体操女子日本代表の宮田笙子選手がパリ五輪を辞退するというのだ。理由は喫煙と飲酒で、日本体操協会の行動規範に反したという。
これに対して、賛否両論がある。19歳の五輪出場の夢を、たかが喫煙・飲酒で奪うのはやりすぎるという意見(温情派)と、体操選手でなくてもルールに従うのは当然なので出場できなくてもやむを得ないという意見(ガチルール派)だ。
法的なペナルティは本人ではなく体操協会関係者が負うべき
体操協会の行動規範を読むと、20才以上でも喫煙も飲酒も禁止とあり、宮田選手はこれに反しているのは事実だ。
なお、一般規範である未成年飲酒・喫煙禁止法では、一般に未成年者は飲酒・喫煙がダメといわれるが、法律をきちんと読めば、20才未満の本人には罰則がなく、周囲の人が罰せられる。この一般規範を適用すれば、ペナルティは本人ではなく体操協会関係者が負うべきだ。
なので、体操協会の行動規範を杓子定規のように適用するのではなく、注意に止め出場禁止はやりすぎという温情派の意見が出てくる。そこでガチルール派と意見の差が出る。ただ、ここは価値判断の差なので、どちらが一方的に正しいとは言いにくい。多くの識者の意見も自らの価値観を押し付けるようで、これではどちらの立場でも説得力がない。
選手本人の「辞退」で体操協会は責任を回避?
筆者は、価値観によらず、手続き面を重視したい。体操協会の行動規範によれば、処分は倫理規定による。これを忠実に行えば相当な時間がかかるはずだが、今回の決定は早かった。そもそも「辞退」という点にも、体操協会は選手本人にプレッシャーをかけて選手当人の判断にして体操協会は責任を回避したような節がある。筆者はここに昭和の体育会系体質の匂いがするので、この手続き面から今回の問題をみると、本人に対し「一発アウト」で五輪辞退というのはやりすぎだと思う。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。