2024年5月28日放送の「カズレーザーと学ぶ。」(日本テレビ系)で紹介された子どもの虫歯をめぐる内容の説明が不十分ではないかとして、SNSで指摘が相次いでいる。
番組では歯学の専門家が「2歳半までに虫歯の原因菌(ミュータンスレンサ球菌)に感染しなければ生涯虫歯にならない」などと説明したが、日本口腔衛生学会は、2歳半前よりも前に感染した事例があることや、ミュータンスレンサ球菌以外にも原因菌があることを指摘している。日本テレビは、2歳半までに感染しないことは「至難の業」だと説明したことを強調する一方、「年齢の区切りが強調されすぎていたかもしれません」ともコメントした。
「感染の窓」の時期に感染しなければ虫歯にならないと説明
28日放送回のテーマは、「虫歯&口臭改善SP」。歯や口臭を専門にする大学教授が3人登場し、口腔トラブルとその解決方法を解説するといった内容だった。出演した大学教授の一人、広島大学大学院医系科学研究科の二川浩樹教授は、虫歯の原因菌であるミュータンスレンサ球菌は生まれたときには持っておらず、1歳半から2歳半の「感染の窓」と呼ばれる時期に感染すると説明した。
番組にゲスト出演した俳優の土屋太鳳さんは、自身の子どもに「けっこう気にせずチュッチュチュッチュしてる」、食べこぼしを「自分でちょっと食べてからもう一回掬ってあげちゃったり」とし、「そういうときに危険性が?」と問いかける。二川教授は「ありますね」と応じた。離乳食を口移しであげたり、フーフー冷ますときに唾液が飛散したりすることが伝播の主な原因になると話した。
その一方、「感染の窓」の時期に感染しなければ虫歯にならないとし、「一生のためにその時期を全力で子育てしていただければ」と呼びかけた。ゲストの矢田亜希子さんが「本当に一生ならないんですか?」と問うと、二川教授は「基本的にはそういわれている」と答えた。
ナレーションも改めて「口内細菌のバランスは2歳半前後に決まるため、そこまでに虫歯菌に感染しなければ、生涯一般的な虫歯にはならないと言われている」と案内。「基本的には」「一般的な」としているものの、2歳半までに感染しなければ生涯虫歯にならないことが強調されている。
ナレーションは続けて、「それは至難の業。多くの人はミュータンス菌が酸で歯を溶かす虫歯と一生戦っていかなければならない」とつなげ、虫歯菌が口内の別の菌と「悪魔合体」し、虫歯の進行スピードを早める現象について説明した。
「感染の窓」の期間より前、1歳半未満で虫歯菌に感染する可能性については特に言及されなかった。
日本口腔衛生学会の声明との矛盾が指摘される
番組が放送されると、Xでは、一般社団法人日本口腔衛生学会が23年8月に発表した声明を踏まえ、この情報が誤りではないかとする指摘が相次いだ。
日本口腔衛生学会の声明は、親と子の食器の共有を避けることで虫歯予防ができるとの情報が広まっているとして、この科学的根拠は必ずしも強くないことを発信するものだ。理由として、一般的に食器の共有が始まる離乳食の開始時期以前、生後4か月に親の口腔細菌の伝播が確認された研究があることや、虫歯の原因菌はミュータンスレンサ球菌だけではないことなどを挙げている。
生後4か月には口腔細菌の伝播が確認されたとすると、番組での1歳半から2歳半の間にミュータンスレンサ球菌に感染するとの説明とは異なるのではないか――。さらに、この時期にミュータンスレンサ球菌に感染しなければ生涯虫歯にならないとの説明は、ほかにも虫歯の原因菌があるとの説明と矛盾するのではないか、Xではこうした指摘が寄せられた。
日本口腔衛生学会の見解は
実際、番組で放送された情報についての日本口腔衛生学会の見解はどうか。
「虫歯菌(ミュータンスレンサ球菌)は、1歳半から2歳半頃までの間に感染する」との番組の説明について、6月6日にJ-CASTニュースの取材に応じた日本口腔衛生学会の担当者は、次のように指摘した。
「虫歯菌はこの期間に口の中に定着する(住みつく)と言われていますが、それよりも早い時期に感染している(口の中に入ってくる)可能性があります」
番組では親子間のキスについても触れているが、二川教授が感染の主な原因として挙げたのは、離乳食の口移しやフーフーと冷ますときの唾液の飛散だ。こうした原因についても、離乳食の口移しなどで感染する場合があるとしつつ、「赤ちゃんが親の腕に抱かれていて、それで話しかけると唾液が飛ぶこともあるでしょう」とし、離乳食が始まる以前に感染する可能性を示した。
さらに、「この十数年で科学的な常識になりつつあること」として、虫歯の原因菌がミュータンスレンサ球菌だけではないことも挙げる。
「そもそも口の中には数多くの種類の菌がおり、ミュータンス菌以外にもむし歯の原因になる菌がいます」
「科学的な事実は、時間とともに変わっていくことがあります」
「2歳半までにミュータンスレンサ球菌に感染しなければ生涯虫歯にならない」との説明についてはどうか。
日本口腔衛生学会は、「ミュータンス菌が検出されないむし歯患者が存在するということが論文で報告されています」と説明。さらに、ミュータンスレンサ球菌以外の菌を原因とする虫歯は、2歳半以降にも感染することがあるため「誤りだと考えられます」とした。
今回の番組で放送されたような情報が広まっていることを受け、日本口腔衛生学会は積極的に情報発信を続けていきたいとした。
「ミュータンス菌の感染は、当時としては感染を防げば良いという考えがありました。しかし、その後、『ミュータンス菌が親から感染することがあるのは事実だが、感染を予防するのが難しい』ということが分かってきました」
と経緯を説明。「どのような分野でも、科学的な事実は、時間とともに変わっていくことがあります」とする一方、「すべての人の認識が一瞬で変わるようなことはございません」という。「私たちとしては引き続き、情報発信をしていきたく考えております」とした。
虫歯菌に感染しないことは「至難の業」と伝えたと説明
日本テレビのマーケティングコミュニケーション部は11日、J-CASTニュースの取材に、2歳半までの間にミュータンスレンサ球菌に感染しないことは困難であることも合わせて放送したことを伝えた。
「複数の専門家の監修のもと、乳歯が増えてくる1歳半から、口内細菌のバランスが決まってくる2歳半の間が、一般的な虫歯にならないために最も注意を要する時期であることを放送したものです」
「この時期までに虫歯菌の伝播がなければ基本的には虫歯にならないものの、生涯というスパンで考えた場合にそれは至難の業であり、多くの人が虫歯と戦っていかなくてはならない旨も合わせてお伝えしました」
さらに、日本口腔衛生学会の声明は把握していたものの、「当番組では食器の共有だけでなく、口移しなどによる唾液での菌の伝播について広く扱ったものです」と説明した。
一方で、1歳半から2歳半という年齢を強調した点については、
「年齢に多少の幅があることには触れなかったため、年齢の区切りが強調されすぎていたかもしれません。こうした点につきましては今後の番組制作に生かしてまいります」
とした。