一言も叱ってくれない先輩から学んだこと
顧客先から帰社の途中、MさんはあらためてKさんにお詫びを述べましたが、Kさんは怒っている様子もなく、穏やかに「はい」と答えただけでした。Mさんは、内心、Kさんに尋ねようか迷っていました。
「原因は私なのに、Kさんはなぜ私を叱らないのですか?」(Mさん)
一言も叱られないのが不思議でしたし、余計に居心地が悪くもあったからです。でも、その時は、結局最後まで聞けませんでした。
いまはリーダーとなったMさんは、当時を振り返りこう語っています。
「意外なことに、そのミスでKさんから叱られることはありませんでした。ただ、あの日のKさんの素早い行動や言葉のはしばしから、とても大事なことを学びました。
ミスを起こしてしまったら、後は相手への損失をできるだけ早く、最小限に、どうリカバリーするかを考えることが第一だと。また礼節を守り、素早く、しっかり謝りに行くことが、いかに大事かということも。
この時のことで、私が言える立場ではないのですが...犯人探しより遥かに大事なことがある。ミスを起こしたら、上司や同僚の顔色ではなく、お客様のことを第一に見て、考えなきゃいけない。だから、日頃からお客様のために、しっかり責任ある仕事をしなければいけないんだと、後ろ姿で教えてもらったんです」(Mさん)
Mさんは、若手の頃の何度かの手痛い失敗と先輩の助けを通して、仕事の本質を学ぶことができたと話しています。
このエピソードは6月9日公開の<30代上司を「ふつうやりづらい」50代部下が徹底サポートしたのはなぜ 接待ノウハウ、強気の顧客交渉まで指南>に続きます。
(紹介するエピソードは実際にあったものですが、プライバシー等に配慮し一部変更を加えています。)
【筆者プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお):株式会社FeelWorks代表取締役。青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授。人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業のFeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。
近著に、『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)、『部下を活かすマネジメント「新作法」』(労務行政、2023年9月)、『Z世代の早期離職は上司力で激減できる!』(FeelWorks、2024年4月)など。