Xの「いいね」欄が2024年6月13日(日本時間)、非公開になった。他のユーザーの「いいね」欄は見られなくなった。
これにより、企業やユーザー側にどのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。文京学院大学教授(マーケティング戦略)の濵田俊也氏に聞いた。
企業のマーケティングに与える変化
日本のX公式アカウント(@XcorpJP)は6月13日、今回の変更について「みなさんのプライバシーをより守るため」だと説明している。
企業側に及ぼす影響について、前出の濱田氏は「『いいね』の非公開化は、マーケティング・コミュニケーションの後退に繋がりかねない」と指摘する。マーケティング・コミュニケーションは、マーケティング活動全体を通じて、企業と消費者をつなげる情報伝達をする活動のことを指す。
企業のプロモーションや広告、宣伝は以前と比べて進化している。例えばテレビCMでは、一定期間に放送されたテレビCMの視聴率を合計した「GRP」という指標があり、コミュニケーションの効果を「量」として計算していた。
だが、近年、SNSの発展で、コミュニケーションの「質」がわかる手立てが増え、企業側が以前にも増して「質」を重視する傾向になったと、濱田氏は言う。例えば、Xで言えば、どんな層が「いいね」したか、良いか悪いか、どういう意味で「いいね」されているか、などが「質」にあたる。
「Xを使うことで、自らが行ったマーケティング・コミュニケーションの『質』がある程度分かっていたが、『いいね』の非公開化によって、一部が測れなくなった。さらに言えば、企業側と消費者側のコミュニケーションが生まれるチャンスの一部がなくなってしまったと思います」
濱田氏は「いいね」の非公開化によって、例えば、炎上案件の拡散力は落ちるかもしれない、とも指摘するが、実際どの程度の変化があるのかは不明だ、とも話した。
Xのユーザー数も減っていく可能性も
また、Xのユーザー数に影響する可能性があると、濱田氏は指摘する。一般ユーザーにも「質」が可視化されていたからだ。「有名人や友人といった、いわゆる関与の高いアカウントの『いいね』を見る場合が多いと思いますが、それが見られなくなると、Xにアクセスするモチベーションは下がる可能性があります」。
一方、Xが狙う「プライバシーをより守る」というメリットもある。中傷投稿を「いいね」したことを巡る訴訟も実際に発生。「いいね」するリスクが減るという効果は、非公開化によって生まれるという。
しかし、今回の変更を受けて、どんなポストにでも自由に「いいね」することにも、濱田氏は注意喚起を促す。企業としてのXの方針が変われば、いいねしたアカウントが再び公開される可能性もあるからだ。「今後どうなるかわからない、という想像力をはたらかせながら、企業やユーザーはXを使っていかなければならない」と指摘している。