懸念される大手と中小の「採用格差」拡大
ただしAさんは、気になることが2点あるという。1点目は、D&Iに関する魅力的なデータを生み出せるのは、ある程度規模の大きな余裕のある会社だけで、就活生の大企業志向の集中度合いがさらに高まり、採用格差が広がるのではないか、ということだ。
「特に大手企業が、男性の育児休業取得率を上げるために『育休期間中も有給にする』なんて言い出したら、中小企業がかなうわけがありません。そもそも、男女の役割分担の考え方は多様であるべきで、仕事に注力して家計を支えることで果たす役割もあるはずです。一方的な流れに疑問を呈することがしにくい現在の雰囲気は、多様化に反するのでは、と思うこともあります」
もう1点は、Z世代だけの価値観に企業経営が引っ張られていいのか、ということだ。
「株式会社にとって、目的はあくまでも業績であり株主価値であって、多様性や包摂は常に有効な手段となるとは限りません。例えば成長スピードが極めて速い分野において、一方向に向かって大きなエネルギーを生もうとするとき、多様性よりも画一性が大事になることもありえます。その過程で人材の選別が行われ、求心力に沿わない人が排除されることもあるし、採用面接や試験もそのためにあるわけです」
Aさんは「語弊はあるけれど」と断ったうえで、「Z世代の価値観は、欧米メディアが発信する、きれいごとや建前のスローガンに影響されすぎているのでは? ビジネスより社会活動に興味を持つ若者ばかりが増えても困ります」。自分が社内でD&Iを推進しながらも「成約条件が目的のように扱われるのは正直違和感がある」と明かしている。