「これ声を大にして言いたいんですが、水戸市役所の多目的トイレ入口には『右麻痺用』『左麻痺用』の説明がついてます」
このような配慮は「非常に助かる」、とする称賛が2024年6月24日、Xに投稿され注目を集めた。J-CASTニュースは投稿者に話を聞くとともに、水戸市役所にこうした配慮の経緯を聞いた。
トイレの写真も投稿、「これだけレイアウトが違ってたら逆だと使い辛い」
Xには案内表示の写真も投稿された。1階から3階それぞれの、車椅子やオストメイト(人工肛門・人工膀胱を装着した人)、おむつ替えといった対応する設備のアイコンが表示されている。車椅子のアイコンの下に、「右まひ」「左まひ」との文字が記載されている。
この投稿をしたのは、身体の左側に麻痺がある「左片麻痺」の当事者で、YouTubeチャンネル「世界はサカサマ!」を運営するHirokiさんだ。5年前に発症した脳出血(右被殻出血)の後遺症で左半身麻痺となった。現在は「世界はサカサマ!」で、妻と一緒に脳出血やその後遺症について発信している。
Hirokiさんは26日、許可を得たものだと断ったうえで、多目的トイレの写真も投稿した。左麻痺用のトイレは右側にトイレットペーパーや手すり、ウォシュレットや水洗ボタン、L字型の手すりがある。右麻痺用のトイレはその逆だ。Hirokiさんは
「これだけレイアウトが違ってたら逆だと使い辛いし、自分の障害に合わせたレイアウトがどこにあるのか、トイレの扉開ける前にわかったほうが便利だよねというお話です」
と説明した。
表記があることで「困り事を避けることができます」
Hirokiさんは現在の後遺症の症状について、J-CASTニュースの取材に、「歩行は杖を使って可能ですが、上肢(手)はほとんど動かず、感覚も弱いです」と説明。封筒を開封する、ペットボトルを開ける、PCの操作といった「ちょっとした日常生活の動作も片手で行わなければならないのが不便です」と明かした。
片麻痺用のトイレについて、「多目的トイレは増えてきましたが、立ち座り用の手すりやトイレットペーパーの配置が左右逆だととても使いづらく、姿勢も不安定になり転倒の危険性があります」とその必要性を説明する。
「表記があることで、トイレに入る前でも、左右が違っていて使いづらいといった困り事を避けることができます」
Xの投稿は27日時点で「いいね」が3万件以上、リポスト(拡散)が1万回以上と大きな注目を集めた。「反響が大きくて驚いていますが、この機会に片麻痺という障害について少しでも知ってもらえればと思います」とコメントした。
「当時の設計に携わった職員は喜んでいます」
水戸市役所のこうした配慮は、どのような経緯でできたものなのか。水戸市総務部財産活用課の担当者は、2018年に庁舎を建て替た際に決めたコンセプトの一つが「すべての人に優しい庁舎」だったと明かした。
そこで、ユニバーサルデザインやバリアフリーを専門にする高橋儀平・東洋大学名誉教授(高ははしごだか)がプロポーザルの審査員から竣工後の監修までを務めた。左麻痺・右麻痺の人に対応したトイレやその案内表示は、高橋教授のアドバイスを受けたものだという。
多目的トイレの配慮が話題になっていることについて、取材に応じた担当者は、自身は建設当時に担当していなかったものの、
「当時の担当者に話を聞くと、いろいろな人や先生の意見を聞いて、『なるほど』と言いながら、皆さんに喜んでもらい、使いやすくなるように設計して今の庁舎に至りました。5年、6年と経ってからお褒めのお言葉をいただき、当時の設計に携わった職員は喜んでいます」
と話した。
水戸市役所はほかにも
Hirokiさんは、トイレに関する配慮のほか、施設に「乗りやすいタイプのエスカレーター」があると嬉しいと明かす。「乗りやすいタイプのエスカレーター」とは、22年7月7日公開のYouTube動画によると、次のようなエスカレーターのことだ。これも水戸市役所にあるのだという。
(1)すぐに段差にならず、平坦な部分が長くゆるやかに段差になる
(2)横幅が狭い
(3)スピードが遅い
横幅が狭い方が良いのは、左端に立たなくてもよいのが理由だという。特に東日本ではエスカレーターの左端に立つことが慣習になっている。しかし、左側に麻痺のあるHirokiさんにとっては、不安定で危険だ。幅が1人分であれば、気にすることなく乗れるのだと話す。
さらに、水戸市の財産活用課の担当者によると、水戸市役所の多目的トイレには大人の介助用ベッドがあるという。これも高橋教授のアドバイスを受けて設置されたものだといい、「お子さんのおむつを替える場所はほかにも多くありますが、大人がオムツを替えられるベッドがトイレの中にあるというのは、あまりないそうです」と説明した。