修正された厚労省カスハラ資料、「社会的地位の高い人、高かった人」はクレーマーになりやすい? 専門家に見立てを聞いた

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   厚生労働省のサイトに公開されたカスタマーハラスメント(カスハラ)対策に関する資料の一部について、抗議を受け削除されたことが話題となった。削除されたのは、「威張りちらす行為」をする人の説明としての「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層などに傾向が見られる」との記載だ。

   「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層」とカスハラをめぐる関連性や問題点について、専門家の話を交えながら2回にわたって考える。前編は、「社会的地位の高い人、高かった人」に焦点を当てた。

  • 厚生労働省
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  • 修正済みのカスハラ対策資料
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「社会的地位の高い人、高かった人」は資料作成者の経験と知見に基づいた記載

   問題となったのは、ハラスメント対策の情報サイトに公開されている「職場におけるハラスメント対策(カスタマーハラスメント対策)」と題した資料だ。この資料をもとにした動画も公開されているが、2024年6月11日に修正版に差し替わった。

   取材に応じた厚生労働省の雇用機会均等課の担当者によると、「高齢者差別に当たるのではないか」などと抗議があり、そのような意図はまったくなかったものの「資料等を見てご不快に思われる方もいる可能性があることを考慮」し、削除に至った。

   「威張り散らす行為」をする人の傾向として挙げられている「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層」のうち、「社会的地位の高い人、高かった人」については厚労省の担当者は、委託先の資料の作成者の経験と知見に基づいての記載だったとしつつ、数字が示すデータは確認していないという。

多くの対価を払った=「少しくらいは特別扱いをしてもらっても...」という考えにつながりやすい

   では、実際はどうなのか。関西大学社会学部の池内裕美教授によると、カナダの論文では、高学歴、高収入、そして管理職や専門職に就いている中年世代が他の属性に比べて苦情をいう傾向にあることが実証されているという。さらに、「あくまで自身が行ったインタビューやリサーチによる見解」だと断った上で、カスハラをする人の中には、長年顧客としてその店舗やサービスを利用したり、多くのお金を使ってきたりした、いわゆる「VIP」顧客もおり、それが企業を困惑させる一つの問題になっていると指摘した。

   例えば、グリーン車の客から執拗なクレームを受けたり、行政であれば「高額納税者だから優遇しろ」などと言われたり、といったものだ。

   池内教授は、こうした「VIP顧客」がカスハラをする理由として、「多くの対価を払ったのだから、少しくらいは特別扱いをしてもらってもよいだろうという考えにつながりやすいというのはある」と説明する。事実、「商品やサービスに支払った対価と苦情生起の関係性は既存研究でも指摘されている」とのことだ。

「VIPになるだけの高収入を得るには、資産を受け継いだり、起業で成功したりといった一部の人以外は、カナダの研究例にあるように管理職に就くなど、社会的地位が高くないとなかなか難しいのではないかと思います」

とも話した。

   また、「VIP顧客は、"自分はVIPだ"という誇りやプライドが高く、それが傷つけられた時に激しく怒り、プライドを回復するために苦情を訴えるのではないか」とも考察している。このことは、実際に池内教授自身の調査でも示唆されており、「自尊感情の高い人が、自我が脅威を受ける状況に直面した場合、攻撃性が高くなる」ことを見出している。

年齢層や属性によって個別の対策が必要

   修正前の資料では、「社会的地位の高い人、高かった人、定年退職したシニア層などに傾向が見られる」と一括りにされているように見える。ただ、池内教授は、カスハラをする人の中でVIP的な立場の顧客は、必ずしも高齢者ではないとも指摘する。では、なぜ高齢者が目立つように見えるのか。池内教授は

「仮に、長きにわたってお付き合いがあるとするならば、それだけ年を取っているということもあると思います。しかし、100%高齢者というわけではありません。ただ、どうしても高齢者層は、メールやSNSのDM(ダイレクトメッセージ)などによるクレームに比べて電話でのクレームが多くなるので、オペレーターの方々は"高齢者が多い"と感じやすいのかなと思います」

とみる。その上で、例えば若年層は、SNSで不特定多数に発信し、承認欲求を満たすことを意図したタイプのカスハラもあり、年齢層や属性によってカスハラの種類が違うため、それぞれ個別の対策を立てる必要があると指摘している。

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