「コンビニより数が多い」街の歯医者さんの倒産ラッシュが止まらない。
東京商工リサーチが2024年7月4日に発表した「2024年上半期(1~6月)『歯科診療所』倒産の状況」によると、歯科診療所の2024年上半期の倒産が前年の2.5倍に急増、過去最多ペースの勢いだ。
虫歯の治療に口腔ケア、義歯の作成と、幼児からお年寄りまでお世話になる歯医者さんに何が起きているのか。調査担当者に聞いた。
開業が簡単な分、熾烈な患者奪い合いが激化
厚生労働省の医療施設調査によると、歯科診療所は2023年8月時点で全国に6万7220か所あり、コンビニエンスストアの5万5641店(一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会調べ、2024年5月)を上回る。
東京商工リサーチの調査によると、2024年上半期(1~6月)の倒産は15件で、前年の2.5倍に達した。過去20年間で最多だった2018年同期(17件)に次ぐ水準だ。現状ペースで推移すると、年間の過去最多(2018年、25件)を更新する可能性も出てきた【図表】。
口腔内の健康維持には不可欠な存在で、歯科医師の独立志向が高いことも背景にあるが、患者の奪い合いが避けられない状況だ。
医療機器などの設備投資はリース導入が多く、小資本での開業も可能だが、開業後の収入次第では資金負担に直結し、患者数の減少は経営を左右する。
東京商工リサーチでは、こう分析している。
「コロナ禍では患者の通院控えから厳しい経営が続いたが、平時に戻り来院患者数の回復に期待がかかる。だが、医薬品や治療材料の高騰、人件費上昇などのコストアップが採算悪化を招いている。人口減少が患者減少に繋がるだけに、技術向上やインプラント、ホワイトニングなど高付加価値の分野への進出も避けられないだろう」
歯科医の多くが独立開業を目指す切実な理由
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった東京商工リサーチ情報本部情報部の谷澤暁(たにざわ・あきら)さんに話を聞いた。
――そもそもですが、過当競争の原因である「コンビニよりも歯科医院が多い」理由とは何でしょうか。リポートでは「歯科医師の独立志向が高い」と指摘していますが、コンビニより多い理由に関係ありますか。
谷澤暁さん 大学病院や総合病院の歯科医は枠が少なく、厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」によると、2022年時点で歯科医10万5267人のうち、85.7%にあたる9万257人が診療所に勤務しています。
また、同省の「医療経済実態調査」(2023年)では、歯科医の年収は病院勤務医が1249万円に対し、診療所の院長の下で働く勤務医は約645万円と倍近い差があります。
このため、病院の勤務医になれない多くの歯科医が独立開業を目指す傾向が強く、開業歯科医が歯科医師全体の半数を超える結果になっています。
もう1つ重要なことは、歯科医院の場合、開業に要する資金は一般的に最低5000万円ほどと言われ、病院開業に比べ少なくて済みます。こうした面も独立を促す背景になっていると思われます。
――なるほど。ところで、「人口減少が患者減少につながる」と指摘していますが、入れ歯や歯周病などの口腔ケアが必要な高齢者のボリュームが増え続けていますから、ここしばらくは安泰なのではないでしょうか。
谷澤暁さん その指摘は、10年単位でみた中長期的な将来見通しです。日本歯科医師会の公表資料では、80歳以上の高齢者では歯科医院への通院者数が減少する傾向がみられます。
人口ピラミッドのボリュームゾーンを占める第一次ベビーブーム世代が75歳以上に達しており、通院困難の高齢者が増えている可能性もあります。
たしかに、高齢者ゾーンは膨らみ、その分野を取り込めると患者数は増えますが、高齢者の医療費負担は決して小さくなく、単純な計算通りにはならないと思います。
歯科医院の将来像、経営ビジョンが見えにくくなっている
――ほかの一般診療クリニックでも後継者問題が深刻ですが、歯科医院の場合も後継者は子どもやその配偶者といった血縁者を求めるのでしょうか。
谷澤暁さん 後継者について考える時に真っ先に浮かぶのが血縁者ですが、後継者難に悩む歯科医院は少なくないようです。倒産以外では、休廃業・解散した歯科診療所は2023年に119件あり、2018年(111件)以来、5年ぶりに110件を超えました。
ただ、背景には後継者問題も影響していますが、一番の問題は歯科医院の将来像、経営ビジョンが見えにくくなっていることが大きいと思います。
――それはどういうことですか。ズバリ、歯科医院の勝ち組と負け組をわける要因、サービスの違いはなんでしょうか。
谷澤暁さん 競合から患者数の減少に見舞われるなか、コロナ禍の通院控えが追い打ちをかけ、事業継続を断念したケースが散見されました。
患者数を確保できている診療所は、インプラントや矯正、審美歯科などの自由診療の分野でサービス領域を広げたり、アルバイトを含めて歯科医を増やして待ち時間を少なくしたり、webを活用したマーケティングで他院と差別化を図ったりしています。
これから経営環境の悪化でも耐えうる資産背景や経営感覚のほか、財務内容に力を注いでいたかを問われてきます。甘い計画による開業は、厳しい経営に直面する可能性が高まっています。
――歯科医としてのスキルだけではなく、経営者としての才覚が問われるわけですね。
谷澤暁さん そのとおりです。たとえば、東京都豊島区の歯科矯正歯科クリニックの場合、新規開設やM&A(合併・買収)を通じてクリニック数を伸ばして業容を拡大しました。
しかし、急激なクリニック数の増加に伴い、資金需要が活発化するなか、コロナ禍に見舞われて2022年に5億5000万円以上の赤字を計上しました。
資金繰りの悪化から2023年に民事再生法の適用を申請しましたが、さらに整理の一環で、関連会社として歯科医院を経営する4法人が2024年3月、破産開始決定を受けています。
患者に寄り添う、対人スキルやホスピタリティーも必要
――私も歯科医院を選ぶときは、ついネットのクチコミなども参考にしたりしますが、今後、歯科医院が競争に生き残るためには、どういう努力が必要と考えますか。
谷澤暁さん インプラントや矯正など自由診療分野の高い技術力は強みになるほか、歯科治療でも他院と差別化を図る最新技術の習得が必要です。また、歯科医師以外のスタッフもクリニックの評価に繋がるため、受付や歯科衛生士などの人手確保も重要です。
ネットにおける評判の真実性には疑問がありますが、無視するわけにはいきませんので、患者の希望を聞きながら治療方針を進めるなど患者に寄り添い、十分に説明する対人スキルやホスピタリティーも求められています。
――今回の調査で特に強調しておきたいことがありますか。
谷澤暁さん 熾烈な競合や円安の影響による物価高、人手不足は、業種を問わず病院、歯科医院にも押し寄せています。歯科医院は、患者がいてこそ成り立つことを認識すべきだと思います。
特に、歯科医院は資金面がぜい弱な経営が多いだけに、患者目線に立ち、技術向上に取り組まないと生き残りは大変な業種だと認識すべきでしょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)