6月1日選考解禁というのに、2025年卒大学生・大学院生の就職活動がとっくに終盤戦に入っている。
リクルートの就職・採用関連の研究機関「就職みらい研究所」が2024年6月6日に発表した「就職プロセス調査(2025年卒)『2024年6月1日時点内定状況』」によると、6月1日時点での内定率が82.4%と、現行の就活スケジュールになった2017年以降で最高となった。
まだチャンスはある、焦らずにしっかりと就活を進めようと、同研究所所長の栗田貴祥さんがアドバイスする。
現行の就活日程になった2017年以降最速ペース
就職みらい研究所の調査(2024年6月1日~3日)は、2025年卒業予定の大学生(3079人)と大学院生(861人)の合計3940人が対象。6月1日現在の内定率(大学生のみ)は82.4%(前年比2.3ポイント増)と、5月1日時点より10.0ポイント高くなった【図表1】。
理系が85.0%(前年比2.4ポイント増)と、文系の81.2%(前年比2.9ポイント増)を大きく引き離した。また、女性が83.2%(前年比6.6ポイント増)と、男性の81.7%(前年比0.6ポイント減)を上回っている。女性は4月までずっと男性より低かったから、ここにきて猛ダッシュをかけた。
内定取得企業数の平均は2.46社(前年は2.32社)。2社以上から獲得した人が65.9%(前年は61.1%)に達した【図表2】。
また、内定保有企数の平均は1.33社(前年は1.29社)。2社以上から獲得した人が24.2%(前年は20.7%)とかなり多いことが目立つ【図表3】。
スタートダッシュの早さを反映して、進路確定率も66.2%(前年比7.6ポイント増)と、現行の就活スケジュールとなった2017年以降最高になっている。
「早く終わって学業に専念」VS「早すぎて学業に支障」
就活生のフリーコメントからは、スピードアップした就職活動について賛否両論の意見が寄せられた。まず、賛成の声はこうだ。
「早期で終わらせることができ、余裕を持てて良かった」(理系女性)
「就職活動はあくまで手段であるため、集中して早期に終わらせ、自己投資に時間を充てるべきだと思う」(理系男性)
「早く終わらせて良かった。長続きして就活していたら卒業研究に響いていた」(理系男性)
「最初は早期化で不安や不満を抱えていたが、今となっては残りの学生生活を有意義に使える時間が増えたので良かった」(文系女性)
一方、戸惑いと後悔の声も聞かれた。
「想像以上に就職活動が早期化・長期化していることを痛感した」(文系女性)
「5月で内定をもらった人ですら遅く見えてしまうぐらいの早期化が進んでいて、それはどうなのかと感じる」(文系男性)
「5月時点で周りの半数以上は進路が確定していた。それによる焦りもあり、とにかく早く終わりたいという一心で、上の企業に挑戦するなどは全くなくなった。絶対に行きたいではなく、自分が行け たらいいなと思う程度の企業の内定が取れたので終了した」(文系女性)
「早期選考が主流になりすぎて、学業に支障が出る」(文系女性)
何とか採用計画人数を確保しようと、企業も必死
これほど早いペースで進んでいる就職活動、焦らずに自分に合った会社を見つけるにはどうしたらよいか。J-CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった就職みらい研究所所長の栗田貴祥さんに話を聞いた。
――6月1日時点の内定率が82.4%と驚異的な数字です。これほどスピードアップした理由は、ズバリ何ですか。
栗田貴祥さん 現行の就活スケジュールとなった2017年卒以降の6月1日時点の内定率として最も高い数値となりました。現行のスケジュールでは、6月1日からが企業の選考活動の開始とされていますので、8割を超える内定率の高さはかなり高い状況です。
当研究所では、各卒年で2月から10月まで、毎月内定率を調査していますが、2025年卒の6月までの内定率は、2017年卒以降で最高値となっています。
この内定率の高さは、昨今の人手不足による、企業の採用意欲の高まりから、なんとか採用計画人数を確保しようと早期に選考活動・内々定出しを実施する企業が増えていることが要因として考えられます。
――早まった就職活動に対する就活生のコメントが、興味深いです。就活の早期化に関して2つの意見があります。
「焦りながら就活をしていた」「学業に支障が出る」という批判派。もう一方は、「早く終わらせて、余裕を持ててよかった」「長続きしていたら卒業研究に響く」という歓迎派。それぞれどう思いますか。
栗田貴祥さん 就職活動が早期化していることにより、学業や課外活動が阻害され、充実した学生生活に支障をきたしているということならば、それは憂慮すべきことだと思います。
労働力人口がどんどん減少していくなか、学生一人ひとりが、学業や課外活動など充実した学生生活を通じて、社会に出てから活躍するための力を身につけることは、個人にとって、企業にとって、ひいてはこれからの日本社会全体にとっても大変重要です。
ただし、学生一人ひとりの状況は、大学での講義や部活などの課外活動によりそれぞれ異なっています。キャリアや就職についての考え方や、将来就きたい仕事や働いてみたい企業などの自身の選社軸が定まるタイミングも学生によりさまざまです。
また、学生の価値観も多様化してきていると言われるなか、一律的なスケジュールでしか就職活動を行えないという状況は限界にきていると思います。
単一的な就活ではなく、複線的スケジュールの用意を
――う~む、就活の早期化が学生たちにとっていいことなのか。悪いことなのか。難しいですね。今後の企業の選考活動はどうあるべきだと思いますか。
栗田貴祥さん 実際に、企業との接点が早期化しても短期間で納得できる企業から内定を確保できたことで、大手企業の選考や内定出しが本格化する6月まで就活を続ける必要がなくなった。その結果、卒業論文に注力できてよかったという声は、まさに「早期化」がすべからく学業に悪影響を与えるわけではないことを示してくれています。
「早期化」という現象だけに目を向けるのではなく、現状の就職活動のスケジュールに関して、さまざまな学生の声もあるということをきちんと受け止める。そして、「学ぶ」と「働く」の好循環を生み出すために、現在のような単一的な就職活動のあり方一辺倒ではなく、複線的なスケジュールを用意するなど、これからの就職活動のあり方を、今一度考えなくてはならない時期に来ているのだと思います。
――まだ、1社も内定をもらっていない学生は、これから何に一番心掛けて就職活動を進めていったらよいでしょうか。
栗田貴祥さん 【図表3】の内定企業保有数を見ると、内定取得者のうち2社以上内定を保有している割合は24.2%と、昨年(20.7%)より3.5ポイント高い状況でした。このことから、今後、内定辞退が増えることが考えられます。
それにより、内定辞退が想定よりも多かった企業は、採用予定数確保のため、追加の説明会開催・募集など、採用活動を継続することも予想されます。
企業の採用意欲は引き続き高いため、就職活動を継続している学生の皆さんは、興味・関心のある企業の採用動向を確認しつつ、納得できる進路決定に向けて活動を進めていきましょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)