株式会社ガイアックスは、「フリー・フラット・オープン」な社風づくり、そしてアントレプレナーシップ(起業家精神)を重視した人材育成に注力している。
これは、社員のキャリア自律を促進しつつ、組織としてのイノベーション力向上につなげるとともに、同社が掲げる企業理念である「人と人をつなげる」こと――「人と人とのコミュニケーションの促進や、コミュニケーションを行うサービスや事業の創造に力を注ぎ、世の中全体を思いやる社会の実現に取り組む」――の実現を支えるものとみられる。
人材育成支援を手掛ける、株式会社FeelWorks代表の前川孝雄さんが、ガイアックスの上田社長にオンラインの対談形式でインタビューを実施した。
20代起業家を続々と輩出する同社の企業理念・ミッションへの取り組み、経営人材を育てる自律分散型組織づくり、今後の展望などについて、深く話を聞いた。
《お話し》上田 祐司さん(株式会社ガイアックス 代表執行役社長) 《聴き手》前川 孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師)
「人と人をつなげる」ことで、世界中の人たちをハッピーに
前川 孝雄 私は「人と人をつなげる」「世の中全体を思いやる社会の実現」に強いこだわりをもっておられる御社の企業理念や創業者の上田祐司さんの発信にかねてから注目していました。今回の対談を楽しみにしていました。
「つなげる」ことは、資本主義が暴走し対立や戦争も起きている現代社会改革にも通ずる壮大なwillのようにも感じています。そこで、まず、上田さんがこうした大きな理念や課題意識を持つに至ったのはなぜか。その背景や想いから、お聞かせいただけますか。
上田 祐司さん 私の根本にあるのは、なにより「効率的でありたい」という思いです。
資本主義社会を構成して動かしているベースも、結局は一人ひとりの感情です。目の前のリンゴと桃を比べて、それぞれいくらなら買って食べたいか。また、この仕事は少しつらそうだが、この賃金なら請け負ってもよいだろうか、など。だから、世界中の人の感情を1つのテーブルの上に載せて、最適にマッチングとチューニングができれば、全員が満足できるはず、私はそう考えています。
ただ、ICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)が貧しかった時代には、不可能でした。それで、仕方なく人々のニーズを数字情報に落とし込み、その動きで需要と供給を見計らい、企業戦略を練ってきたわけです。
でも、そこにはかなりズレや無駄がある。しかしインターネット技術の大きな進化と普及で、はるかに効率的にできる可能性が開けた。インターネット技術を駆使して最適解に近づけば、世界中の人たちの感情が満たされハッピーになると思います。
これは、決して資本主義に対抗しようとするものではありません。
大切なのは人の想いや夢を劣化させないこと
前川 御社では、新卒社員の6割が、在職中または退職後に起業し、20代経営者が続々生まれているとうかがっています。いわゆるアントレプレナーシップ重視の経営によって、組織づくりや人づくりで成果を上げています。
一方、上田さんは、さまざまなインタビューの中で、人材育成について「育てるのではなく、優秀な人の想いを削がない、邪魔をしない仕組み作りが大切」と繰り返されています。
組織や社会を変える可能性がより高い若いメンバーの発想や意見こそ大事にすべきことも語っておられました。人の持つ潜在力や可能性を信じ、組織や仕事への主体的なコミットメントを尊重する、いわば「性善説」ともいえる人間観が垣間見えます。この点についてのお考えをお聞かせいただけますか。
上田さん まず大前提として、一人ひとりが大きな夢を持っていることが大切です。
皆、小さい時は「プロ野球選手になりたい」「大統領になりたい」など、大きな夢を語っていた。でも、大人になるにつれて夢がどんどん劣化して、縮んでしまう。夢の大きさで人を点数付けするなら、歳と共にどんどん減点になるのです。
就活生や新入社員はかろうじて自分の将来の夢やキャリアを語りますが、実際に就職すると激減してしまう。そうさせては駄目だと思うんです。
仕事は、人生そのものです。どんな仕事の知識やスキルを身に付けるかより、自分は人生で何を成したいか、どう生きたいかが第一なはず。人は90%以上、想いや夢で構成されているものだと考えています。
夢を削がないだけでなく、伸ばしたいのですが、そこが難しいところです。そこで、あなたのライフワークは何? もし、今から人生リスタートできるなら何が一番したい? じゃあ、なぜ今すぐそれをしないの? そうした質問を適切に問いかけていく必要があるのではないでしょうか。
前川 人の想いや夢を削がないこと、むしろ引き出すことが第一だということですね。そのため、大人は若者や子どもたちに、職場では経営者や上司といった人たちは社員や部下に、積極的に問いかけをしていくことが大切だと。
上田さん もう一つ大事なのは、環境です。周囲の皆が、自分のやりたいことを語り、「しまくっている」環境の中にいることです。
僕は、小学生の時に毎日4キロ泳いでいました。周りもそうなので、当たり前だった。それが中学になると、誰も泳げなくて驚いた。でも、よくよく思い出すと、小学校に転校生が来ると確かに泳げなかったなと(笑)。「これは難しいな」と思い込んだ時点で、もうできなくなる。
前川 周りが全員できるから違和感がなかったけど、一歩引いて見てみたらすごいことだったと。夢の実現に向けてチャレンジしまくっていて、チャレンジが当たり前と思いこめる環境が大事なわけですね。
上田さん うちの会社に集まるメンバーは、新規事業を創りたいとか、起業したいという人たちです。だから、新しく入った人も、日々そういう人たちと接して話していると、自然とそれが当たり前になる。
前川 新規事業や起業にチャレンジしまくっている環境をつくり、そこにチャレンジしたい人がさらに集えば、自然と啓発し合えるということですね。
それにしても、保守的で起業家が生まれ育ちにくいといわれる日本において、なぜ御社ではそうした環境がつくれるのでしょうか。
中途半端でなく「倒し切ること」で生存し続ける
上田さん いくつか要素はあるとは思うのですが、一つには「倒し切っている」からでしょう。
前川 「倒し切っている」(笑)。それは、どういうことですか?
上田さん たとえば、うちは世界中どこからでもフルリモート勤務OK(※1)です。
リモートワークはコロナ禍が始まる5年以上前から導入していました。出社するのとどちらがパフォーマンスが高いか、比率をどうするかなど悩まない。徹底すれば人材が集まり、成果も上がるものです。
これは一例ですが、弊社を中途半端に真似ようとしても、倒し切らない限り火傷すると思います(笑)。
前川 「倒し切る」とは、なまじ中途半端でなく、完全に「振り切る」ということですね(笑)。
上田さん 弊社の場合、倒し切ることで生存を図っているわけです。
「どの昆虫が最強か」という問いは、実はナンセンスです。どの虫も自分の置かれた環境で最適な進化を遂げることで最強になっている。
たとえば、蜘蛛がカブトムシの殻を身に付けたらより強くなるかといえば、そうではない。私たちは、倒し切った場所で自分を最適化し最強となって生存していこうとしているんです。
前川 いま多くの企業、特にJTC(伝統的な日本の大企業)と揶揄されることもある大手企業ほど、若手の採用難や早期離職に悩んでいます。御社はそうした課題からは遠いと思いますが、日本全体の状況をどう見ておられますか。
上田さん 私たちは「倒し切っている」とはいえ、世の流れが今後進むであろう方向に向かって倒しているつもりです。
採用には力も入れており、優秀な若手が来てくれています。伝統的な大企業は、なかなか時流に乗れていない分、厳しい現状は想像できます。
うちに来るような若者が、現時点でそれらの企業に入っても、互いにアンハッピーでしょう。大企業は資産の貯えは多いので、有利なゲームを運べます。その立場をうまく活用しながら、微調整でチューニングしていくのが現実解じゃないでしょうか。
ただし、組織の意思決定者が20代の若者をいかに理解し、どう向き合うかが重要ですね。
前川 私は企業内人材育成支援と並行して、十数年間、大学の正規課程でも教えていますが、ここ5年ほどの学生の意識変化を実感しています。
企業が欲しがる優秀層ほど、スタートアップやソーシャルベンチャーに関心を抱くのです。かつてはエリートの代名詞だった霞が関の官僚になることも敬遠されるようになってきています。倒しきる御社に起業家予備軍が集まるのは、必然なのですね。
(※1)渡航先、適切な在留資格について調べた上で、会社が認めた場合に限り海外からのリモートワークを認めております。
国境を越え業務をする場合には、それぞれの国の法律や税制度、国際的な取り決めなどに則り、適正なビザの取得や税法上の対応などが必要になります。また、2024年現在世界各国で、デジタルノマド・ビザ(ワーケーション・ビザ)の整備が進んでおり、常に最新の滞在先のルールを確認をすることが必要です。(出典:https://www.gaiax.co.jp/workstyle/)
同期も階層もないダイバーシティ組織でリーダーシップ鍛錬
上田さん ただ、うちの会社はいわゆる若手の比率は少なく、1つの事業チーム内で約2~3割です。
メンバーには業務委託もたくさんいて、ベテランもいれば、高校生(※2)がいたこともあります。幹部陣の比率はごくわずか。そのなかでチームリーダーは、若手の場合もある。採用時には、そんな多様な人の中で一緒に働かないかと呼びかけるわけです。
一方、大手企業では同期が100人一緒に入る。その上も、またそのいくつも上まで、やはり同じ100人ずついる。そんな組織とどっちがいい? ボールが回ってくるまで待つの? というのが、うちのクロージングトークです。
前川 つまり、御社は同期や積み重なる階層というものがほぼない、ダイバーシティが進んだ組織。だから、多様な人のなかで揉まれながら、すぐに成長や活躍ができるよ、というわけですね。
上田さん うちに来てほしい若手は、事業運営に関心がある人材です。だから、期待するのはテクニカルなスキルを身に付けて磨くことより、将来の事業経営幹部に加わってほしいわけです。
各分野で必要なプロフェッショナル人材は、業務委託も含めてたくさんいます。むしろ、そうした人材のチームを束ねて動かす役割を担ってほしい。採用の際にそう説明すると、やはり響きますね。
最近では、すでに起業している人の入社希望も目立ちます。新卒で、週3日の正社員で採用という例もあります。大手企業でも、売りにしたい職種だけに絞れば、採用難も早期離職もないのでしょうが、難しいのでしょうね。
前川 その通りですね。企業規模が大きくなるほど、多様な職種が必要です。
いくらジョブ型にシフトするとはいえ、組織を構成するのは花形の仕事や職種ばかりではありませんから、どの企業も苦しんでいます。御社が若手採用に成功しているのは、採用対象を尖った人材に絞り込んでいることが大きいのですね。
上田さん ただ事業経営を目指して入ってくる優秀な若手に、然るべき仕事を用意しなければならないプレッシャーは常に感じています。
そうした人に「下積み3年」なんてとても言えないし、会社都合でそんなことをしてはダメです。弊社が出資する「スキマバイトサービス」をうたうタイミーを利用した飲食店から聞いた話ですが、同サービスを利用し始めた結果、ベテラン従業員の離職が減ったというのです。
理由は、日替わりで入るバイトに食器洗いや清掃などを頼めるため、社員がコアの仕事に集中できるようになったからだというのです。
前川 なるほど。タイミーを利用したアルバイトは、自分の持て余す隙間時間だけ働いてバイト代をもらえればいいわけで、仕事内容にあまりこだわりはない。
一方で、従業員は自分の人生の重要な時間を使って働いているわけだから、やりたい仕事やキャリアに没頭したい。お互いに満足ということですね。
(※2)高校生のインターンシップ受け入れについて:ガイアックスにおけるインターンシップ契約(業務委託契約)は、雇用契約ではありませんが、高校生との契約においては、同等の配慮をし、保護者の同意を得て参加してもらっています。(参考:「高校生等の年少者への労働基準法適用について」(厚生労働省 労働基準監督署))
<リーダーはメンバーの夢を変えよ!「アップサイド」引き出すガイアックスの人材育成の流儀とは【インタビュー】>の記事に続きます。