顧客が企業に対して過剰な要求をしたり理不尽なクレームをつけたりして不当な要求を通そうとする「カスタマーハラスメント」(カスハラ)が問題になるなか、全日空(ANA)と日本航空(JAL)は2024年5月28日、共同で対処方針を定めたと発表した。
乗客の意見や指摘には「丁寧かつ誠実に対応」するとする一方で、カスハラに該当する行為を「暴言、大声」「脅威を感じさせる言動」の9つのパターンに分類した。
カスハラは「従業員の人権および就業環境を害する」として「毅然と行動し、組織的に対応」するとしている。
2023年度は2社で600件、「体感としては増えている」
23年度にはANA・JALグループそれぞれで300件のカスハラ事例が報告された。ANAの宮下佳子・CS推進部部長によると、ANAとして具体的に集計を始めたのが23年度からで、それ以前との比較は難しいとする。
だが、その一方で、「体感としては増えている」といい、300件以外にも「報告がなされずに、そのまま自分たちで我慢しているケースも多々あると思っている」と指摘している。
JALの上辻理香・CX推進部部長も「感覚としては、増加傾向にあると認識している」と話した。
現場で対応に苦慮し、メンタルに不調が出て休職や退職に追い込まれた事例もあり「会社として強い危機感」を抱いたことが、今回の方針策定につながったという。
これまでも「航空法、その他関連する法規に反する行為」については「毅然とした対応」を行ってきた。さらに、優越的な立場を利用した顧客らからの「義務のないことや社会通念上相当な範囲を超える対応を要求する行為」も「カスハラ」だとして「毅然と対応」することにした。
具体的には、「注意喚起をしたにもかかわらず、さらにエスカレーションしてしまった場合は、管理職も入って複数人で対応する。組織的に対応するということを推進していく」。そして、事態がエスカレートした場合は、「警察への連絡等々も、これまでどおり行っていく」とした。
宮下氏は、業界としてカスハラ対策を進めていく必要性を次のように強調した。
「うちの従業員は毅然と対応するけれども、別の航空会社に行ったときに、どこかの従業員が我慢するような、そんな業界ではいけない。この両社で共同の方針を立てたことはすごく大きい、意義があると思っている」
脅威を感じさせる言動、過剰な要求、暴行...カスハラの9大パターン
両社では、大きく以下の9つをカスハラの事例として挙げている。
(1)暴言、大声、侮辱、差別発言、誹謗中傷など
・大声、言葉遣いが荒い話し方、「バカ野郎」などの発言
・「〇〇(特定の性別を指して)のくせに」「男性の上司を出せ」などの性差別的な発言
・容姿を揶揄する発言、能力を否定する侮辱的な発言
(2)脅威を感じさせる言動
・「殴ってやる」「殺すぞ」「SNSで拡散させる」などの脅迫的な発言
・反社会的な勢力などをほのめかす発言
(3)過剰な要求
・規定やルールを超えた多額の補償金やアップグレードなどの特別対応の要求
・「家まで謝りに来い」「土下座しろ」などの実現不可能な要求
・係員の態度が気に入らないなど、理不尽な理由での慰謝料などの金銭の要求
(4)暴行
・社員を殴るなどの暴力行為
・身体を押す、肩を掴む、手をはたく、ものを投げる、飲み物をかける、傘を振り回すなど、社員が危険を感じる行為
(5)業務に支障を及ぼす行為(長時間拘束、複数回のクレームなど)
・居座り、長時間の電話など、正当な理由がない社員の長時間拘束
・話のすり替え、揚げ足取りや執拗な攻め立てによる社員の長時間拘束
・(複数の場所での)同じクレームの繰り返しによる著しい業務妨害、不合理な問い合わせの複数回繰り返し
・常習的な同じクレームの繰り返し
(6)業務スペースへの立ち入り
・事務所やオフィスへの押し入り・居座り
(7)社員を欺く行為 ※明らかに事実と異なる言動をするなど
・不正に発券された搭乗券の利用、年齢や氏名を詐称した搭乗、空席確保のための重複予約行為
・お手伝いが必要な内容の虚偽申告、社員への対応の強要
・受託手荷物の破損に関する虚偽申告(元からあった傷を今回の搭乗によるものと主張するなど、明らかに事実と異なる発言)
(8)会社・社員の信用を棄損させる行為(SNS投稿など)
・事実に反する会社や社員への誹謗中傷のSNSへの投稿
・予約センター・機内・空港などでの対応状況の録音・録画データのSNSへの投稿
・事実ではないことや、事実を誇張した虚偽を含んだ内容の流布・インターネット上での掲載
(9)セクシャルハラスメント(盗撮、わいせつ行為・発言、つきまといなど)
・性的な言動、つきまといにより身体的または精神的に苦痛と感じる行為
・盗撮
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)