インターネットの報道メディアでつくる社団法人「日本インターネット報道協会」(元木昌彦代表理事)は2024年7月25日、協会のウェブサイトをリニューアルした。これを機に、学者などのインタビュー「ネット時代に報道をどう考えるか」を掲載している。
協会は08年8月に設立、LINEヤフー、日本ビデオニュース、ドワンゴ、ジェイ・キャスト、ORICON NEWSなど15社が加盟、啓発活動などを行っている。ネットはいまや情報伝達の重要な役割を果たしており、新聞、雑誌、テレビが報道の中心だった時代と変わってきた。ネットを通して流れる情報の受け取り方も変化しており、「報道の役割」も変わったのではないか、との視点でインタビューが企画された。
東大・林香里氏はファクトチェック、文春編集長は「松本報道」に言及
東大の林香里副学長(マスメディア研究)は「中傷やフェイクニュースが出回ることを止められない社会です。きちんとしたメディア、つまり報道機関が正確な報道をしていくこと。そして常に、誤った情報を修正していくこと。市民もその運動に参加していくこと。そうした地道なファクトチェックの機能がますます重要になっていくと思います」と話した。
週刊文春の竹田聖編集長は「裏付けを取ることに関しては、本当に労を惜しまずやってもらっています。たとえば、松本(人志)さんの問題では、被害女性の話自体は、何年も前のことで録音や録画などももちろんない。しかし、百戦錬磨の記者たちが何度も取材を重ね、必死に訴える彼女たちの語り口、証言のぶれのなさなどから、真実性は高そうだと考えた。そこから本格的な裏取りを始めているわけです。たとえば、ホテルの間取り図を描いてもらって、実際にその部屋に宿泊し、彼女らの記憶と合致するかを検証する」などと、「松本報道」の編集部内の様子にも触れた。
江上剛氏「最近の新聞は、ニュースではない『読み物』がやたらと多い」
上智大の佐藤卓己教授(メディア史)は「流言は『最も古いメディア』ともいわれます。人間は文字を発明する前まで、ひとから聞いた話を誰かに話して伝えていた。情報の『受け手』が『送り手』になるわけです。そのプロセスは基本的に、現在のSNSと同じです。つまり、流言とは最も原始的なコミュニケーションのスタイルであり、人間の原初的な欲求に合致しており、それによって人々は盛り上がることができます。
これと比べると、報道とは、より文明化された概念です。そこでは情報の『送り手』と『受け手』が区別されています。人間社会の歴史的な発展のなかで、コミュニケーションの流れは流言から報道に進んでいったといえます」と流言と報道の関係を説明した。
経済広報センターの佐桑徹常務理事は「日本の企業が直面している問題はむしろ、ネットの炎上やクレーム対応。これに加えて、これからはフェイク画像への対応が大きな課題になってくる」と話す。
作家の江上剛氏は「新聞や週刊誌はネットの速報性に負けています。ネットのスピードに世の中のみんなが慣れてしまっている。最近の新聞は、ニュースではない『読み物』がやたらと多い。ちょっと有名な人の解説も多い。『これは週刊誌か』と思うぐらいです」と話している。
協会ウェブサイトは(https://www.inaj.org/)から。