近年、愛車を手放す時の中古車売却トラブルが急増している。
事故を起こしていないのに修復跡があると減額させられたり、高額なキャンセル料を取られたりするケースが多いのだ。
国民生活センターは2024年6月18日、「車を売る際は要注意! 中古車の売却トラブル」という警鐘を鳴らす調査を発表した。 こちらは一生に何度も車を売った経験がないシロウト、相手はその道のプロだ。愛車との別れで絶対に後悔しないトラブルの防止策とは――。
「オークションの検査で、事故車と判断された」
国民生活センターによると、中古車の売却に関するトラブルの相談は、2023年度は1763件と、2020年度の1211件より4年間で約30%増えた。
こんなケースが代表的だ。
【事例1】
約1年前に購入した中古車を売却するために、買い取り業者何社かに見積もりを依頼した。
査定後、一番高い金額を提示した事業者と契約した。車を引き渡し、代金が振り込まれるのを待っていたが、事業者から「オークションの検査で事故車と判断されたため、買い取り金額を引き下げたい」と連絡があった。
この車の購入時に事故歴はないと聞いており、自分も事故は起こしていない。契約した金額で買い取ってほしい。(2023年11月・40歳代男性)
【事例2】
中古車を売却するため、一括査定サイトに登録した。その後、電話があり、一番高額な査定をした事業者から5万円の買い取り金額が提示されたため「お願いします」と答えた。その電話でキャンセル料について説明はなかった。
後日、契約に必要な書面一式が送られてきたが、電話の3日後にキャンセルを申し出たら、「キャンセル料3万円を支払ってもらう」と言われた。送付された書類にキャンセル料の記載は見当たらず、届いた契約書はまだ提出していないので、契約成立前ではないか。キャンセル料を請求されて、納得できない。(2024年3月・20歳代女性)
【事例3】
3か月前に中古車を売ろうと思い、インターネットで一括査定を申し込んだ。複数社に見に来てもらい、買い取り金額を一番高く提示した事業者と契約した。車を引き渡し、約200万円の代金は1か月後に銀行口座へ振り込むと説明を受けた。
しかし、振込予定日の直前に振込日延期の電話があり、その後も「少し臨時休業する。来週営業再開したら振り込む」とか、「金融機関からの融資が下りたら振り込む」などと言われ、一向に振り込まれない。(2023年12月・20歳代男性)
BM、ダイハツ、免許返納...中古車買い取り激化の背景
J‐CASTニュースBiz編集部は、国民生活センター相談情報部の担当者に話を聞いた。
――ここ数年、中古車の売却を巡るトラブルが急増しているのはなぜでしょうか。
担当者 多くの要因があると思います。3、4年前は半導体不足の影響から新車販売台数が減少し、新車に買い替える消費者が減ったため、中古車の登録台数も少なくなりました。そのため、事業者が中古車の買い取りに奔走してトラブルの一因になったと言われました。
2023年以降はビッグモーターの事件がニュースになり、中古者業界全体が問題になり、被害相談が増えたと思われます。また、同時にダイハツ工業の認証試験不正が問題になり、新車の販売台数が減ったため、また、事業者が中古車の買い取り競争が激しくなりました。
――国民生活センターでは、昨年3月にも中古車売却をめぐるトラブルの警告リポートを出しています。その中では、ドライバーが高齢化して免許返納が増えたため、70歳以上の人が車を手放す際のトラブルが増加したと指摘していましたね。
担当者 たしかに当時の警察庁の調査によると、高齢者の運転免許自主返納は2012年には11万件でしたが、2021年には49万件に増えています。2019年の母子2人が亡くなった池袋・暴走事故が影響したと思われます。
ところが、2023年には返納件数が約35万件に減ってしまい、伸び悩んでいます。一概にこれが大きな要因だと言えない状況になっています。
車の引き渡しと代金受け取りは、同時が原則だ
――昨年3月のリポートでは、「非常に強引な態度で居座られて、契約するまでは帰らない様子だった」とか「解約するなら店に来てもらい、免許証を出してもらうと、20回も電話があった」とか、荒っぽい手口がありましたが、そういう乱暴な事業者は減ったということですか。
担当者 減ったと断定できませんが、さすがに居座り続ける例は少なくなっています。今回は、現在目立つ代表的な手口3つに絞りました。
――被害に遭わない大事なポイントは何でしょうか。
担当者 【事例3】のように、車を渡したのに、いろいろと理由を付けてお金を支払わないケースが増えています。普通、お店で物を買う時は、商品の引き渡しと代金支払いは同時ですよね。
中古車の売却も同じです。相手が「あとから支払う」と言った時、そのことが契約書のどこに明記されているか、契約をする前にちゃんと確認することが大切です。
買い取り代金の支払いがなされるまで、車および移転登録書類などの引き渡しを延期することも一法です。
――なるほど。【事例1】のように、あとから「事故車だったから減額する」と言いがかりをつけられたら、どうしたらよいでしょうか。
担当者 買い取り業者は査定のプロとしての注意を払って買い取り金額を算出しています。その査定額で契約した後に、修復歴や事故歴を見落としたなどとして、買い取り業者から減額や解約を求められた場合でも応じる必要はまったくありません。
ただし、売却する車に修復歴や事故歴があると知っていた場合には、必ず査定時に買い取り業者に申告しましょう。それが、のちのちのトラブルを避けるうえで重要です。
業界団体の契約書ガイドラインで、事前にチェック
――こちらも「正直であれ」ということですね。
担当者 中古車売買は、クーリング・オフができないので、何より事前に契約書をしっかり確認することが大切。特に、【事例2】のように断ったらキャンセル料を要求されるケースが増えています。
キャンセル料に関しては、金額とともに、どの時点から発生するのかについても、しっかり理解したうえで契約しましょう。契約書にないキャンセル料を請求された場合や、契約書に定められた金額を上回るキャンセル料を請求された場合に、契約内容に従った対応を要求することができます。
――ほかに注意点はありますか。
担当者 信頼できる業者かどうか、しっかりした契約書かどうか、よく調べることが重要です。
車買い取りの事業者の団体である一般社団法人日本自動車購入協会では、「売却する車を事業者へ引き渡した翌日まではキャンセル料を払うことなく解約できる」といった内容を含む契約書のガイドライン(モデル約款)を作成しています。
これを参考に契約書を吟味するといいでしょう。また、日本自動車購入協会のウェブサイトでは、協会に加入している業者も載っています。そちらも参考にするといいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)