上場企業の中途採用で1次面接の面接官の経験がある会社員に「一次面接の必要性」について尋ねたところ、「非常に重要な業務である」と答えた人が24.5%、「必要な業務だと考えている」が32.7%で、合わせて6割近くを占めた。
一方で「あまり実施する意味を感じないのでできればやりたくない」と答えた人は32.7%。「全く必要性を感じない」も10.1%と、合わせて4割超となり、一次面接否定派の人たちも少なからずいるようだ。
採用面接は「企業が候補者を品定めする場」ではなくなった
この調査結果は、PortRayが一次面接官経験者110人から回答を得たもの。「一次面接でしっかりと応募者を評価できている自信があるか」の問いには、「非常にある」が30.8%、「ややある」は53.8%に達している。
その自信の割には、候補者の評価はあいまいなようだ。「お見送り」を出す場合の理由について尋ねたところ、「評価項目に対して何とは言えないが、足りない項目があると感じる」が30.9%を占め、次いでさらにあいまいな「経験上、スキルレベルが足りないと感じた」が30.0%となっている。
調査元はこの結果について「一次面接官の7割が、簡易的な評価基準や、経験則・感覚で応募者を評価している」とまとめている。
この結果を見て、都内企業の人事でキャリア採用窓口を務めるAさんは「ずいぶん心もとない回答です。一次面接を担当する人の中には、採用活動のパラダイムの変化に気づいていない人が結構いるかもしれませんね」と不安げだ。
変化の背景には「深刻な人手不足」がある。Aさんによると、これまでの採用面接は当然のように「企業が候補者を品定めする場」とされており、企業側からの一方的な厳しいスキルチェックで候補者を門前払いする気まんまんの面接官も少なくなく、そのことに問題があることにも気づかない人が多かったという。
しかし現在は、人手不足により立場が完全に逆転し、「候補者が企業を選ぶ」力関係にある。この転換に気づかない面接官は、いまだに候補者を上から目線で評価し、逆に有能な候補者に逃げられている。
人手不足のなか「悪い候補者体験」の拡散は致命的
「最近よく聞かれるのが『採用CX』という言葉ですね。CXとは『候補者体験(Candidate Experience)』の略ですが、企業の採用プロセスに対して、候補者に価値を感じてもらう活動にしようという考え方です」
Aさんによれば、採用プロセスにおいて「悪い候補者体験」が発生した場合、その人は入社のモチベーションを下げてしまい、企業が採用を出しても辞退しやすくなるという。そして知人友人に口コミやSNSなどを通じて、企業の悪評を広めてしまう。
「あの会社は感じが悪いから受けない方がいい」というわけだ。これは人手不足が深刻化するなかで、致命的な問題となりうる。
逆に「候補者体験」がよい場合、候補者の入社モチベーションは高まり、選考中の離脱が減る。仮にその時点では条件の不一致で採用に至らなくても、企業のファンが増えることになるし、別の機会に再び応募してくれるかもしれない。
「その意味で、一次面接というのは非常に大事なんですね。候補者のスキルチェック以前に、まずは会社のビジョンや理念、考え方を丁寧に伝えることが前提となりますし、合否にかかわらず会社の印象をいかに高めるかが重要です。経験則や感覚で応募者を評価し、『なんとなく足りない感じがするから落とした』ではダメなんですよ」
またAさんの場合、一次面接では「できるだけ合否を一方的に伝えずに済むように心がけている」といい。
「面接中に自社が求める人材の要件や、仕事のイメージを分かりやすく伝えることに力を入れます。そうすると、ますます入社したい人と、自分には合わないことが分かる人が出てくる。会社と候補者の思惑が一致しないことが自然と分かるようにして、候補者側から『またの機会に』と言っていただき、穏やかにお別れするのが理想です」