厚生労働省の調査によると、2023年度の男性の育児休業取得率が30.1%となった。前年度の17.13%から13ポイントと大幅に上昇している。
ただし女性の84.1%(前年度80.2%)と比べるとまだまだ低く、取得期間も短い。取得の実態も、配偶者の育児に協力していないという批判もあり、課題は山積みだ。大企業と中小企業との格差が開くと悲観する声もある。
「企業における研修や事例の共有が重要に」
育児休業後に復職した人の割合を、育休の取得期間別で見ると、男性の場合は「5日未満」が15.7%、「5日~2週間未満」が22.0%、「2週間~1カ月未満」が20.4%、「1カ月~3カ月未満」が28.0%。合わせると86.1%が、3カ月未満となっている。
「5日未満」の男性の割合は、2018年度の36.3%、2021年度の25.0%と比べると大きく減っており、「1カ月~3カ月未満」は11.9%、24.5%と比べて着実に増えている。男性育休の長期化が進んでいることは確かだ。
一方、女性の場合は、10カ月~12カ月未満が30.9%、12カ月~18カ月未満が32.7%、18カ月~24カ月未満が9.3%。この3つの期間を合わせると72.9%となり、「育休は女性のもの」という色合いが依然として濃厚だ。
男性の育休期間の短さもさることながら、育休中の過ごし方についても批判的な声があり、「取るだけ休暇」などと揶揄されている。イクメンプロジェクトの駒崎弘樹氏(フローレンスグループ会長CEO)も「男性の育児休業等取得率の公表状況調査」速報値発表の記者会見で、次のように指摘している。
「(男性の)育休取得率が46%、50%、60%と当たり前のものになっていったら、今度は、どんな育休を取っていくかっていうのが大事になってくると思います。『ゴロゴロ育休』『なんちゃって育休』、そういったものが広がっていくという可能性もあります。だとするならば、やっぱりここで出されたように、企業における社内研修とか事例の共有、こうしたもので、こうやって育休をちゃんと取っていくといいよというような形で伝えていくことが、より重要になってくるんじゃないかなと思います」
Xにも、男性によるほんの数日の育休を「なんちゃって育休」、せっかく育休を取得しても育児に協力せず家で寝ているだけの男性を「ゴロゴロ育休」と揶揄する書き込みが見られる。
中小企業「育休中も100%有給なんて余裕はない」
休業期間の過ごし方に課題があるとはいえ、男性の育休長期化は社会にとっても歓迎すべきことだ。
しかし、都内のベンチャー企業の人事で働く女性Aさんは「結果として大企業とそれ以外の格差が広がりそうですね」と浮かない顔だ。
男性の育休取得率が急増した背景には、法改正がある。最も大きな影響を与えたのは「育児休業取得状況の公表義務化」だ。
これは2022年10月施行の改正育児休業法によるもので、従業員が1000人を超える企業の事業主に対し、男性労働者の育児休業等の取得状況を年1回公表するよう義務付けている。このため大手企業は、公表される数字をよりよく見せるために、男性社員の育休取得を促進する体制を積極的に取っている。
野村不動産グループのように、男性が子どもの出生後8週間以内に最大4週間の育児休業を取得できる「出生時育児休業(産後パパ育休)」における育児休業取得について、100%有給化を実現している企業もある。
実際、従業員1000人超企業に限れば、男性育休取得率は46.2%と半数近くにおよぶ高い水準になっている。そして2025年4月からは、従業員数300人超の企業にも、男性の育休取得率の公表が義務化される。
Aさんは、中小企業の実態を踏まえ、こう語る。
「ただでさえ人手が足りない中小企業で、働き盛りの男性が育休で長期離脱するなんて許容できないですよ。『なんちゃって育休』になっても仕方がない。さらに、育休中も100%有給なんて余裕はありません。結局、中小企業は見栄を張るために数字を増やす取り組みなんてできないのが実情です。私たちは、低い数字を開き直って公表するしかありません。本来は負担を企業に押し付けるのではなく、国がベビーシッターの利用を補助するとかの方がいいんじゃないでしょうか」