「インティマシー・コーディネーター」は映画制作者を「邪魔する人」ではない 浅田智穂さんに聞く意義と役割

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   「インティマシー・コーディネーター」(IC)という職業が注目を集めている。最近になって認知度が上がってきたICだが、映画「先生の白い噓」の三木康一郎監督が、主演俳優側からICを入れることを求められたものの、「間に人を入れたくなかった」という理由で入れなかったとインタビュー記事で明かしたことで、さらに脚光を浴びることになった。その後、三木監督と稲垣竜一郎プロデューサーが舞台挨拶で謝罪した。

   ICは、性的なシーンで演者と制作側の間に入って調整やケアを行う役割を果たす。日本でも撮影時にICが携わる作品が増えているものの、今回の問題で初めて知ったという人も多そうだ。この機会に、ICの浅田智穂さんに、その意義や役割について話を聞いた。

  • カップルが密着するシーン(イメージ)
    カップルが密着するシーン(イメージ)
  • カップルが密着するシーン(イメージ)

台本「2人は愛を確かめ合った」の具体的演出を監督から聞き出す

「インティマシー・コーディネーターというのは、映像制作においてヌードや性的な描写がある時に、俳優の皆さんが精神的にも身体的にも安心安全に演じることができるよう、それから監督が求めているビジョンを最大限実現するためにコーディネートするスタッフです」

   こう説明するのは、ICの養成や資格授与、派遣を行う機関「Intimacy Professionals Association」(IPA)から日本人で初めて認定を受けたICで、映画「52ヘルツのクジラたち」、「正欲」、ネットフリックス映画「シティーハンター」など数多くの作品に参加してきた浅田智穂さんだ。

具体的にはどのようなことをするのか。

「まず台本を読ませていただき、『インティマシーシーン』だと思われるシーンをピックアップします」

   「インティマシーシーン」とは、ヌードや性的な描写、キスシーンなどを指す。また、服を着ていても、イチャイチャするなど密着する行為があるときにはインティマシーシーンとなるという。

   台本には「2人は愛を確かめ合った」「2人は朝を迎えた」などの表現が使われることがあり、詳しい描写が記載されていないことが多いという。そのため、ICはピックアップ後、監督に詳しい描写を聞き、その内容を俳優に伝え、確認するという。

「俳優の皆さんお一人お一人と面談という形でお話しし、そこで監督の希望している描写にご同意いただけるかどうか聞きます。同意をいただけたことのみが撮影時にできるという形です。もしも俳優の許容範囲でない場合は、どうすればそのシーンを成立できるかを監督とお話し、撮影の前までには、お互いに納得した着地点を見つけるようにします」

   また、撮影当日も、必要最小限の人数で撮影体制を作り、前張りなどの保護アイテムを使用し、安全な撮影環境を作る。

「俳優の皆さんに寄り添って、撮影が無事に終わるところまでが私の仕事です」

俳優は当日までどこまで脱ぐのかを知らされていなかった

   ICの職業がなかったころ、俳優は当日まで何をするか、どこまで脱ぐ必要があるのか知らされないことが多かったという。こうした状況は俳優を不安にし、「何を求められているかわからないと、お芝居そのものを考えるまでの余裕がないと思うんです」と浅田さんは言う。ICが入ることで、自分のすることがはっきりし、「自分ができることしかやらなくて良い」という安心感につながる。その意義を

「集中して自分のお芝居を考えられるように余裕が生まれる。不安が取り除かれることが大きいかなと思っています」

と話した。

   さらに、ICは俳優だけでなく、インティマシーシーンのある作品の監督、スタッフ、そして作品そのものにとっても重要な役割を果たす。

   例えば、監督が俳優に「嫌なことは言ってほしい」と伝えていたとしても、それを素直に言える俳優は少ない。ICが入ることで、圧をかけることなく俳優からやりたくないことを聞くことができる。

   スタッフにとっても、監督はヒエラルキーのトップだ。俳優が嫌な思いをしていても、「自分の上司や監督、プロデューサーの機嫌を損ねたら、自分たちは次の仕事がないだろう」と思うと、なかなか監督を止めることができない。ICが入ることで、「目の前で行われているお芝居が、俳優が同意していて不安なくできているお芝居だと思えば、安心して自分たちの仕事を全うできると思います」という。

   さらに、作品を守ることにもつながるという。

「ICが入っている作品は、インティマシーシーンにおいてはきちんと同意を得たことしかしていないはずなので、安心して公開を迎えられるのではないかなと思います」

「作品に入ってもらってよかった」という声を増やしたい

   映像業界でのインティマシーシーンへの認識について、浅田さんは「実際変わってきていますし、依頼も増えています」という一方、業界の人の中にも「言葉は聞いたことがあるけど、何をする人なのか分からない」という認識の人も多いと感じている。

「先日も現場スタッフから、撮影で私と会うまで『ICって、私たちの邪魔をする人だと思ってたけど、全然違うんですね』って言われたくらいです。ただ、撮影を経て『大切なお仕事』とおっしゃってくださったので、そう思ってくださる方を私は1人でも増やしていくことが大切だと思っています」

   浅田さんによると、過去に参加した作品の俳優やスタッフが「すごく良かった」として別の作品に浅田さんを紹介するケースも多い。業界におけるICの認知度向上のためには、「作品に入ってもらってよかった」という実績を積み重ねるしかないと話す。

「ネガティブな騒動で話題になっているのがとても残念」

   浅田さんは現在、ICの育成も行っている。IPAのカリキュラムを教えており、受講者は受講完了すると、IPA認定の資格を取得できる。同意とは何か、ジェンダーやセクシャリティ、 ハラスメント、トラウマ、台本の読み方や監督や俳優との接し方などについて、座学とワークショップで100時間以上かけて学ぶという。

   浅田さんは今回ICが世間的に話題になったことについて、

「ポジティブな話題で認知されたかったのに、今ネガティブな騒動で話題になっているのがとても残念です。私としては、ICがもっと普及して、話題にならないぐらいのところまで持っていきたいんです」

と話した。

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