前田和馬さん 正直、誰が政権を担っても、近年のインフレは避けられなかったと思います。
コロナという歴史的な大イベントによって景気がどん底に落ちたあと、そこからの回復期には需要が急増しました。一方、世界的な物流は混乱した状況が続きました。
また、現金給付などの財政支援の効果も上乗せされますから、物価が急上昇するのは経済の原則です。世界各国で激しいインフレが起こり、たとえばイギリスでは政権交代につながるなど、うまく対応できた国はほぼありません。
前回2020年選挙でトランプ氏はコロナ真っ只中のために負けましたが、逆に今回は人々のインフレへの不満を上手く利用しているといえるでしょう。
――トランプ氏は、ハリス氏を「反企業的」だとして、ファーストネームの「カマラ」と「コミュニズム(共産主義)」をもじって、「カミュニズム」と批判していますね。
前田和馬さん トランプ氏はバイデン政権のインフレを厳しく批判していますが、彼が主張する法人税率引き下げや、バラマキ減税がもし実現すれば、企業活動が活発になり、消費も盛んになるわけですから、インフレが再び加速します。そういう点では、非常にちぐはぐな政策です。
一方で、カリフォルニア州で地方検事や州司法長官として企業と戦ったというハリス氏は、「強欲インフレ」だとして企業の不当な値上げを取り締まると主張しています。また、食品企業の合併を監視して、健全な価格競争が起きるようにするとしています。
しかし、こうした「企業性悪説」に基づく価格統制策は、実際に実現しようとすれば、共和党のみならず民主党内の穏健派からも疑問の声があがると思われます。
検事的な発想で取り締まればいいというものではなく、政府の強い介入は市場の歪みをもたらす可能性があります。経済は、個々の企業や消費者個人のインセンティブで動くものではないでしょうか。