「ピグマリオン効果」と、共通のビジョンに向かい自走するチームの力が生み出すもの
このエピソードから得られる、「難しいチーム」に対処するためのヒントを押さえておきましょう。
1つは、上司が部下を信頼し期待することが、部下のモチベーション向上に与える力の大きさです。
皆さんは、「ピグマリオン効果」と「ゴーレム効果」をご存じでしょうか。
親や教師や上司が子どもや部下に「こうなってほしい」「こうなれるはず」と期待を持ち続けると、相手はそれに応えるように成長してくれるのが「ピグマリオン効果」。
これに対し、相手に関心も期待も持たず放任したり、マイナス評価ばかりを与えたりしていると、やる気を失くし、本来の力未満にパフォーマンスを下げてしまうのが「ゴーレム効果」です。
Mさんのもとに集まったメンバーは、皆各店舗から押し出された、いわば落ちこぼれ人材。以前の職場では評価も低く期待もされず、まさにゴーレム効果で後ろ向き状態でした。
こうしたメンバーに対し、Mさんは一人ひとりを信頼しようと心に決め、各自の強みを引き出し活かそうと、期待をかけました。そのことが、ピグマリオン効果を発揮したといえるでしょう。
当初、もっとも対応困難だったA君の変化は、その力の大きさを物語っています。
もう1つは、共通のビジョンに向けて、メンバーが一丸となることの力の大きさです。
Mさんがメンバーの気持ちをひとつにしようと毎朝行った定例会は、まさにビジョン・ミーティングでした。
皆で自分たちの望む店のあり方や仕事のビジョンを語り合い、一人ひとりの思いを込めながらひとつの理想の店舗像を描いていくものでした。
同じビジョンや目標でも、上層部や上司から降ろされてきたものは、どうしても「押し付け感」や「やらされ感」が伴います。
これに対し、たとえ拙い内容でも、自分たちで話し合い腹落ちして決めたビジョンであれば、その実現に向けてメンバーが一丸となれるのです。
「難しいチームメンバー」への対応に苦慮している上司の皆さんは、自分自身の部下との向き合い方がその原因になってはいないか、内省してみることも大切です。
(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)
【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。