「そんなビジョンはダサい」 気持ちをひとつにしようと奮闘も...メンバーからの「ダメ出し」で窮地に

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   上司の言葉がけひとつで、モチベーションが高まった経験はありませんか?

   実際のエピソードや感動的なエピソードを取り上げ、人材育成支援企業FeelWorks代表の前川孝雄さんが「上司力」を発揮するヒントを解説していきます。

   今回は、切望したプロジェクト・メンバーに抜擢されたものの、思わぬ事態に遭遇した若手リーダーの奮闘エピソードです。

  • 「上司力」を発揮するには?
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全員ミーティングで皆の気持ちをひとつに

   このエピソードは<喜びも束の間「これじゃ、職場崩壊?!」 社内公募を通過、新規出店プロジェクト・リーダーに抜擢されたのに>の続きです。

   Mさんは、思い切ってメンバー全員と腹を割って向き合おうと決めました。

   毎朝出店準備作業に入る前の1時間を、全員ミーティングの時間に充てることにしたのです。初回に、メンバーにこう呼びかけました。

「皆、ここに集まった経緯や気持ちは、それぞれだと思う。でも、この店を立ち上げることができるのは、ここにいる我々だけなんだ。だから、僕も皆を頼りにしている。せっかく、自分たちの思い通りに新しい店舗をつくれるんだ。皆でアイデアを出し合って、いい店にしていこう」(Mさん)
「まず、どんな店にしたいか、皆でつくりたい店のイメージを考えよう。この地域のお客さんに私たちらしい飲食の感動体験を伝えたいから、その思いを込めたスローガンとなるビジョンを考えよう! 『めざしたい店づくり』というテーマで、思い思いの意見を出してほしい」

   Mさんは、本部と掛け合い、独自のスローガンも掲げられるように承認を得ていたのです。

   ちょうどその頃、各店舗の裁量を広げ、エリアや地域に密着する創意工夫で個性化を図ろうと、経営方針の変化があったことも幸いしました。

   Mさんは、毎日、メンバーへの呼びかけを根気よく行いながら、各自の意見を募っていきました。

   また、Mさん自身の飲食へのこだわりや、お客様に喜んでもらい嬉しかった出来事、また前のめりでの失敗談など、自分自身の経験や思いを話しながら、メンバーの思いを引き出そうと働きかけました。

   そして、一人ひとりのメンバーの強みを持ち寄れば、きっと自分たちらしい、いい店がつくれると、語りかけ続けたのです。

   すると、初めは押し黙ったままだったメンバーたちから、ポツリポツリと発言が出始めました。そして、次第に皆の表情やミーティングの雰囲気も変わってきたのです。

次第に皆からアイデアが出始めるなか、押し黙った気になるメンバーが...

「やっぱり飲食は味が勝負だから...仕入れと味付けが大事だ。客層とニーズをもう少しよく調べて、好まれる食材や味を研究したほうがいいよ」
「美味しさだけじゃなく、元気になるメニューと活気ある雰囲気を売りにしたらどうだろう」
「地元地域のお客さんに親しまれる店、居心地がいい店がいいんじゃないか」
「常連さんばかりでなく、初めてのお客さんも気楽には入れてくつろげる、オープンな雰囲気も必要だよ...」

   皆から出てくる意見は断片的ではありましたが、少しずつ積極的になり、イメージも膨らんできました。

「なかなかいいアイデアが出てきたね。今は、お互いに遠慮なく思ったことを出し合って、その後に皆で整理しよう! できるだけ一人ひとりの意見をうまく取り入れられるように、工夫していこう」(Mさん)

   Mさんは、皆が前向きになってきたことに、手応えを感じていました。

   Mさんは、皆から出た意見を書き出したメモを毎日更新しては、全員に配布しました。意見メモをもとにしたミーティングでの話し合いも、盛り上がりを見せるようになりました。

   ただ、そうした中でも、一人だけほとんど口を開かず、皆の意見をただ黙って聞いている、気になるメンバーがいました。

   初日の面談で、「前の職場でも評価されず、期待もされていない」と語ったA君です。

   その後、他のメンバーと口論になりMさんが止めに入り、話を聞こうした時も、「言われたことはやりますから、僕のことはほっといてください」と切り捨てるように言っていたのです。

「(もう少ししたら、もう一度ゆっくりと話をしてみよう。少しは気持ちも変化しているかもしれないし...)」(Mさん)

「そんなビジョン、ダサくてダメでしょ!」

   「めざしたい店づくり」への意見が出始めて1週間ほどが経ったある朝のミーティングで、Mさんは新しいメモを皆に配り、こう話しました。

「『めざしたい店』についての皆の意見もだいぶ集まり、話し合いも進んできたね。そこで、僕なりに皆の意見の共通項を取り出して、店の当面のビジョンを表現した標語案を考えてみたんだ。『美味しさと笑顔とおもてなしで、地域の元気と絆を育てる店』...なんて、どうかな?」(Mさん)
「なるほど...。確かにきれいにまとまってますね~」
「だいたい、皆が話し合ってきたイメージに近い感じがします...」

   何人かが前向きな感想を述べた、その時...。

   今まで一度も口を開かなかったA君が、すっと手を挙げたのです。

「そんなビジョン、ダサくてダメでしょ!」(A君)

   皆驚いて、一斉にA君の顔を見て、次にMさんの顔を見て...固唾を飲んで状況を見守っています。Mさんも、あまりにハッキリしたダメ出しに言葉を失いました。

「(やっぱり、A君は納得していなかったんだ...。もっと早く話し合っておけばよかった...)」

   Mさんはメンバーの前でA君といかに対峙し、この窮地をどう乗り越えればよいか...頭の中で答えを探していました。

   <「落ちこぼれチーム」が一丸となって準備した新店舗がオープン その初日に待っていたことは>の記事に続きます。

(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)



【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。

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