巨大な手形を背負った女性らが、エスカレーターで立ち止まって...。こんな姿を撮った写真がXで投稿され、注目を集めている。
実は、エスカレーターで立ち止まることを義務化した条例施行以来、名古屋市が取り組んでいる活動の1つだ。市民からどんな反応があるのか、市に取材した。
「物理的に右側を歩けないようにしようと考えました」
「なごやかにSTOPしてね」。黄色い手形の真ん中には、赤字などでこんなアピールが出ている。その手形を背負った若い女性は、赤い帽子に赤い上着を着ており、エスカレーターの右側に立ち止まる姿を後ろの人たちが見上げていた。
この写真は、2024年7月8日にXで投稿され、投稿者は、その姿を初めて見たと書いていた。名古屋市内の繁華街・栄地区で撮ったという。
手形を背負う姿は、かなり目立つこともあって反響を呼び、3万件以上の「いいね」が集まっている。
「安全のためにいいことだと思います」「和みますね」と評価する声も出る一方、「ここまでしないといけないのか」「一度片側歩く文化が根付いてしまったので難しい」と懐疑的な意見もあった。
エスカレーターでの事故を防ごうと、市は、立ち止まることを義務づける条例を23年10月1日に施行した。21年施行の埼玉県に続くもので、同県同様に違反しても罰則はない。条例施行の翌日から、市では、啓発活動の一環として、手形を背負って条例順守を呼びかける「なごやか立ち止まり隊」の活動をスタートさせている。
その活動について、市の消費生活課は7月10日、「エスカレーターの右側を歩く習慣が残っている状態を変えようと、物理的に右側を歩けないようにしようと考えました」と、J-CASTニュースの取材に説明した。「なごやか」と名前を付けるなどしたのは、名古屋にかけたダジャレだという。
「邪魔などとクレームがあったことは、1件もありません」
立ち止まり隊のメンバーは、市が委託した業者がその都度募集をかけており、学生を含めたアルバイトや人材派遣のスタッフだとした。性別を指定していないものの、監督的な立場のメンバーが女性のため、集まるのが女性ばかりになったのではないかという。
1人で活動すると、絡まれたりしてトラブルも考えられるため、3人セットでまとまって、エスカレーター利用者の多い繁華街や地下鉄の駅などで活動している。
まったく同じ手形では飽きられるとして、23年12月からは、季節感を出した装飾で変化を出している。例えば、12月ならクリスマス風、夏は、投稿写真のように太陽と波、浮き輪をあしらったものなどだ。
「周りの市民からは、『頑張ってね』と声をかけられたり、おばちゃんからミカンをもらったりしています。邪魔などとクレームがあったことは、1件もありませんね。トラブルも聞いていません」
市によると、立ち止まり隊は、条例施行翌日から2週間連続で活動した後、23年12月下旬から24年3月下旬まで計11回出動した。
市では、「SNSでバズったりして、評判がよく、宣伝効果があった」として、24年度も活動継続を決めた。4月下旬から、週1回のペースで出動し、年間50回を予定している。
今のところ、エスカレーターを歩く人が増えるなどの揺り戻しはないのではないかとみているという。罰則の導入については、「現状では、その必要があるとは考えていません」としている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)