携帯電話大手4社の中では、シェアでは最下位の楽天モバイルが、共通ポイントや金融サービスの利用度では「一人勝ち」の状態だという。
モバイル専門の市場調査を行うMMD研究所(運営元はMMDLabo、東京都港区)が2024年7月29日に発表した「通信4キャリアユーザーの共通ポイント・金融サービス利用に関する調査」で明らかになった。
「楽天圧勝」の理由は何か。逆に、弱みはどこか。docomo、au、SoftBankの反撃はあるのか。4社の熾烈な経済圏競争の行方を調査担当者に聞いた。
ポイント、クレカ、QR決済、銀行、証券すべてで圧勝
MMD研究所の調査(2024年7月5日~9日)は、予備調査では18歳~69歳の男女2万5000人が対象。通信4キャリアは「docomo(ahamo含む)」、「au(povo含む)」、「SoftBank(LINEMO含む)」、「楽天モバイル(MVNO含む)」を指す。
まず、通信4キャリアユーザーの共通ポイント・金融4サービスのクロスユース状況(率)を聞いた。クロスユース率とは契約先の携帯電話会社が提供するポイント/決済などの各サービスをどの程度利用しているかを示す比率で、これが高いほど「利用者の囲い込み」につながっていることになる。
楽天モバイルは「ポイント」「クレジットカード」「QR・バーコード決済」「銀行」「証券」と5サービスすべてでトップになり、docomo、au、SoftBankは「ポイント」「QR・バーコード決済」の2サービスでクロスユースの利用がトップとなった【図表1】。
楽天モバイルの圧勝といった様子だ。そこで、サービスごとに上位3位までを聞いた。
「共通ポイント」では、docomoは「dポイント」、auは「Pontaポイント」、SoftBankは「PayPayポイント」、楽天モバイルは「楽天ポイント」と、それぞれ系列のサービスが最多となった。
しかし、2位はdocomo、au、SoftBankが「楽天ポイント」、楽天モバイルが「Vポイント」となり、ここでも楽天の食い込みが目立つ【図表2】。
「クレジットカード」では、4社ともに「楽天カード」が1位に。2位はdocomoが「dカード」、auが「au PAY カード」、SoftBankが「PayPayカード」、楽天モバイルは「イオンカード」となり、ここでも楽天の強さが際立った【図表3】。
「QR・バーコード決済」ではどうか。docomoは「d払い」、auは「au PAY」、SoftBankは「PayPay」、楽天モバイルは「楽天ペイ」と、それぞれの系列が最多に。2位はdocomo、au、楽天モバイルが「PayPay」、SoftBankが「楽天ペイ」となり、「PayPay」の強さが目を引く【図表4】。
「利用銀行」では、docomo、au、SoftBankは「ゆうちょ銀行」、楽天モバイルは「楽天銀行」が1位に。2位はdocomo、au、SoftBankが「三菱UFJ銀行」、楽天モバイルが「ゆうちょ銀行」と、ばらつく結果に【図表5】。
最後に「証券会社」を聞くと、大手4キャリアともに1位は「楽天証券」だった。2位は「SBI証券」、3位は「野村證券」とすべてで同じ順位に。ここでも楽天モバイルの圧勝に終わった【図表6】。
今回の楽天モバイルの強さ、どうみたらよいのだろうか。
楽天銀行と楽天証券の連携が、楽天の最大の強み
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったMMD研究所の担当者の話を聞いた。
――MMD研究所が今年(2024年)2月に行なった「携帯電話大手4社のシェア・満足度調査」を見ると、楽天モバイルのシェアは8.6%で、4社の中では最下位です。楽天モバイルの「総合満足度」も大手4社9サービスのうち、5位です。
それなのに今回の調査では、楽天モバイルがすべての分野で一人勝ちの状態になっているのは、何が理由でしょうか。
担当者 楽天モバイルを使うことで楽天市場での還元率がよりアップするなど、楽天グループのほかのサービスをオトクに活用できることがすべての分野でトップとなった理由だと考えます。
特にクレジットカードや証券会社は、楽天グループ内のサービスを利用することによるオトクが最大のメリットともいえるでしょう。楽天グループ内の金融サービスの連携が強みです。
楽天銀行と楽天証券を連携することで銀行手数料が優遇されたり、楽天証券で楽天カードを使ってクレカ積み立てをするとポイントが貯まったりします。また、楽天ペイの決済を楽天カード利用することでポイント還元のキャンペーンがあるなど、グループ内での連携のしやすさの魅力が消費者にも伝わっているため、利用度に表れているのだと考えます。
3社の反撃は「ドコモポイ活」「auマネ活」「ペイトク」
――それにしても、かつては大手3キャリアと言われたdocomo、au、SoftBankが情けない印象を受けます。これから反撃、あるいは合従連衡の動きがあるのでしょうか。
担当者 大手3キャリアは合従連衡を経て、今後楽天モバイルに並び、グループ内サービスとの連携を高めていくと考えます。
楽天グループはEC(ネット販売)から始まりましたが、docomo、au、SoftBankは通信サービスから始まったため、モバイル端末を持つことが当たり前となった現在では会員基盤の獲得がしやすいかと思います。その会員基盤を生かして、他のサービスにどのように力を入れていくかが見どころでしょう。
最近ではNTTドコモのドコモポイ活プラン、KDDIのauマネ活プラン、ソフトバンクのペイトクなど金融サービス利用により通信料金がオトクになるプランを打ち出しています。
一方、楽天モバイルはグループ内の他サービス利用でポイント還元され、他社のような通信料金が変動するシステムはありません。大手3キャリアのこうした動きが各グループ内の金融サービス利用に影響を与え、通信サービスを軸としたグループの成長に寄与していくと考えます。
楽天の課題は、「実店舗での利用」と「企業の信頼度」
――ところで、MMD研究所が7月に発表したばかりの「2024年7月ポイント経済圏のサービス利用に関する調査」の経済圏の「総合満足度」では「イオン経済圏」がトップ、2位は「PayPay経済圏」で、「楽天経済圏」は3位です。このギャップはどういうわけでしょうか。楽天モバイルの課題はどこにありますか。
担当者 その調査では、満足度を「総合満足度」以外にも10項目で評価しています。
総合満足度1位のイオン経済圏は「実店舗での利用シーンの多さ」「企業の信頼度」などの3項目でトップ、2位のPayPay経済圏は「サービスの充実度」「サービス同士の連携の良さ」などの4項目でトップになりました。
しかし、楽天経済圏は「提供しているサービスの種類の豊富さ」「ポイントプログラム」の2項目でトップですが、「実店舗での利用シーンの多さ」と「企業の信頼度」ではかなりポイントが低く、満足してもらうための設備を整えることが課題といえます。
――なるほど。今後の通信キャリアの共通ポイント・金融サービス競争はどうなっていくでしょうか。
担当者 通信と金融の融合や、会員基盤を軸にしたサービス展開が今後の経済圏競争のカギになるでしょう。
docomo、au、SoftBankのグループ内の金融サービスとの連携や、楽天モバイルのプラチナバンド商用利用開始によるシェアの変化など、各社の動きが利用者の満足度に影響していくと考えます。
今後さまざまなサービスが連携していくことでオトクになり、経済圏への囲い込みが強化されていくと思います。ユーザーの利便性を軸にどのように展開していくかが各社の腕の見せどころになるので、今後も注目していきたいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)