ChatGPTが2022年11月に初登場してから、2024年6月で約1年半。生成AIはビジネスの現場でどんな活用のされ方をしているのか。
モバイル専門の市場調査を行うMMD研究所(運営元はMMDLabo、東京都港区)が2024年5月21日に発表した「生成AIのビジネス活用に関する調査」によると、業務効率が向上した人が7割以上に達する。
まだ、主に文章要約、情報収集などに利用されている段階だが、ほかにどんな活用法があるのか。また、今後の課題は? 調査担当者に聞いた。
活用上位は「文章要約」「情報収集」「メール文章作成」「翻訳」
MMD研究所の調査(2024年4月24日~4月26日)は、ビジネスで生成AIを活用した経験がある402人が対象。
実際にどんなシーンで活用しているかを聞くと(複数回答可)、「文章要約」(60.4%)が最も多く、次いで「情報収集」(60.2%)、「メール文章作成」と「翻訳」が59.7%と続いた【図表1】。
その結果、業務効率が向上したかを聞くと、「上がった」と「やや上がった」を合わせて約7割(70.6%)が向上を感じていた【図表2】。
ところで、生成AIに関しては、情報の漏洩やデータの偏りなど、さまざまな問題を抱えている。そこで、生成AI活用について職場でのルールや規則について聞くと、「ルールや規則がある」と回答したのは約8割(83.3%)だった【図表3】。
【図表4】が、その具体的な内容だが(複数回答可)、「顧客や従業員の個人情報を入力しない」(39.7%)が最も多く、次いで「データに偏りがないようにする」(38.8%)、「会社の機密情報を入力しない」(38.5%)がトップスリーに並んだ。
また、日本でも生成AIがビジネス活用される際の法規制の議論が進んでいるが、その必要性について聞くと、95.0%が「必要性を感じている」と回答している。活用経験者のほとんどが、職場のルール以上の規制の必要性を感じているわけだ。
ビジネスでAIを使う職場自体が、まだまだ少ない
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なったMMD研究所の担当者に話を聞いた。
――生成AIのビジネスでの活用経験の上位10位をみると、それぞれ納得の項目ですが、不思議なのはそれぞれに活用経験がない人が、4割~5割もいることです。この人たちは、いったい何に活用しているのでしょうか。
担当者 前提として、この質問はビジネスでの生成AI活用経験者に聴取しているものの、そもそもビジネスでAIを使うことが推奨されている、または使う機会がある職場自体がまだ少ないのではと思います。
質問項目については、たとえば「文章要約は活用したことがないけど、情報収集で活用したことがある」というように、一部の用途でのみ生成AIを活用している人も含まれています。何かしらの形で活用されている1位が「文章要約」、2位が「情報収集」...となると理解してください。
――なるほど。上位10項目以外にどんなことで活用しているのですか。
担当者 11位以下は、「エクセル関数作成」「動画・音楽・音声生成」「スケジュール管理」「コーディング」「SEO対策」「意思決定」「LP制作」などがさまざまあります。
多岐にわたる生成AIの活用でトップスリーに共通しているのは、活用目的として1位に挙げられた「業務効率の向上」に直結する項目と思います。そうした目的以外に生成AIを使うほどには、まだ市民権は得られていないのかもしれません。
――生成AIに関する職場の活用推進度の調査を見ても、あまり進んでいませんね。
担当者 それは、上層部の意見が統一されていないことや、各個人の意見が異なることが影響していると考えられます。個人の活用については、必要な場面や、職場で推奨されている場面では使えているが、まだ、使いこなしているとは言い切れない、といった方が多いのではないでしょうか。
いずれも、AIに任せられることと、そうでないことの線引きが曖昧であることや、慎重な姿勢が原因で、完全に使いこなせていないということも考えられます。
現時点ではルールで縛りすぎず、まず活用に慣れること
――生成AIによって「業務効率が向上した」人が7割を超える一方、依存度も6割近くいます。この結果は心配ないのでしょうか。
担当者 データを調べると、20代~40代が業務効率向上を感じ、依存度も比較的高く出ています。20代~40代では、まず業務効率向上を感じてから信頼を確立したうえで、依存に至っていると感じます。
20代~40代のほうが新しいツールに対する柔軟性があり、使いこなすことで業務効率もどんどん上がっていくという好循環が生まれるのかなと思いました。
――ところで、生成AIに関する職場のルールや規則を設けていない人、あるいは、ルールや規則があるかわからないという人が、2割近くいることが気になります。顧客や従業員の個人情報や、会社の機密情報が洩れたらどうするのでしょうか。
担当者 ルールや規則に関する回答も、ルールが存在していても各個人の認識によっては、「会社から指示されているから、気を付けている」と捉える人もいれば、「気を付けるのは常識」として受け取る人も少なくないかと思います。
先ほども述べましたが、生成AIのビジネスでの活用が最近始まったばかりであるため、現時点ではルールで縛りすぎず、まずは活用に慣れ、生成AIがどのようなものかを理解する段階にあるとも考えられます。
しかし、職場で使用する以上、情報漏洩がないように徹底することが必要です。そのため、業務に関連する具体的な内容や文言を使用しないように早いうちから意識することも重要だと考えます。
そのことは、「法規制をすべきだ」と考える人がほとんどであることでも、明らかです。
試行錯誤で練習すると、欲しい回答が返ってくる打率が上がる
――いずれにしろ、まだ過渡期にあるということですね。専門家として、生成AIのビジネス活用について、今後の課題をどう考えますか。また、上手な活用方法をアドバイスしてください。
担当者 あくまで調査員個人としての見解になりますが、新しいサービスの普及には時間がかかるものです。特に、若い世代を中心に生成AIの普及が進んでいるため、柔軟な活用方法を策定していくことが重要だと考えます。
まずは、実際に生成AIを使ってみて慣れたうえで、どんなルールが必要かを考え、自分に合った使い方を見つけることが大切です。うまく活用することで業務の効率化や生産性の向上に寄与できると考えます。
私も業務上、ChatGPTを使うことがあります。使うまでは「AIとはいえ、たいした回答は得られないのではないか」と考えていました。しかし、自分の聞きたいことを明確にし、どんな回答が欲しいか具体的に質問して、試行錯誤しながら練習をすると、欲しい回答が返ってくる打率が上がってきました。
どんなことができるのかがわかってきた今では、プライベートでも相談事を壁打ちしたりしています(笑)。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)