内閣府が主催した「賃上げを幅広く実現するための政策アイデアコンテスト」で優勝したアイデアに、SNSで疑問の声が広がっている。そのアイデアとは、従業員が定時以降は個人事業主として会社から業務を受託することで、企業としては社会保険料をカットでき、従業員としては手取りの収入が上がる、というものだ。
J-CASTニュースの取材に応じた社労士も、この働き方の手法の懸念点を指摘する。内閣府は、批判は承知しているとし、あくまで「自由な発想や斬新性」を重視して選んだものだと説明した。
法改正や新たな財源、リスキリングを必要としない賃上げ方法
内閣府ウェブサイトによると、このコンテストは「『賃金が上がることが当たり前』という前向きな意識を全国に広げ、社会全体に定着させていくことが重要」とも問題意識のもと、内閣府の職員や他省庁、地方自治体、民間企業からの出向者などからアイデアを募り開催された。
2024年6月14日に、賞状やトロフィー授与の様子とともに、受賞アイデアがホームページ上に公開された。「優勝アイデア」に選ばれたのは2つ。そのうちの1つが、7月10日頃にXで拡散され、波紋を広げた。
公開された資料に記載の「超概算」キャッシュフローによると、「従業員目線」と「企業目線」の2つの角度で説明。前者では、従業員の定時以降の業務の受託金額(残業代)が100万円の場合、通常の残業では社会保険料と所得税が引かれ手取りが79万円となるところ、業務委託契約の場合は100万円がそのまま受け取れる計算だと説明している。
後者の企業目線では、通常の残業の場合、残業代1000万円+社会保険料150万円の計1150万円がコストとなるところ、業務委託契約の場合は委託費用1000万円で済み、150万円のコストカットになるとしている。
資料には「法改正や新たな財源を必要とせず、従業員の⼿取り額を増やすことができる」「リスキリングを必要としない副業である」とのポイントも記載されている。
Xではこれに、契約上は請負契約にも関わらず実際は、発注者と労働者との間に指揮命令関係が生じる「偽装委託」になるのではないか、いわゆる「働かせ放題」になるのではないか、自身で社会保険料や税金を支払うため実質的な手取りのアップにならないのではないかなどの指摘が寄せられ、「これを入賞させたらあかんやろwww」「脱法行為を『政策アイデアコンテスト』で優勝させる内閣府キッツイ」といった批判が相次いだ。
一番の懸念は「契約と実態の乖離」
元労働基準監督官でアヴァンテ社会保険労務士事務所代表の小菅将樹氏は、このような働き方は法的には問題がないとする一方で、懸念点はあるという。
この資料では具体的な業種を想定しておらず、業務内容によっては、成功報酬型の業務委託契約の方が柔軟な働き方ができるなど、労働者にとってメリットがある可能性があるとしつつも、「十把一絡げに『個人事業主とする方がお互いWIN-WINじゃないか』とする考え方は取りづらいです」と話す。
特に、契約は業務委託契約にも関わらず、実態は進捗管理をされたり細かい指揮命令系統が反映されたりといった、「契約と実態の乖離が一番こわい」と懸念する。偽装委託になるかどうかは、日頃のコミュニケーションなど契約形態のみでは読み取れないとしつつも、「労働者(社員)として働いている実態があったにも関わらず、個人事業主の体裁で、個人の保険の下で申請をしていた」ような実態があった場合、例えば労災事故が発生した時には、「労災として処理すべきだという考え方にもなる可能性はあります」という。
また、業務委託契約では事業主責任が発生せず、個人の責任で仕事をすることになるため、いわゆる「働かせ放題」になる可能性は「大いにあります」と指摘する。
そのうえで、この働き方の手法について「内閣府が推奨しているから良い」と捉える人がいるかもしれないといい、内閣府は「きちんとリスクマネジメントも周知した方がいいと思う」とした。
内閣府の見解は
内閣府の担当者は、「批判があることも承知をしています」としつつも、「自由な発想や斬新性」を重視して優勝に選んだと説明した。
コンテストの目的はあくまで「人材育成で自由な発想、アイデアを出してもらって組織の活性化に繋げる」ことだと説明。その上で、「これが政策的に何か繋がっていくというのは、現時点では特に考えておりません」とした。