時代の最先端をいくはずの情報通信業が、じつは市場から消えていく企業の割合が最も高いことが、東京商工リサーチが2024年7月24日に発表した「2023年『退出法人(倒産+休廃業・解散)』動向調査」で明らかになった。
毎年100社のうち3.5社が市場から去るハイペースだ。ほかの業種に多い物価高や人件費の高騰などとは違う理由で追い込まれるという。それは何か。調査担当者に聞いた。
創業支援で小資本でも新規参入、競争が激化
東京商工リサーチの調査は、2023年に「倒産」(再建型を除く)や「休廃業・解散」で市場から退出した企業(普通法人)が対象だ。全国で4万8444社(前年比1.8%増)に達し、2013年以降の11年間で最多を更新した。
産業別の退出率(企業全体に占める退出企業の割合)のダントツの1位は情報通信業の3.46%で、唯一3%を超えた。100社のうち約3.5社が市場から消えたわけだ。2023年を100とした退出指数は190.5で、11年間で2倍近くに上昇している。
東京商工リサーチでは、
「ソフトウェア開発を中心とした情報通信業は、経済産業省がスタートアップ企業などに行っている創業支援で小資本の新規参入が多いほか、市場ニーズや技術の変遷が早い。将来需要を見据えた戦略を立てられず、顧客獲得競争に敗れた企業を中心に淘汰され、退出率は高水準が続く」
と分析している。
退出率の2位は金融・保険業の2.61%、3位は卸売業の2.09%と続き、上位3産業の退出率は2%を超えた。金融・保険業については、
「NISAなどで活発化する金融商品取引業などで新規参入、退出数が多い」
と説明される。
ほかに退出率が高い小売業などが、物流費や仕入価格の上昇が価格転嫁できない企業が多いなどと分析されているのに対し、こちらも新規参入による競争の激化が背景にあるようだ。
多くの企業が自社でシステム構築できる時代に
J‐CASTニュースBiz編集部は、最先端企業が多いとされる情報通信業や金融・保険業になぜ市場退出が多いのか、より詳しく事情を探るため、調査を行なった東京商工リサーチの担当者に話を聞いた。
――情報通信業の退出がダントツの多い理由は、ズバリ何でしょうか。
担当者 IT業界は、新規参入業者が多いため、競争環境が厳しい業種となります。経済産業省をはじめ、さまざまな行政や金融機関が創業支援やスタートアップ支援策を出しており、比較的容易に創業することができます。
また、技術革新のスピードが速いため、最新の技術について随時情報収集を行い、将来の需要を見据えた戦略を立てることが必要になると思います。
たとえば、現在、アプリケーション開発などで新たな手法として広まっているのが「ノーコード(no-code)」や「ローコード(low-code)」と呼ばれているものです。
――それは、どういうことですか。
担当者 「コード」(code)は、ひもやケーブルではなく、コンピューターで処理する内容を記述した「ソースコード」(source code)を指します。両者の違いはソースコードを記述する量で、ノーコードはソースコードを書かない開発、ローコードはソースコードの記述量を最小限に抑える開発です。
GoogleやAmazonなども「ノーコード」「ローコード」の開発市場に参入しており、さまざまな「ノーコード」「ローコード」の開発プラットフォームが存在しています。
いずれにしろ、情報通信業以外の多くの企業が「ノーコード」「ローコード」に注目して、そのプラットフォームの導入が加速しています。導入されれば、システムを自社で構築できるうえ、開発のスピードが飛躍的にあがります。
導入した企業が自社開発に移行(システムの内製化)すれば、情報通信業を含めた他社開発の割合が減少することが考えられます。
――つまり、逆に情報通信業の出番が少なくなることもありうるわけですか。
担当者 「ノーコード」「ローコード」はほんの1例で、情報通信業を取り巻く環境は日々激変しています。その動きについていけず、将来を見据えた戦略を立てられない企業は去ることになります。
NISAなど金融商品取引にも新規参入が相次ぎ...
―― 一方、「金融・保険業」の退出が多い理由は何でしょうか。
担当者 金融・保険業のなかで、参入・退出ともに数字の変化が大きいのが、「証券、商品取引」となります。参入数も大きく増えましたが、さらに退出数も大きく伸びた結果、退出率が上がっています。
新規参入業者の増加したため競争が激化し、市場から淘汰される企業が増えたと思われます。背景として推察されるのがNISAなどの金融商品取引の活発化です。
――今後、情報通信業や金融・保険業が激しい競争に生き残るにはどうしたらよいか、何が課題だと考えていますか。
担当者 経営者が将来の需要を見据えた戦略をしっかり立てること、社員のスキルや技術の習得を促し、事業拡大にしっかり貢献してくれる人材を育成すること、DXや業務効率化などを進めて生産性をあげること、などが考えられます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)