学習塾の経営破綻が加速している。東京商工リサーチが2024年7月8日発表した「2024年上半期(1~6月)『学習塾』倒産の状況」によると、過去最多ペースだという。
少子化によって市場規模が縮小しているのに新規参入が進み、競争が激化しているのだ。
その分、親や子どものニーズに合ったさまざまな塾が誕生している。どれを選べばよいか、調査担当者に聞いた。
約500教室を展開した、超大型学習塾が破綻
東京商工リサーチの調査によると、2024年上半期(1~6月)の「学習塾」の倒産は26件(前年同期比18.1%増)で、2000年以降の上半期では2012年の23件を超え、過去最多を記録した。
なかでも注目されるのは、6月28日に西日本の大手学習塾「個別指導塾スタンダード」(福岡市博多区)が、福岡地裁に民事再生法の適用を申請したことだ。
同社の負債は約83億2400万円にのぼり、2000年以降の学習塾の倒産では最大規模となった。これまで学習塾の倒産は中小企業が中心だったが、大手塾にも広がってきたかたちだ。
同社は2001年1月に創業、西日本を中心に一時は約500教室を運営し、株式上場を目指した時期もあった。ところが、2017年7月に経営幹部によるパワハラがマスコミに取り上げられ、対外信用の低下を招いた。
一方で、2019年4月期にはピークとなる売上高82億1816万円を計上したが、コロナ禍や少子化に伴う競合激化によって、2023年4月期には5億3063万円の赤字を計上し、債務超過額が拡大していた。
同社の破綻に代表されるように、2023年の学習塾市場はピンチが続き、休廃業・解散が113社に達したが、その一方で、新設法人は519社と大幅に新規参入が上回っている。学習塾の形態は、集団指導塾、個別指導塾、コロナ禍で広がったオンライン塾など多様化し、それぞれ特徴を打ち出している。
東京商工リサーチでは、こう分析している。
「学習塾は小資本でも創業できる一方、顧客ニーズに合ったスタイルを求められている。また、最近はネット上に無料の学習コンテンツが多数アップされ、生徒獲得の競争相手が増えている。
成績アップや合格実績など、目に見える結果が問われる。保護者に注目される実績をあげる人材獲得への投資もかさむが、教育費を負担する保護者の厳しい選択に応えることも必要だ。過当競争が続く学習塾市場は、生き残りをかけた競争が繰り広げられ淘汰の波が高まっている」
家庭の事情や子どもの個性で選べる、多様なタイプ
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた東京商工リサーチ情報部の担当者に話を聞いた。
――2000年以来最大の破綻となった「個別指導塾スタンダード」ですが、リポートによると、経営者幹部のパワハラ報道後に最高売上を記録したと書かかれています。結局、破綻の理由は何だったのですか。
担当者 教室数を増やすことで売上規模を拡大させましたが、その後想定以上に退職者が発生し、正社員が担っていたマネジメント業務を学生講師が行うようになりました。このためクレームが多発し、新規契約が不調に陥りました。
さらに、新型コロナ感染拡大が追い討ちをかけました。新規生徒の獲得が難航したり、夏期講習などの実施が不可能になったりして売上が減少したことが理由です。
――そもそもですが、少子化の進行で市場規模が縮小しているのに、2023年に113社が廃業する一方、新設法人が約5倍の519社もあるのはどういうわけでしょうか。それだけ、学習塾には儲かる理由があるのですか。
担当者 儲かるかどうかは別として、学習塾は講師になるための資格を必要とせず、場所さえあれば開業できますから、設立へのハードルは他業種に比べれば低いと思われます。
大手塾からの独立や、教師を辞めての転職や定年退職など、さまざまな理由で学習塾を始めるケースがあると思います。
――なるほど。リポートには「集団指導塾」「個別指導塾」「オンライン塾」など多様化しているとありますが、それぞれの特徴を教えてください。また、この中で一番伸びているのはどういうタイプでしょうか。
担当者 集団指導塾は、講師1人が大教室で教えるスタイル。個別指導塾は、講師1人に対し、生徒が1人~3人くらいまでの少人数スタイル。オンライン塾は、生徒が教室に行くことなく、ネット上で講義を聞くスタイルです。
それぞれに特徴があり、どれが伸びているとは一概には言えないと思います。保護者や子どもから見れば、選択肢が広がり、それぞれの家庭の事情や子どものタイプによって選べるようになっているメリットがあります。
入試の変化で、AO・推薦入試対策に特化した塾も
――そうした学習塾の多様化の背景には、入試システムが変わったことも挙げられますか。最近は、科目の点数で合否を決める一般入試が減り、小論文や内申書、面接などの「人間力」で決まる入試が増えています。そういう方面のニーズに特化した塾もあるのでしょうか。
担当者 入試システムの変化により、大学受験向けにAO・推薦入試対策に特化した塾が誕生しています。ただし、学習塾のスタイルの多様化という点で見ると、入試システムの変化よりも、社会の変化のほうが大きいのではないでしょうか。
ネット環境の整備によりオンラインで学習できる環境が整っていること、少子化により保護者の意識が変化していることなど、さまざまな要因が考えられると思います。
――ネット環境といえば、小学校からGIGAスクール構想が始まり、ICT教育が行われています。学習塾でもICT教育を行なわないと生き残れなくなっているのでしょうか。
担当者 学習塾の主な役割としては、より高い学力を身につけ受験に特化した進学塾と、学校の授業の復習や遅れを取り戻すための補習塾があります。今後、ICT教育の補完が必要ということになれば、経営者側の選択肢の1つになるのではないでしょうか。
ネット上の無料学習コンテンツが、最大ライバルに
――今後の学習塾業界はどうなるでしょうか。また、保護者としては、子どもに行かせる学習塾を選ぶ際、どういうことに気をつけたらよいと考えていますか。
担当者 選択肢が広まっているということは、ユーザー側にとってはメリットが大きいです。指導スタイルや方針が子どもに合っていること、各家庭のニーズに合っていることが第一条件になるでしょう。
「学歴だけがすべてではない」と、社会の意識が変わりつつあるなかで、学習塾側は選ばれる立場となり、ますます競争が激化し、特徴や実績が乏しい塾は淘汰が進むと思われます。
無料の学習コンテンツが多数ネット上にアップされており、今後はこれが大きなライバルになっていくと思います。講師の質も問われ、よりよい人材を集めるためには人件費の問題も避けては通れません。塾の統廃合なども含め、動向に注視していきたいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)