近年、共働き世帯が増えたこともあり、新たな富裕層が出現している。
博報堂は、世帯収入1500万円以上の生活者を「インカムリッチ」と名づけ、2024年5月31日、「新富裕層『インカムリッチ』生活者調査」を発表した。
どういう人々なのか。よく言われる「パワーカップル」とどう違うのか。調査担当者に聞いた。
「今の生活を楽しむために、お金をかけたい」
博報堂の調査(2023年12月1日~6日)は全国20~69歳の男女2451が対象。そのうち、世帯年収1500万円以上のインカムリッチ1424人をサンプルにとり、全体の人々と比較した。
その結果、インカムリッチの割合は全体の2.4%で、最も多いのは男女ともに40代で、次いで30代となった【図表1】。職業は、過半数(51.0%)が会社員で、約3割(28.0%)が上場企業に勤務していた。
保有資産をみると、インカムリッチは「預貯金」のほか、約4割が「自宅の土地」や「株式」「生命保険」などを持っている【図表2】。
資産運用と投資に対する意識を聞くと、「短期的な利益より、中長期でのリターンを重視」人が多い。なかでも、「ネット証券などを通じて自分で投資」「貯蓄よりも投資にお金を回したい」と回答した人が、全体より10~20ポイント多く、投資への意欲が非常に高い【図表3】。
生活やお金に対する意識はどうか。「健康や心の豊かさのためにお金をかけている」「今の生活を楽しむためにお金をかけたい」と回答した人が、全体より10ポイント以上高い。
特に20~30代女性は「自分へのご褒美のために贅沢をしたい」という意識が全体の2倍近くに達した【図表4】。
インカムリッチの上にいる「ウェルスリッチ」とは?
J‐CASTニュースBiz編集部は、博報堂の調査担当者に話を聞いた。
――インカムリッチというのは博報堂のネーミングですが、「インカムゲイン」(投資した資産を保有していることで得られる収入)のイメージがありますね。
よく言われるパワーカップルとはどう違うのですか。たとえばニッセイ基礎研究所では、「パワーカップルとは、夫婦それぞれが年収700万円以上である」ことが指標としていますが。
調査担当者 インカムリッチは、パワーカップルだけでなく、未婚の方も含めた「世帯年収1500万円以上の生活者」を示しています。
従来の富裕層(純金融資産1億円以上)のウェルスリッチも増加していますが、同時にパワーカップルなど、純金融資産は多くないが、消費ポテンシャルの高い高所得層が増えている現状もあり、これらの新しい富裕層を私たちはインカムリッチと呼んでいます。
現役世代、子育て世代である「インカムリッチ」層は、資産形成はまだ途上ですが、ローンを組んで都市部のマンションを買う、輸入車を買う、子どもの教育にお金をかける...など。実生活では積極的に消費をしており、有形・無形の資産を形成しているこのような世帯は、東京など都市部を中心に今後増えていくと考えられます。
一方、ウェルスリッチは資産家一族、リタイアした富裕層シニアなども多く含まれるイメージです。
――なるほど。しかし、インカムリッチは40代が一番多く、次いで30代がボリュームゾーンになっていますね。一般的イメージでは、50代の年収が一番多いと思いますが。
調査担当者 所得の高い女性が増加し、かつ共働き世帯の標準化が進んでいることで、高所得世帯の増加と若年化が進んでいます。
「インカムリッチ」=世帯年収1500万円を基準としたため、現役世代の中でも特に共働き世帯・子育て世帯が多く含まれ、これらの年代がボリュームゾーンになっていると考えています。
若い女性「自分へのご褒美に金を使う」2倍の高さ
――インカムリッチの投資に対する意識や、資産運用の考え方をみると、「ネット証券などを通じて自分で投資する」という人が非常に多いことが興味深いです。
調査担当者 金融リテラシーの向上が大きいと思います。ネットバンキングやネット証券などAPPでの金融取引にも慣れており、特にネット証券は新NISAで大きく利用が増大していくと考えられます。
あとは、コスパ・タイパ意識が強いことも挙げられます。ウェルスリッチ(純金融資産1億円以上)のような大きな運用資金があるわけでもないので、手数料が低く、APPなどでクイックに取引できるメリットが大きいのだと思います。
――インカムリッチの消費意識も個性的ですね。「今の生活を楽しむためにお金を使いたい」という考え方がほかの層より1.5倍高く、特に20代~30代の人は「自分へのご褒美のためにお金を使いたい」という人がほかの層より2倍近くいます。
調査担当者 将来の見通しが不安定であることもあるとは思いますが、現役世代がメインということもあり、今の自分や家族の生活に投資をすることが、将来の自分や家族の生活の充実につながるという感覚が強いと思われます。
若い女性の場合は、所得水準が高い(可処分所得が多い)という点が大きいと思います。インカムリッチ層の中でも子育て世帯などは、住居、教育等への消費は積極的ですが、ブランド品の購入など贅沢消費を潤沢にできるほど余裕があるわけではありません。
また、ブランド品の消費意欲は男女差が顕著で、男性は低調です。インカムリッチ層の中でも、相対的に個人の可処分所得が高く、ブランド品の消費意欲が旺盛なキャリア女性層を多く含む20~30代女性では、特に「贅沢消費」の意欲が強いのかもしれません。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)