パーソル総合研究所が就活生や社会人を対象に実施した調査によると、「転勤がある会社は受けない(求人に応募しない)」「転勤がある会社にはできれば入りたくない」と答えた人が、就活生で50.8%、社会人で49.7%を占めた。
転勤がある企業に勤める総合職社員に限っても、「どのような条件であっても転勤は受け入れない」と答えた人は18.2%、「不本意な転勤を受け入れるくらいなら会社を辞める」と答えた人は37.7%にのぼり、転勤を強く忌避する層があることが分かる。
「東京だけが日本じゃないんですから」
「転勤がある会社は受けない」「できれば入社したくない」と答えた就活生は、男子の47.4%に対し、女子が54.9%と上回っている。地方在住で結婚や出産をうながされたり、男性の補助的役割を担わされたりすることに、抵抗しているのかもしれない。
ホワイトカラーの男性では、20代男性では45.4%、30代男性では46.6%と「転勤忌避者」の割合が高いが、40代男性では41.0%、50代男性では38.8%と低くなっている。やはり若いうちは転勤したくないのか。
人口の割合から考えて「転勤したくない」人のうち相当割合が「東京で働きたい」「東京から出たくない」ものと考えられる。この調査結果に、ある専門商社に勤める50代男性のAさんは、転勤の効能についてこうコメントする。
「東京だけが日本じゃないんですから、いろんな場所で働いておくのはいいと思いますよ。年齢が上がって本社で管理職になり、日本全体のことを考えようとしたら、地方の視点も持っておかなければ話にならない」
Aさんは都内の有名私大を卒業後、新卒で入社した会社の営業として、東京を皮切りに、札幌、福岡、広島、仙台と転勤した経験がある。福岡赴任時代に地元の女性と結婚し、福岡にマンションを買い、その後は二拠点生活。現在は東京本社で執行役員を務める。
「入社時のグループ面接で希望勤務地を聞かれたら、みんな『東京で働きたい』と答えてね。僕だけが会社の支店のある都市を列挙して『どこでもいいです』と言ったら、僕以外みんな落とされた。そりゃそうですよね」
Aさんは転勤の意義について、「会社は別に忠誠心を試して、意地悪で転勤を命ずるのではない。地方拠点の地元の人たちだけではできない『問題を解決する役割』を担って赴任するんだから、転勤がなくなることはない」と説明する。
日本の地方大都市のコスパのよさは破格
会社にとっての必要性以外に、Aさんが強調するのは「地方生活のコスパのよさ」だ。
「これは最近ネットでも指摘され始めていることですが、日本の地方都市の不動産価格、特に中古物件の安さって、世界的に見てもバグと言ってもいいくらい、暮らすうえでの大きなメリットになるんですよ。これをうまく利用しないともったいない」
家族が住む福岡市内のマンションは、同じ価格の東京23区の中古マンションの倍以上の広さだ。近くに大きな公園があり、バルコニーから博多湾の夕日が見える。
「東京から出たことがない人って、地方に対する解像度が低いんですよね。一口に地方といっても、都市部と限界集落では全く性質が異なる。特に僕が赴任した地方の大都市のコスパのよさは、どこも異常ですよ」
インフラも整備されているし、生活利便性も問題なく、治安もいい。
「お受験の環境がないって? 本当に賢い子なら地方の大都市クラスなら教育環境に問題ありません。あるいは、これからの世の中を考えたら、東京の大企業ソルジャー養成大学に入るより、地元の専門学校を出て工務店で手に職つけて独立して職人として稼いだ方が儲かるし、楽しく暮らせると思いますよ」
Aさんは「若いうちは、東京から動きたくない気持ちも分かるけど、長い人生を考えれば、その殻は破ってみてもいいかもしれない」という。