2025年卒就活生の就職活動も終盤戦に入ったが、CHATGPTなどの生成AI(人工知能)が就職活動に使う学生が増えている。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年6月7日に発表したリポート「マイナビ 2025年卒 大学生活動実態調査(5月)」によると、3人に1人が就活で生成AIを利用しているという。
企業側もAIを使ってチェックしていると言われ、バレたら不利になる心配はないのか。調査をまとめたマイナビの中島英里香さんに聞いた。
「はつらつとした就活生が書きそうなエントリーシートを」と指示
マイナビの調査(2024年5月25日~31日)は2025年3月卒業見込みの全国の大学3年生、大学院1年生の合計4224人が対象。
生成AI(ChatGPTなど)の利用経験を聞くと、利用したことがある学生は62.9%、就職活動でも利用したことがあると回答したのは37.2%となった【図表1】。
実際に就職活動で生成AIをどのように利用したかを聞くと(複数回答)、「エントリーシート(ES)の推敲(誤字脱字のチェック、添削など)」(56.6%)が最も多かった。
次いで、「エントリーシートの作成」(41.7%)「自己分析(自己分析の深堀りなど)(28.8%)、「業界研究(業界の情報をまとめる、わからない情報を調べる)」(25.2%)、「面接対策(想定問答)」(17.8%)が続いた【図表2】。
就職活動では、エントリーシートに関する利用が群を抜いて多く、生成AIを利用する理由の上位には「自身のアウトプットの改善・改良」「作業時間の短縮」があがった。初めから生成AIを頼っているのではなく、自分で作成した文章を改良するためなど、あくまでも補助的に利用していることがわかった。
【図表3】は、自分のまわりで流行っているプロンプト(AIとの対話で、ユーザが入力する指示や質問)や、有用だと感じたプロンプトを自由回答で聞いた結果だ。これを見ると、学生たちは工夫をこらして生成AIと対話していることがわかる。たとえば――。
「あなたは〇〇社の面接官です。〇〇社は〇〇、〇〇という価値観を大切にし、最近は〇〇という活動をしています。それを踏まえて、以下のエントリーシートを100点満点で採点して下さい」
「自分の人生を時系列順に文章化し、それを読ませたうえで、面接で聞かれそうな質問をしました」
「『はつらつとした就活生が書きそうなエントリーシート』という指定のプロンプトを使いました」
こういった案配だ。
企業も好意的「面白い使い方をした学生がいれば評価したい」
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたマイナビのキャリアリサーチラボ研究員の中島英里香さんに話を聞いた。
――マイナビでは、過去にも就活生が生成AIを活用しているかどうかの調査をしていますが、活用率は増えているのですか。
中島英里香さん 昨年5月と今年3月に対話形式の生成AIの利用経験に関する調査を行っております。昨年時点では、就職活動に利用したことがある学生は18.4%でしたが、今年3月調査では35.2%と大幅に増えております。
学生に生成AIが浸透している結果だと思います。ただし、過去の調査対象は「対話形式の生成AI」、今回の調査対象は「生成AI」と対象が異なっておりますのでご注意ください。
――生成AIを就活に使うことに関して、企業側でもAIを使った「生成AI検出装置」があるという情報も流れています。学生の間では「バレたら返ってマイナスになるのでは」と心配する意見もありますが、どう考えていますか。
中島英里香さん 昨年6月に行った企業に対する調査では、学生が就職活動に生成系AIを利用している実感がある企業は4.6%と少数派でした。
また、就職活動における生成系AIの活用について「使い方を慎重に検討したうえで、活用してほしいと思う」企業が41.2%となり、自由回答では「面白い使い方をした学生がいれば評価したい」「効率化のために上手に使用することは推奨する」など、AIを使いこなすスキルとして好意的に捉えるコメントも挙がりました。
一方で、「面接で実際に話した際に、齟齬(そご)のある発言をしてしまう可能性がある」「入社がゴールではないので、自分を誇張しないように配慮して使用してほしい」などのアドバイスもありました。
学生が生成AIでアウトプットされた内容に手を加えず利用すると、企業から生成AIを使ったものであると認識される懸念はあります。また、ソース不明の情報が混在すると剽窃になってしまうリスクもあります。そのため、学生には生成AIにすべての作業をゆだねるのではなく、あくまでも「補助ツール」として利用いただければと思います。
※昨年6月に行った企業に対する調査
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20230718_54858/#AI
「自分一人では思いつかないアイディア」と「虚偽の危険」
――なるほど。意外に企業側は好意的なのですね。調査結果では、補助的に使っている人が多いようですが、実際に使う場合は、具体的にどういう点に気を付ける必要があるでしょうか。
中島英里香さん 生成AIを使うリスクとして、生成された内容には虚偽やバイアスが含まれている可能性、機密情報や個人情報流出のリスク・生成コンテンツの著作権の侵害の可能性があげられます。リスクを回避するためにも、たとえば以下のような注意が必要だと思います。
・エントリーシートなどを生成AIに読み込ませる場合に、個人情報や機密情報は入力しない。
・生成されたものをそのままエントリーシートや提出課題に利用しない。
・また、就職活動でのミスマッチを防ぐためにも、自分らしさが相手に伝わることを念頭に置いて利用していただきたいです。
――生成AIを使いたくないという学生もいるでしょう。就活に使うメリット・デメリットに関しては、どのように考えていますか。
中島英里香さん メリットとしては、自分一人だけでは思いつかなかったようなアイディアや表現が得られ、それによって作成したものがよりよくなることです。また、生成AIの利用は基本的に時間や場所を選ばない点も大きなメリットだと思います。
デメリットとしては、生成された内容には虚偽やバイアスが含まれている可能性があるため、生成内容の検証や確認が必要であること、そして、自身のリテラシーの向上が必要である点だと思います。
学生がより「自分らしさ」を表現するための補助ツール
――生成AIを使いこなすスキルの向上が必要だということですね。生成AIの就活での活用は今後も増えていくでしょうか。また、最後に今回のリポートで特に強調しておきたいことがありますか。
中島英里香さん 今回の調査で、大学生にとって生成AIがより身近なものになっていると感じております。そのため、就職活動での生成AIの活用は今後も増えていくと思います。
調査では大学生はあくまで生成AIを補助ツールとして利用していることがわかりました。就職活動は学生と企業のマッチングだと思いますので、学生にはより「自分らしさ」を表現するための補助ツールとして、生成AIを利用していただきたい。
また、調査の中で学生のまわりで流行っている、あるいは有用だと感じているプロンプトを聞いています【図表3】。この内容を見ると、学生はさまざまな工夫をして生成AIを就職活動に活かしていました。ぜひ詳細な内容を調査ページからご覧いただければと存じます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
中島 英里香(なかしま・えりか)
株式会社マイナビ キャリアリサーチラボ研究員
2016年マイナビ入社。新卒採用の求人広告営業を経て、採用管理システム担当として東日本の中小企業・大手企業の新卒採用支援や採用業務代行などを行う。現職では新卒領域の調査を担当。