子どものうちから家族の看病や介護に追われる「ヤングケアラー」が社会問題になっており、2024年6月、支援のための「通称:ヤングケアラー法」が成立した。
そんななか、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年6月6日、「ヤングケアラーとキャリアに関する意識調査」を発表した。
なんと主婦層の1割以上が「ヤングケアラー経験者」で、その5割以上が「目標や夢をあきらめざるを得なかった」と明かした。ヤングケアラーを救うにはどうしたらよいか、専門家に聞いた。
ヤングケアラーは中学2年の6%、高校2年の4%
ヤングケアラーは、実態がよくわかっていない。子どもの学校・学年ごとの抽出調査があるだけで、厚生労働省と文部省の共同調査(2021年度)によると、たとえば公立中学2年の5.7%(約17人に1人)、公立の全日制高校2年の4.1%(約24人に1人)が「世話をしている家族がいる」と答えている。1クラスに1~3人のヤングケアラーがいる計算だ。
このため、初めてヤングケアラーの定義を法律に明記した改正子ども・若者育成支援推進法(通称:ヤングケアラー法)が2024年6月5日成立した。
ヤングケアラーを「家族の介護その他日常生活の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」とし、年齢に関係なく切れ目なく支援が継続できるようになった。
しゅふJOB総研の調査(2024年5月15日~22日)は就労志向のある主婦・主夫層408人が対象。
まず、「あなた自身がヤングケアラーだったことがあるか」と聞くと、「ある」と回答した人が1割以上(11.3%)いた【図表1】。
また、「周りにいま、又はかつてヤングケアラーだった人がいるか」と聞くと、「いる」と回答した人が2割近く(18.1%)いた【図表2】。ヤングケアラーが想像以上に身近に多いことがわかる。
【図表3】は、ヤングケアラーであることが、大人になってからのキャリア形成に及ぼす影響を、ヤングケアラー経験者とそうでない人に聞いた比較だ。
これを見ると、「ケアの負担が大きく、目標や夢をあきらめざるを得ない」「学業などに支障が生じて、キャリア形成がしづらくなる」といったマイナスの影響が上位に並ぶが、いずれも未経験者のほうが割合は高い。
大変であることは間違いないが、未経験者が想像する以上に経験者は頑張ってこらえているということだろうか。
「小学高学年から、家事をやるのが当たり前の人生」
フリーコメントから経験者の生々しい体験談を聞いてみると――。
「性格やメンタル面であまりよい影響がなかったと、自分の場合は思います。自分さえ我慢すれば、という思考になりました。夫婦仲が悪い家庭でしたので、自己肯定感の低さもそれを助長したと思います」(40代:パート/アルバイト)
「自分も祖父母を看たり、家事をしたりの今で言うところのヤングケアラーだったが、父がちゃんと働いていたので進学では困らなかった。一口にヤングケアラーと言っても程度が各家庭で違うので、一括りに話はできない。家事スキルは自分が家庭に入ってから役に立っているし、小学校高学年からずっと家事をやるのが当たり前の人生だったので、もはや負担に感じない。
しかし、人それぞれ感じ方は違うので、いまヤングケアラーで辛い思いをしている人は助けを求めてほしいと思うし、自分の子どもは絶対にヤングケアラーにしたくないので、私は毎日頑張っている」(40代:パート/アルバイト)
「運動部には入りづらいので、影響はある」(50代:今は働いていない)
「精神的にも体力的にも追い込まれるので、自分の事を優先することができない。しかし、それを乗り越えて仕事に生かすことができる方もいると思います」(50代:今は働いていない)
「私の母と同じように、病院へ行かず自宅で療養となると、家族は、病気の知識も必要だし、何といっても、お世話をしている家族が精神的に参ってしまう。もっと気軽にケアマネージャー、介護士、心理カウンセラー等をいつでもお願い出来る環境が欲しかった」(30代:パート/アルバイト)
「ヤングケアラーは成長していく過程で自分を中心に思考できないので、キャリアがどうこう考えるどころではない」(30代:今は働いていない)
「自己否定感が強くなる。前向きな思考が少なくなる」(60代:パート/アルバイト)
このように、自分のことを考える余裕がなくなり、ネガティブな感情に陥りやすいと訴える人が多かった。
目の前の生活に、向き合うだけでも精一杯の子どもたち
J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。
――政府の調査では、公立中学2年生の5.7%がヤングケアラーと言われていますが、しゅふJOB総研の調査では約11%の人が「かつてヤングケアラー」だったと答えています。この結果をどう思いますか。
川上敬太郎さん ヤングケアラーに該当していた時期は人によって異なるのだと思いますが、かつてヤングケアラーだったことがあると回答した人が1割を超えるほど多かったことに驚きました。
また、「周りにいま又はかつてヤングケアラーの人がいる」と答えた人が約18%におよぶ一方で、8割以上の人が身近に感じているわけではありません。ヤングケアラーに関する啓発の必要性を改めて感じました。
――ヤングケアラー経験の有無によって、キャリア形成への影響に対する見方に大きな落差があることが興味深いです【図表3】。「目標や夢をあきらめざるを得ない」といったマイナスの影響に関して、実際に経験した人のほうが低い割合なのは、なぜでしょうか。
私は、個人的に「人間はどんな境遇でも頑張れるものなのだなあ」と勇気づけられましたが。
川上敬太郎さん 経験がある人もない人も、ヤングケアラーに該当する人たちが厳しい環境に置かれているという認識については同じなのだと思います。しかし、経験がない人がイメージするよりも、経験がある人たちの中には、厳しい環境の中でも目標や夢をあきらめず頑張ることができた人がいるということなのかもしれません。
一方で、寄せられたフリーコメントから感じられるのは、目の前の生活に向き合うだけでも精一杯で、目標や夢に向かって頑張ることすら難しい状況に置かれている人がたくさんいるのではないかということです。
ヤングケアラーがいることの認知を広げることが大切ですが、ヤングケアラーに該当する人たちの中でも、置かれている環境には違いがあることにも目を向ける必要があるように思います。
困難に立ち向ってきた、気概や凄みが表れている
――たしかに、「ケアした経験などを仕事で活かすことができる」「キャリア形成に及ぼす影響はない」といったポジティブな面では、経験者のほうが高い割合ですね。
川上敬太郎さん 経験者の中でも置かれている環境に違いがあり、また、受け止め方が人によって異なってくるとしても、ヤングケアラーとしての経験自体を厳しいものだと見なしている点は共通しています。
それでも経験がある人のほうが、経験がない人がイメージするより前向きな回答の比率が高くなっていることに、困難に立ち向ってきた気概や凄みが表れているように感じます。
――フリーコメントの中で、私は、「父がちゃんと働いているので進学では困らなかった。......家事スキルは今役立っているし、小学高学年から家事が当たり前の人生だったので負担に感じない。......けれど、感じ方は人それぞれ。いまつらい思いをしている人は声をあげてほしい」というコメントにグッときました。川上さんはどのコメントが響きましたか。
川上敬太郎さん 何度も目頭が熱くなるほど、どちらのコメントも心に響きました。なかでも「自分さえ我慢すれば、という思考になりました」「精神的にも体力的にも追い込まれるので、自分の事を優先することができない」といった言葉には、心をえぐられる強い衝撃を受けました。
子どものうちから自分の気持ちを押し殺すことを余儀なくされてきた苦しさは、大人になってからもあらゆる場面で影響を及ぼしている可能性があるのではないでしょうか。ご本人はもちろん、お子さんに過度な負担がかかってしまった状況に対して親御さんも、当時とても辛い思いをされたことと思います。
――子ども・若者育成支援推進法が改正されましたが、ズバリ、川上さんはヤングケアラー対策をどうしたらよいと思いますか。
川上敬太郎さん 該当しているお子さんは、大人のような人生経験があるわけでもなく、目の前の生活に精一杯な中で自らヘルプを出すことすら難しい状況に置かれている可能性があります。
プライベートに関わることだけに難しさはあるものの、支援機関や周囲の大人の側からアウトリーチの形で支援を届ける取り組みが必要だと思います。自治体によって対応状況にかなり違いが出ていると聞きます。
その点、法改正されたことは大きな意義があると感じています。国や自治体がヤングケアラーの支援に努めるよう法律に明記されたことで、ヤングケアラーの置かれている全体像がより精緻に把握され、対応が進んでいくことが期待できます。
「元ヤングケアラー」が、夢に再挑戦できる社会に!
――最後に、特に強調しておきたいことがありますか。
川上敬太郎さん かつてヤングケアラーだった大人の現状にも目を向けることが大切です。調査では経験者の過半数が「目標や夢をあきらめざるを得ない」と回答しています。あきらめ続けなくても済むよう、できる限り再挑戦できる社会にしていく必要があるのではないでしょうか。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)