新入社員の3人に1人が、入社後2か月で「会社を辞めたい」と感じた経験があることが、就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年8月21日に発表した「新入社員の意識調査(2024)」でわかった。
「上司や先輩に恵まれたから、思いとどまった」という人が多い。いい話ではないか。一方、話題になっている「配属ガチャに外れた」と嘆く人は少数派だ。
イマドキ新入社員の意識はどうなっているのか。調査を行なった『マイナビ転職』編集長の瀧川さおりさんに話を聞いた。
「ライフステージに合わせたい」と、女性の転職意向は男性の2倍
調査(2024年6月7日~9日)は、2024年卒の22~23歳の新入社員800人(男性400人、女性400人)が対象。入社して2か月後の仕事を覚え始めた時点での調査だ。
まず、直近の月収を聞くと、平均は22.2万円。「今の会社に勤め続けたら、5年後にどんな人生になっているか」と、将来のイメージを聞くと、「年収が上がっている」と答えた人は4割(42.6%)に留まった。給与の見通しをシビアにとらえている様子がうかがえる。
次に、「会社であと何年ぐらい働くと思うか」を聞くと、「3年以内」が25.9%、「10年以内」が54.9%。男女別に勤続意向年数をみると、「3年以内」と答えたのは女性のほうが男性より約15ポイントも高い【図表1】。
「長く働き続けない」理由では、「(結婚・出産など)ライフステージに合わせて働き方を変えたい」が1位となり、女性(38.0%)が男性の約2倍の結果に。女性は職場環境の変化に備えて早めにキャリアプランを立てていることがうかがえる【図表2】。
さらに「会社を辞めたいと思ったことはあるか」を聞くと、3人に1人(33.4%)があると答え、実際に転職活動をしている人も3.4%いた【図表2】。
辞めたいと思った人に辞めなかった理由を聞くと、「もう一度就職活動をしたくない」(30.7%)が最も多い。「辞めると言いづらい」(24.7%)、「上司や先輩、同僚に恵まれている」(18.7%)が続いた【図表3】。「いい上司や先輩」の存在が辞めない理由の3位に入っているのは、注目に値しよう。
Z世代の若者が重視する「配属ガチャ」だが、「配属ガチャに外れた」と感じている人は11.1%と少数派だった【図表3】。「配属ガチャについてどう思うか」を聞くと、「配属されたところで、頑張ることが大切」「幅広い分野を経験できるメリットがある」といったポジティブな声が目立った。
もっとも、「勤務地や職種が決まっている企業のみを受けた」という声が複数あり、「配属ガチャ」を配慮した採用方式が受け止められているようだ。
新入社員にとって、就活&入社は「ファーストキャリア」
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた『マイナビ転職』編集長の瀧川さおりさんに話を聞いた。
――今の会社で仕事を続けた場合、「5年後に年収が上がっている」と答えた人が4割しかいないことが理解できません。どういうことでしょうか。
瀧川さおりさん 同じ会社で働く先輩方から賞与や昇給、評価システム、生活ぶりの話などを聞いた結果、この企業での年収アップは期待感が持てないと感じているのかもしれません。
また、昨今の世間一般の賃金に対する閉塞感を、ニュースやSNSから敏感に感じ取っている可能性もあります。
――4人に1人が3年以内の退職を希望しているのは、それが大きな理由ですか。
瀧川さおりさん 給料の低さや期待感の持てなさは1つの要素としてあると思います。今回調査でも、「長く働かない理由」を聞くと、3割の人が「給料が低いから」をあげました。
ただし、それ以外にも「いろいろな会社で経験を積んでいきたい」「ライフステージに合わせて働き方を変えたい」といったポジティブな気持ちで退職したい回答も上位に入っています。
今の新入社員には、就活を「ファーストキャリア」と呼び、1つの会社に勤め続けることにはこだわらず、自分の目指すスキル、仕事、フィットする働き方に向け、働く会社を変えていく意識の人が少なくないように見えます。
――なるほど。新卒入社は「ファーストキャリア」ですか。女性のほうが男性より退職意向が高い理由を、「ライフステージ(結婚・出産など)に合わせて働き方を変えたいから」と説明しています。
しかし、結婚・出産を考えるなら、転職の荒波に出るより現在地にいたほうが安心ではないでしょうか。それとも、結婚・出産を機に正社員を辞め、パートなどの非正規雇用を目指すという面もあるのでしょうか。
瀧川さおりさん 最近は育休や時短勤務など、子育てしながらでも働ける制度を充実させている企業が増えています。
なかには、非正規雇用や退職を選択する方もいますが、「母親になっても、キャリアを続けたい」「収入のために働かなくては」と考えるからこそ、正社員として働き続け、ライフステージに合わせた働き方ができそうな会社に移る、という方が多いように思えます。
また、子育て社員への理解や、「制度はあるが、実際に使える雰囲気か?」などの温度感は、企業や働く人によって差があるところです。今の企業でそのまま「結婚・出産・子育てフェーズを迎えても大丈夫」と思える環境であればよいでしょう。
しかし、お子さんがいる先輩社員の働き方や社内での立ち位置などを見て、「この会社で両立するのは難しそう」と感じてしまうケースもあります。そんな場合は、より働きやすい会社に移る選択肢が出るかと思います。
決め手は「将来性ある仕事か」「社外で通用する人材になれるか」
――ところで、入社後わずか2か月で3人に1人が辞めたいと思っている結果は、かなり衝撃的です。一方で、よくいわれる「配属ガチャに外れた」という理由は少数派とあります。それならば何が不満なのか、企業側としてはぜひ知りたいところです。
瀧川さおりさん まず、「配属ガチャ」の件ですが、今回の調査では「配属ガチャに外れたと感じている」という回答は11.1%に留まりましたが、「希望どおりの配属先ではない」人が4割ほどいました。
最近の新入社員はインターン経験者が多いため、すでに「自分に合った仕事」がどのようなものか、ある程度自己分析できている人もいます。そんななか、配属先は入社後に通達で、内定を受諾し入社先を決める段階では配属先を選べないことが少なくありません。
だから、希望の配属先ではないことに不満やギャップを感じる度合いは、インターンがない頃の新入社員に比べ大きい可能性も考えられます。
――つまり、新入社員の多くは、最初から配属先を念頭に今の会社に入っているということですね。となると、辞めたいと思う本当の理由は何でしょうか。
瀧川さおりさん 「辞めたい」と感じた人は、そうでない人に比べて「仕事内容に不満」という回答が非常に多いです。
そのギャップに感じている点として、高かったのは「働きと報酬が見合っているか」「仕事内容が向いているか」「努力や貢献が賃金で評価されるか」などです。
なかでも、とりわけ不満が高かったのが「将来性のある事業・仕事内容を担当しているか」「今の仕事を続けたら、社外に通用する人材になれそうか」という2つでした。
最近は「ゆるブラック」という言葉があるとおり、「成長を感じられない」「通用しない人材になる」「周囲に置いていかれる」という不安を感じて転職する若手が一定数います。
企業は、今の仕事でどんなスキルが身に付くのか、どのような意味があるのかなどを丁寧に伝え、フィードバックを通じて自身の成長に気付かせてあげることも大切だと思います。
先輩・上司の温かさだけでは、新入社員引き留めに限界
――「いい上司や先輩の存在」が辞めない理由の3位に入ったのは、ある意味「救い」と思いますが、どう評価していますか。また、このことを踏まえ、企業は若手の早期退職を防ぐために、どう対応をするとよいでしょうか。
瀧川さおりさん 給与の不満やライフステージの変化に対する不安など、現場でのカバーが難しい要素が挙がるなかで、上司や先輩の存在が「辞めない理由」の3位に入っていた点は注目すべきポイントです。
新入社員にとって職場での人間関係は、勤続意向に影響を与えていることがわかります。企業は新入社員の定着のため、OJT(職場内訓練)を通してコミュニケーションをはかるなど、良好な関係構築に向けた取り組みが今後はより求められていくでしょう。
実際に「上司・先輩がやってくれて、うれしかったこと」を聞くと、なんと「話し掛けてくれる」がダントツの1位でした。
新入社員から話し掛けるのはどうしてもハードルが高いので、関係性ができるまでは、上司・先輩から小まめに声をかけてあげることが重要です。心理的安全性の担保は、退職防止のために欠かせません。
――意外と簡単なことが大切なのですね。
瀧川さおりさん そのとおりです。また、「学ぶべき点がある」「良くない時は、きちんと指摘(指導)してくれる」といった自分の成長につながる項目が「嬉しかったこと」の上位に入っていることも注目すべきです。
「社外で通用しない人材になるのでは」という焦りを生まないためにも、実のある指導やフィードバックができるかという点も大事になりそうです。
とはいえ、新入社員のつなぎ止めを配属部門の上司・先輩だけで行うのは難しいでしょう。若手が安心して働き続けられるだけの給与や、当人の適性と希望を活かす配属など、企業として制度や環境を整えていくことが求められるのではないでしょうか。
社員の定着とモチベーションには、やはり給与が最重要
――イマドキ新入社員の意識について、特に強調しておきたいことがありますか。
瀧川さおりさん 今回の調査でも、「辞めたい」と感じたことがある新入社員は給与への不満が高く、社員の定着やモチベーションにはやはり、給与が重要なことが分かります。
給与への要望は、結婚・子育てなどライフステージの変化を迎える年代になっていくと、いっそう切実になり、「やりがいはある、仕事が好きだけど給与がネックでやめざるを得ない」という人も出てきます。
個々がいきいきと能力を発揮して働くためにも、安心して働けるだけの給与や報酬を企業が提供することが何より重要と言えそうです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
瀧川 さおり(たきがわ・さおり)
新聞社、メーカーの企画部門などを経て、2004年にITサービス、翌年にオーガニック製品の会社設立に携わり、2社の役員を兼務。
マイナビ入社後は大手企業専属チームで中途採用や採用ブランディングなどを支援。サービス企画やtoB向けマーケティング企画部門を経て2021年にサイト運営部門に配属。
2024年より総合転職情報サイト『マイナビ転職』の編集長に就任。
マイナビ転職公式YouTubeチャンネルや企業向けオンラインセミナーなどで転職や中途採用市場に関する情報を配信中。