全社員が、自分の報酬テーブルを自分で決める?!
前川 御社では、社員自身が自分の給料を決めるそうですが、まさに経営者感覚の養成ですね。どのように運用されているのでしょうか。
上田さん いくつかのポイントがあります。
1つは事前合意。もう1つが長期プラン。そして、記録しておくことです。
まず本人が、自分は3年後や5年後のこの時期までにこうした仕事を成し遂げるので、それに対してこの報酬がほしいとプランを作成します。単線でなくいくつかのバリエーションがあってもかまいません。
それをもとに、半年や四半期のプランも作ります。節目ごとの到達目標は抽象的でなく、客観的指標で書き出します。売り上げなどでなくてよく、たとえば、DX担当として、半年後は社内ペーパーレス何割達成、1年後は全社のリモートワーク可能体制を何割達成、などです。それで上司と合意できれば、記録しておきます。
これがあれば、3か月後や半年後の報酬 決めに議論は不要です。プラン通りの着地なら、そのまま支払うだけ。成果が下振れや上振れしたら、調整の話し合いはしますが、大筋で合意しているのでもめることはありません。
こうして、社員一人ひとりが自分の報酬テーブルを事前に作るわけです。
前川 それはすごい仕組みですね。事業リーダーのみではなく、全社員が行うのですか。
上田さん 全社員です。大事なのは事前合意です。事後だからもめるわけです。
今期、想定外に売り上げが伸びたので、自分の努力の成果として報酬アップを要望した。しかし上司からは、外部環境の好転や周囲のバックアップのおかげだと言われ聞き入れられない。こうなると、もめるわけです。
そもそも、仕事を発注して納品されてから価格を交渉するなどありえません。先に価格を合意してから、仕事を始めよです。
社員も業務委託契約と同じ考え方で、仕事と報酬をあらかじめ決めているわけです。基本プランはこれ、成績不振ならこれ、ここまで成果が上振れすればこれ、と複数パターンでの合意もありです。
考えてみれば、全国で数多ある中小企業の経営者は、皆自分で自分の報酬 を決めています。ですから、これはごく普通のことじゃないでしょうか。
前川 確かにそうですね。そこまでしっかり事前合意がされていれば、高いパフォーマンスを出していないのに法外な報酬を要求したり、自分の働きに対して給与が低いと不満が出ることもありませんね。
上田さん 重視しているのは、その人のアップサイド(上振れ可能性の上限)を引き出すことです。
事業部長がメンバーのプランを話し合う時に、「君が将来果たしたい夢からすれば、もっと早い時期にここまで到達するプランが必要じゃないか」と、本人の力をさらに引き出すのです。
本人が100の成果を上げて10の報酬を払うよりも、200の成果を上げて20以上を払うほうが、会社にとってもプラスですよね。だから、リーダーには本人にぜひアップサイドを書かせておくようにと言っています。
前川 なるほど。その働きかけは「本人の夢を削がず、より増やしていく」という冒頭のお話にもつながっていますね。
ビジネスプランはつい手堅く見積もりがちですし、キャリア自律に向けて社員自身に目標設定させる働きもあるものの、業績評価で×がつかないように低めの目標設定にするという守り意識を助長させてしまう場合もあります。
御社では、個と組織が共に成長していけるよう、あえて背伸びをさせるのですね。その報酬 決定の面談や評価面談は、メンバーとは約20の各事業部長が行い、各事業部長と経営トップの上田さんたちが行う形ですか。
上田さん はい、その2層で行っています。評価面談の周期は、基本は四半期ごとですが、事業部によっては、年度に重きを置いて行う場合もあります。
そもそも、この報酬 決定面談もマネジメントの一環なのか疑問に思う部分です。市場の動向をきちんと見ながら行えば、非常識な将来プランは出てきません。
短期的な予想はブレることはあっても、良識的なビジネスパーソン同士ならば、長期的なプランは握り合えるものですし、結果もそれほど不可解なものにはなりません。
前川 確かに。市場原理であれば、自然に調整作用も働き、収まるべきところに収まるということですね。
一般的には、上司が社内の人事考課基準と複雑な社内調整を経て部下の評価を決め、そのフィードバックに頭を悩ませるマネジメント業務には膨大な負荷がかかっています。
かつ、部下側は評価に不満を抱くことも少なくありません。それは本当に効率的なのか?という本質的な問いですね。
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