株式会社ガイアックスは、「フリー・フラット・オープン」な社風づくり、そしてアントレプレナーシップ(起業家精神)を重視した人材育成に注力している。
これは、社員のキャリア自律を促進しつつ、組織としてのイノベーション力向上につなげるとともに、同社が掲げる企業理念である「人と人をつなげる」こと――「人と人とのコミュニケーションの促進や、コミュニケーションを行うサービスや事業の創造に力を注ぎ、世の中全体を思いやる社会の実現に取り組む」――の実現を支えるものとみられる。
人材育成支援を手掛ける、株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんが、ガイアックスの上田社長にオンラインの対談形式でインタビューを実施した。
20代起業家を続々と輩出する同社の企業理念・ミッションへの取り組み、経営人材を育てる自律分散型組織づくり、今後の展望などについて、深く話を聞いた。
《お話し》上田 祐司さん(株式会社ガイアックス 代表執行役社長) 《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)
ガラス張り経営を徹底し、事業リーダー自身が意思決定
<社員の6割が起業し、20代経営者が続々生まれる ガイアックス、究極の「性善説経営」とは【インタビュー】>の続きです。
前川 孝雄 御社では「倒し切る」経営で、見事に自律分散型組織を実現していることがわかりました。
しかし、多様な人材をまとめ動かしていくことは、経験豊富な管理職や経営者でも難しいこと。事業リーダーや管理職登用、上司の部下マネジメント上の課題はありませんか。
メンバーが若いということもありますし、夢があることと人を活かすことでは求められる能力が異なる面もあるでしょう。その点にどう対処されていますか。
上田 祐司さん もちろん、メンバーが若いことで課題もあります。
入社3年目のリーダーの下で働いていた若手が「もうやめたい」と言い出した。そこで、面談で「若いリーダーに不満もあろうが、30代や40代でないとリーダーを任されない会社とどっちがいい?」と問い返しました。
本人は、もちろん自分も早く機会がほしいと言う。「じゃあ君があと1、2年後にマネジャーを任されて、ボロボロになった時に、即辞めてもらうのか、失敗してももう一度頑張れと言われるのと、どっちがいいの?」とも。
そのうえで部署替えも考えますし、「もう少し頑張るか」と聞くと、納得していました(笑)。
前川 そうした組織上の問題はナーバスですが、やりとりは随分とオープンなんですね。
上田さん 部下の上司への不満など、お互い同士でも、幹部間でもオープンに話すようにしています。そんなこと、いくらでもありますし。
前川 私はライフワークとして「人を活かす企業」を訪ね歩き、経営者へのインタビューを続けていますが、ガラス張り経営は必須条件のように感じています。
御社でも、全社員が全ての事業部の予算や達成状況、役員会議の内容も閲覧可能といった、ガラス張り経営を徹底しているとも聞きました。その仕組みについても教えていただけますか。
上田さん 期初の事業部の「予算」は各チームで立てますが、「実績」は経理が毎月記帳して公表します。それとは別に「予想」のシートがあり、これは当初予算をもとに各チームが随時更新していきます。
計画外で人を1人雇ったり、予定の大手クライアントが失注したなど、動きごとに書き込みや修正をしますから、コロコロと変わります。
この「予想」はチームの誰でもアクセスして更新できますし、すべてのシートは全社で閲覧できるようにしています。
いずれも、ある時点での結果が悪いから、即ダメとは考えません。
スタートアップなら、Jカーブと言われる初期投資の厳しい時期があるのは当然です。今実績が低くても、戦略的赤字なら何ら問題ありません。メンバーのモチベーションにも、Jカーブがある場合もあるでしょう。
前川 社員の夢や想いを削がない自律分散型組織というコンセプトからすると、そうしたガラス張りの情報の内容について、上田さんや経営陣はあれこれ意見は挟まないですか?
上田さん いえ、皆あれこれ自由に言いますよ(笑)。
でも、何を言っても言われても、判断するのは当事者です。聞き流すのもいいし、なるほどと取り入れるのもいい。たまに、本人もうっかりしていることもあるので、気づいたことは遠慮せず言い合うのがいいと思います。
ベンチャー企業における株主やエンジェル投資家も、あれこれと意見を言うのが仕事ですし、ありがたい面もあります。でも、それをクリティカルに経営に響かせるかどうかは、また別問題なんです。