なぜ「高齢者のカスハラ」は目立つのか 専門家が指摘する複数の問題点

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   厚生労働省サイトに公開されたカスタマーハラスメント(カスハラ)対策に関する資料に記載された、「威張りちらす行為」をする人の説明としての「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層などに傾向が見られる」という記載が、「高齢者差別に当たるのでは」などとの抗議を受け削除された。

   厚労省の雇用機会均等課は、「資料等を見てご不快に思われる方もいる可能性があることを考慮」したというが、「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層」とカスハラにはどのような関連性や問題点があるのか。前編の「社会的地位の高い人、高かった人」に続いて後編では、「定年退職したシニア層」について焦点を当て、専門家に話を聞いた。

  • 厚生労働省
    厚生労働省
  • 修正済みのカスハラ対策資料
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定年退職者層のクレームの特徴は「筋論型」と「世直し型」

   厚労省の雇用機会均等課の担当者によると、「定年退職したシニア層」との記載は、1つのデータのみを参照したものではなく、委託先の資料の作成者が集めた資料や有識者の見解を参考にしたものだという。

   なお、シニア層にカスハラをする人が多いことを示唆する資料もある。UAゼンセン(全国繊維化学食品流通サービス一般労働組合同盟)が24年6月に発表したアンケート調査によると、カスハラをした人の推定年齢は、60歳代が29.4%ともっとも多く、70歳代以上と合わせると48.5%と約半数となる。次いで多いのは、50歳代の27.2%だ。

   関西大学社会学部の池内裕美教授によると、定年退職者層のカスハラが目立ち始めたのは15年以上前だ。池内教授が2007年に行った調査で、10社以上のお客様相談室の室長から「定年退職層の苦情が増えてきている」あるいは「これからもっと増えるだろう」と話があったという。2007年といえば団塊の世代の退職が始まった年であり、「苦情の2007年問題と呼ばれていた」とのことである。

   この時の面接調査で示唆されたこととして、こうした定年退職者層のクレームの特徴には、「筋論型」と「世直し型」があるという。「筋論型」の特徴は、話の筋は通っているものの、権威主義的で上から目線でねちねちと詰め寄るような話し方をすることが多い。例えば、自分の主張を通すために「自分は○社(多くは同業他社)の**部長をやっていて...」、あるいは「~社の**を開発したのは私だ」など、過去の栄光や武勇伝を持ち出しながらクレームをつけるといった具合だ。

   「世直し型」は指導者的な視点で「教育をしてあげよう」というようなクレームだ。後輩育成や社会的代弁者のような感覚で、「もっとこうすればよい」、「あんな説明だと勘違いする人もいる」といった主張がその典型といえる。大半はクレームを訴えている意識はなく、むしろ親切心や正義感から"教えてあげている"と肯定的に捉えている傾向にあるという。

   「筋論型」と「世直し型」は、その根底には"自分を認めて欲しい"という承認欲求があり、クレームを通して自分の存在意義を確かめている点で共通した側面もあるとのことだ。

シニアに限らずクレームの発生源は「不満」、疲れやストレスが関係することも

   では、なぜシニア層のカスハラが目立って見えるのか。

   池内教授は、クレームの発生源は一言でいうと「不満があるから」だという。では、なぜ不満が生じるのかの源泉については、「期待不一致モデル」によって説明されるとのことだ。「このモデルでは、商品・サービスの品質や性能などが、購入前に"期待"していた水準と相違がある場合、その"差"が不満の源泉になることが示されています」と添える。例えば、「この商品はこのくらいのパフォーマンスがあるだろう」「店員さんはこの程度サポートしてくれるだろう」といった期待が外れた場合だ。

   そして、こうした不満がカスハラにまで発展するには、「疲れやストレス、社会に対する不満など、一時的な状況が絡んでいる場合が多い」という。例えば、たまたま仕事や家事などで疲れていたり、世の中に対する不満が溜まっていたりすると感情の抑制が効かなくなり、カスハラにいたりやすいとのことである。「怒りを抑えるには、相当な心的エネルギーが必要なのですが、ストレスが大きいと集中力や判断力が低下するため、怒りのコントロールが難しくなるのです」と説明する。

   これはシニア層に限らず、年齢に関係なく誰でも起こり得る話だ。

   しかし、シニア層のカスハラが目立つのは(1)シニア層は人口バランス的に多いこと(2)社会への不満や不安を抱えている人が多いこと(3)高齢になるにつれて感情をコントロールしづらくなる傾向にあることなど、複合的な理由があると池内教授は指摘する。

   例えば、デジタル化もその一つだ。池内教授は「デジタル化がどんどん進み、私の周囲でも『買い物が面倒くさくなった、怖くなった』という意見を聞きます」と話す。

   また、特に独居男性については、人と接する機会の減少によるコミュニケーション力の衰えも理由の一つだと指摘する。

   池内教授は、「こうした人たちの不満が低減するような世の中を作っていく」ための対応を考えることも大切だと話す。

「誰しもが最後まで幸せに暮らせるような、そんな社会を国民一人ひとりが協力して築き上げ、初めて真の意味でのカスハラ対策は完結するのだと思います」
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