「保育園落ちた日本死ね」という匿名ブログが話題になってから7年。保育園が増える一方、学童保育の「待機児童」の問題も深刻になっており、「♯学童落ちた」というSNSの母親の声が相次いでいる。
そんななか、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年7月19日、「学童保育についての意識調査」を発表した。
学童保育探しが「大変だった」人が3割を超え、入れなかった人も2割近くいた。どうすればよいのか。専門家に聞いた。
学童探しが大変だった人3割、保育園の半分以下だが...
こども家庭庁の調査「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」(2023年5月1日現在)によると、放課後児童クラブ(学童保育)の登録児童数は145万7384人と過去最多を更新した。
待機児童数も1万6276人と2022年度より1096人増えた。少子化で子どもの数が減っているのに、共働き夫婦が増えているため学童の数が追いつかない状態だ。
しゅふJOB総研の調査(2024年5月15日~22日)は就労志向の子どものいる女性346人が対象。
まず、「学童に子どもを預けようとした経験があるか」を聞くと、「ある」と答えた人が約4割(38.4%)いた。
経験者に「学童に預けることができたか」を聞くと、「希望の施設に預けることができた」が74.0%、「希望の施設ではないが、預けることができた」が7.6%、そして結局「預けることができなかった」人が18.3%いた【図表1】。
経験者に、「学童探しは大変だったか」を聞くと「大変だった」が30.6%、「ラクだった」が54.0%だった【図表2】。
これを「保育園探し」のケースと比較したのが【図表3】のグラフだ。
「保育園探し」では80.1%が「大変だった」と答えたが、「学童探し」ではその半分以下。「保活」に比べ、学童は保育園からの持ちあがりのケースが多いことなどが影響しているようだ。
小4以降は、仕事を辞めるか、時短か、高い民間に入れるか?
しかし、フリーコメントを見ると、「小6まで預かってほしい」など、さまざまな問題点を指摘する意見が寄せられている。
「指導者をもう少し、増やして欲しい」(50代:正社員)
「仕事以外は預かってくれない。親が通院などで家にいない場合でも預かれないと、まったく融通がきかなかった」(40代:派遣社員)
「役員があるから預けなかった」(50代:パート/アルバイト)
「預けていた学童は、保育園が運営していたため、保育園から持ち上がりで入ることができた。それは本当にありがたかったが、学校から離れており、狭くて、料金が高かった」(40代:今は働いていない)
「うちの地域は小3までなので、母親が働きづらい。中学生くらいなら1人で留守番も大丈夫だと思うが、小学生のうちは不安。必然的に仕事を辞めるか、時短か、民間の学童に入れる(費用が跳ね上がる)しかないので、選択の幅が狭まるのがネック」(30代:正社員)
「両親が仕事をしていなくても、一定額の費用を払えば通えるようになるといいなと思います」(40代:フリー/自営業)
「平日21時まで預けられる学童が増えればよいと思う」(50代:派遣社員)
「こどもは楽しいと言ってくれていたので、安心して預けることができたが、人数が多い学童だったので小3までとなってしまったのが残念(40代:パート/アルバイト)
「一時的預かりも簡単にできるといいと思います」(50代:パート/アルバイト)
こういった要望の声が多かった。
公立だと月々数千円に抑えられるが、民間だと数万円
J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。
――こども家庭庁の調査でも、学童の待機児童が増えています。「♯学童落ちた」のハッシュタグが付いたSNSが拡散、働く母親が学童に落ちたために、フルタイム勤務をあきらめる「小1の壁」問題が報じられています。
その一方でしゅふJOB総研の調査結果では、保育園探しより「ラクだった」という人がかなり多いですが、この違いは何でしょうか。
川上敬太郎さん 学童探しはラクだったと回答した人が過半数あったものの、それはあくまで全体の傾向であって、生活環境や地域など、置かれている状況によって個々に実情は大きく異なると思います。
一方、以前保育園について調査した際には、「保活が大変」と答えた人は8割におよびました。学童の場合は小学校の敷地内に設置されていることが多くて探しやすいことや、保活に比べるとお子さんが成長して子育てに手がかからなくなっていることなどが影響しているのかもしれません。
ただ、学童探しが大変だったと回答している人も3割におよんでいます。保育園に比べて入りやすいと考えていたとしたら、学童に入れなかった場合の衝撃はむしろより大きくなるかもしれません。結果、預けることが出来なかった人が2割いることは、決して軽視できない数字だと思います。
――公立の学童では小3までの所が多いです。また、運営方式が「公立公営」「公立民営」「民立民営」と分かれており、それぞれ値段や、質、特色の違いがあります。こうした違いを川上さんはどう考えていますか。
川上敬太郎さん 個々の施設ごとに特色はあると思いますが、大きいのは利用料金の差だと思います。公立だと月々、数千円に抑えられるのに対し、民間だと数万円とケタが変わってしまいます。
それだけ教育などのサービスが充実していたり、預かり時間の融通が効いたりといったメリットもあるので、一概に良し悪しは言えません。ところが、やはりできる限り出費は押さえたいと考えるご家庭が多いのではないでしょうか。
調査では、「希望の施設に預けることができた」と回答した人が7割超でした。当然ながら、望ましいのは全員が希望の施設に預けられることだと思います。今後、学童の待機児童がさらに深刻化していくと、希望の施設に預けられる人の比率が下がっていくことも懸念されます。
「小学生のうちは1人で留守番させるのは不安」
――フリーコメントでは、私は、「宿題も済ませて、お友達と遊べるので良いと思う」「小学校と同じ敷地内で、7時まで預かってもらえるので大変助かった」という学童のありがたみが身に染みた声に共感しました。
その一方で、「役員があるから預けなかった」「子どもは楽しいと言っていたが、小3までだったのが残念」といった声に、何とかならないのだろうかと思いました。川上さんはどのコメントが響いたでしょうか。
川上敬太郎さん お子さんに一人で留守番させることが心配な親御さんは多いと思います。物騒な事件のニュースを見ると、怖くなってしまうものです。「小学生のうちは1人で留守番させるのは不安」というコメントには親御さんの率直な思いが表れていると感じました。
一方で、お子さんも成長とともに意思をハッキリと示すようになってきます。学童が合わず、「子どもが行きたがらなかった」という声には、親御さんとお子さん双方の葛藤が感じられました。また、親御さんごとに考えも色々です。
その点、「子どもはお家に帰ってゆっくりさすべき派です」というコメントも印象的でした。私自身は小学1年生から一人っ子で鍵っ子でしたが、寂しさや不安を感じていた半面、家で1人だと気楽という思いもあったのを覚えています。
都知事選でも保育園待機児童は注目されたが...
――川上さんはズバリ、「こんな学童を作ってほしい」「こういう方法ならもっと学童を増やせるはずだ」と、どんな改革案を考えていますか。
川上敬太郎さん 利用費用を考えると、公立の学童保育の整備を進めていく必要があると思います。保育園に預ける人が増えれば、その先に控える学童でも待機児童問題が生じるのは必然の流れでもあります。
ただ、一方で少子化が加速していますし、施設をつくりすぎると、供給過多の問題が発生しうる点も保育園と同様に注意が必要です。
また、学童の待機児童問題は職場の問題と表裏一体でもあります。在宅勤務や時短正社員制度の設置、フルフレックスの導入など柔軟な働き方を可能とする選択肢を増やすことで解決できる要素が大きいはずです。
施設を増やすことだけにとらわれず、職場のあり方も含めた総合的な施策を進めることが重要なのではないでしょうか。
――学童の問題は、これまであまりクローズアップされてきませんでしたね。今回の調査で特に強調しておきたいことがありますか。
川上敬太郎さん 学童の待機児童も、かねて指摘されていたことですが、「保育園落ちた日本死ね」という言葉が注目を集めるなど、保育園のほうが話題になりやすく、学童は影が薄かった印象があります。
先の東京都知事選挙でも、保育園の待機児童が大きく減ったという実績は強調されましたが、学童の待機児童の解消が進んでいない現状についてはあまり注目されませんでした。
国や自治体の取り組みで保育園の整備が進んできているだけに、学童の現状もフォーカスし、テレワーク実施率の低下などの状況も踏まえつつ、職場環境の整備を含めた総合的解決策を進めていく必要があると思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)