頑張った人が報われる仕組みが不可欠
浜野さん チーフ経営が明確な経営方針となったのは、スーパーマーケット事業の屋号をロピアとした2011年頃です。ただ、チーフ経営の考え方そのものは1970年代、弊社の祖業である精肉店の創業から脈々と続いてきたものです。
創業者である会長は、創業以前に働いていた店で一生懸命働き、これまでにない業績を上げたそうです。しかし給料などで報いてもらえず、むしろ生意気だと解雇を言い渡されてしまったとか。その時の理不尽さを反面教師に、自分が経営する会社では、頑張った人に報いる仕組みづくりを始めたようです。
たとえば会長は創業当時、毎月手刷りで社内報を発行していました。社内報は全店舗の業績を掲載し、目標を達成できた店に丸印を付けるなど、社内で各店舗の活躍ぶりを情報共有するものでした。
成果に対して報いるためには、部門ごとの経営数値がすべて見えることが必須。精肉店だった当初は社内報の内容も店別単位でしたが、スーパーマーケット事業へと拡大する中で加工品などの食品、更には青果、鮮魚、惣菜に至るまで、店別部門別の結果をフィードバックするようになっていきました。
前川 御社の現場主義は、創業経営者の強い信念から生まれたのですね。しかし、店舗数も大幅に増え、組織が大きくなるなかで、現場への権限移譲を組織の中に浸透させ続けていくことは大変ではないですか。
浜野さん たしかに大変な部分はあります。チーフたちがそれぞれ思い思いの方向に進んでしまうと、組織はばらばらになってしまうでしょう。私たちは店舗運営について大きな裁量を持ちつつ、大きな方向性について共感しあう集団でなければなりません。
そこで大きな役割を果たしているのが、理念とビジョンの力です。弊社は理念重視の会社としては、国内屈指だと自負しています。
たとえば、ロピアの理念の一節には「同じ商品ならより安く。同じ価格ならより良いものを。楽しく感動できる、愛に満ちた愛されるお店です」というものがあります。
「ナショナルブランドの商品は、競合店より安く売る」「同じ価格なら、競合店より品質の勝る商品を提供する」というのはスーパーマーケットの戦術の一つではありますが、これだけならば単なる安売り屋になってしまいます。
だからこそ、3文目に私たちの大切にする価値観、取引先やお客様に食を通じて感動を与え、相思相愛の関係になりたいという思いを入れ込んでいます。商売によって世の中に貢献するという点で、近江商人の「三方よし」の考え方にも通じますね。
安さの訴求はそれ自体が目的ではなく、お客様に楽しさや感動を得ていただくための一つの手段にすぎません。チーフ経営とは、お客様を喜ばせたい、という思いに共感してもらうところから始まるのです。